昨日の米在庫統計は原油ニュートラル、石油製品ブルな内容であった。原油は輸入と稼働率が不安定なことからハリケーン襲来の状況を踏まえて週替わりで増減を繰り返している。ガソリンはピークシーズンが終了する中、低い在庫で何とかシーズンを乗り切った様子。結局ハリケーン等の突発事象がなければ、20日程度の在庫でも問題ないということなのだろう。しかしながら一部予報でハリケーンシーズンが年末にずれ込む、との指摘もあり予断を許さない。ディスティレートはULSDの需要が堅調である。このことは「気温に関係なく消費されるディスティレートの需要が堅調である」事を示しており、ディスティレート全体の消費量は冬場の気温に関わらず大きく減少することはなかろう。引き続きクラックスプレッド水準が低いため生産は不安定に推移し、在庫の絶対水準やFSCが低い以上、ディスティレートは堅調な推移が予想される。では個別に少し詳しく見てみよう。

 原油は生産が前週比小幅増加したものの、輸入が減少したことや稼働率の回復から、在庫は+1.1MBと先週から増加幅を削った。このコラムでも度々指摘している通り、原油在庫は輸入量の増減と稼働率の変動に振らされ、不安定な状況が継続している。通常であれば製品在庫の水準が低さから稼働率が上がっても(というより上げなければならない)良い状況であるが、クラックスプレッドの縮小に伴う稼働率引き上げのインセンティブが低下していることから、各地区の稼働率はP5を除いて過去5年平均を下回っており、全体でも過去5年の最低水準にすら届いていない。生産は5,064KBD(+37KBD)と小幅増加、輸入は稼働率の低下もあってP4、P5を除いて減少し、10,253KBD(前週比▲189KBD、▲1.3MBの在庫減少要因)となったことから総供給量は15,317KBD(前週比▲152KBD)と減少に転じた。稼働率は87.5%と前週比+0.6%となったが、その殆どが規模の大きなP3での稼働率回復によるものであり、P1,P2はむしろ大幅に低下している。結局のところ過去5年の最低水準を下回る稼働率となっている。この結果、在庫は前週比+1.1MBの321.8MBとなった。FSCは在庫増加はあったものの稼働率が上昇したことから21.1日と先週から0.1日分も減少している。例年通りであれば稼働率の上昇とともに冬場に向けた在庫積み増しが発生することから、原油在庫は減少してもおかしくないのだが、今年は上記の通り輸入・稼動状況の不安定さから逆に在庫が増加するに至っている。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は18,393KBD(+265KBD)と増加に転じた。引き続きP2、P3の製油所の稼動に問題が残っていることを示唆している。

 ガソリンは予想に反して小幅な在庫減少となった。生産は稼働率の低下・得率の低下によって8,698KBD(前週比▲24KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)と小幅減少、輸入は1,154KBD(前週比+102KBD)と増加したことから、総供給が9,852KBD(前週比+78KBD、前週比で+0.5MBの在庫増加要因)となった。需要は先週同様、略例年通りのペースで減少(単週ベースで9,120KBD(過去5年の最高水準9,287KBD)、4週平均ベースで9,249KBD(過去5年の最高水準9,377KBD)、4週平均ベースの需要減少は前週比▲1.2%と、例年の▲1.3%程度。+0.8MBの在庫の増加要因)であったことから、小幅な在庫減少となった。FSCは20.7日と先週から0.2日分増加したが、引き続き過去5年の最低水準21.6日に満たない。この低い在庫水準は昨年のレベルを大きく下回るレベルであるが(昨年が過去5年の最低)、去年もこの程度の在庫水準でピークシーズンを乗り切っていることから、ハリケーン等の災害がなければなんとなかる在庫水準であると言える。しかし、ハリケーンセンター等の予測を見るに、ラニーニャ現象の影響からハリケーンシーズンが年末にずれ込む見通しであること、ガソリン価格が原油価格の高騰によって高止まっているため、悪戯に在庫水準を例年よりも高くするわけに行かないこと、ウィンターグレードへの移行が控えていることが在庫水準を低水準に据え置かせる要因となっており、決して安泰な在庫水準であるとはいえない。よって引き続き、ガソリンの中期的な見通しはブル、ということにならざるを得ない。

 ディスティレート在庫は予想に反し、大幅な減少となった。稼働率の低下、得率の悪化(▲0.6%)によって生産が前週比▲57KBDの4,076KBDとなったこと、輸入が192KBD(前週比▲122KBD)と比較的大幅に減少したことから、総供給が4,266KBD(前週比▲179KBD)と減少した上、需要が大幅に増加(単週ベース4,275KBD(前週比+208KBD)、4週平均ベース4,110KBD(前週比+15KBD))したことから、▲1.2MBと大幅な在庫減少となった増加となった。尚、今回のディスティレート在庫の減少は、生産・輸入・在庫の仕上がりを見るに、ULSD需要が堅調であることによるものであると考えられる(つまり、気温に関係なく需要は堅調な可能性が高い、ということ)。通常は冬場を控えて10月末ごろまで在庫積み増しが発生し、その後グレード変更を伴いながら在庫水準を削る展開になるのだが、今年もその例年通りのパターンとなった。しかしながら需要が過去5年の最高水準を上回っている一方で在庫水準は例年並の水準であり、FSCは33.1日(前週比▲0.4日)と過去5年平均である35.1日を下回るレベルとなっている。言い換えれば相対的に例年よりも低い在庫水準のまま冬場に突入する可能性が高まった、ということである。昨年は記録的な暖冬であったことからこの在庫水準でも概ね問題がなかったが、今年も気温が昨年と同じように暖かいとは誰もいえない。よって、引き続き冬場に向けて在庫を積み増せるかどうかが今後の最大の焦点となるが、原油高騰に伴うマージン悪化によってそれは難しいと見ておくべきである。