統計速報(2008年7月23日発表分)

 先週の米在庫統計は原油ブル、ガソリンベア、ディスティレートニュートラルな内容であった。今回の統計でも注目材料は需要とSPRの積み増し動向である。需要は特にガソリンについて頭打ち感が強い。米可処分所得に占めるエネルギー支出の限界点に価格水準が上昇していることが背景である。SPRの積み増しであるが、これからハリケーンシーズンに備えいずれの原油・製品でも採用されていると考えられるFSCを過去5年のレンジに維持する、といったディフェンシブなオペレーションが有効に機能しなくなるリスクは大きい。そのため今週も米政府はSPRを積み増ししており、SPRの在庫水準は過去最高に達している。個別の内容について詳しく見てみよう。
 原油は生産が横ばい、輸入が大幅な減少となったことから、稼働率が大幅に低下したものの在庫減少となった。生産は5,165KBD(+26KBD)。輸入はP1,P3で大幅に減少(▲507KBD、▲635KBD)したことから合計で前週比▲985KBDの9,806KBDとなった。輸入量は過去5年平均(10,105KBD)を若干下回るレベル。結果、総供給量は14,971KBD(前週比▲959KBD、▲6.7MBの在庫減少要因)となった。稼働率は▲2.4%の大幅低下。P1〜P5まで全て大幅な稼働率の低下が見られており、ピークシーズンであるこの時期のこの大幅な稼働率低下は極めて珍しい(P1から順に、▲5.5%、▲2.3%、▲1.7%、▲1.8%、▲2.5%)。結局全体で87.1%(+2.9MBの在庫増加要因)となった。計算上在庫は前週比で+3.8MBの+6.8MB(先週の在庫増加は+3.0MB)となるが、計算とは裏腹に在庫は▲1.6MBと減少している。結果、在庫水準は295.3MB(過去5年平均レベル317.5MB)となった。在庫の減少はP1,P2で顕著であった(各々▲1.6MB、▲1.5MB)。FSC稼働率の大幅低下の影響で前週比+0.4日の19.3日と改善、過去5年の平均である19.8日は下回るものの、過去5年平均と比較して需要対比で同程度の在庫をに数量をコントロールするオペレーションを維持していることが伺える(尚、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としている)。つまり、価格が高く、下落の可能性がある中で需要以上に在庫を積み増す必要性がないとの判断が働いている可能性が高い。しかしながら、以前として過去5年平均レベルを下回る在庫水準であることから、中東不安勃発、ハリケーン直撃といった予見不能なリスク発生時には十分に対応ができる水準ではないといえる。現状、石油の需要自体がフォーカスされているが、夏場の供給途絶のリスクを念頭から消し去るべきではなかろう。こうした夏場の不測に備え、引き続きSPRの積み増しが進んでいる。今週もSPRは706.2MB(前週比+116KB)となっている。民間レベルで保有できないリスクを政府が一部肩代わりを始めている可能性は十分にありえる。こうした政府セクターのこうした買いは相場を押し上げる効果を持つ(補助金と同じ)ことから動向には注意したいところ。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は19.5MB(前週比▲364KB)と、再び減少傾向に転じている。

 ガソリン在庫は大幅な在庫増加となった。稼働率の大幅な悪化があったものの得率が大幅に改善したことから生産が大幅に増加、輸入が大幅な増加となったことから、需要が略横ばいであったため大幅な在庫増加となった。生産は稼働率の悪化はあったものの、得率の改善(+2.5%)の影響でP1以外の地区では生産が回復、+153KBDの9,210KBDと過去5年の最高水準(9,228KBD)まで生産が回復するに至った。ガソリンクラックの縮小がガソリン生産の増加を抑制している動きが見られていたが、同時に在庫水準(FSCベース)を過去5年平均程度に維持するオペレーションが採択されていると見られ、今週は得率が大幅な改善となっている(60.1%。過去5年の最高は57.7%)。輸入は主要なP1で+122KBDと増加したことから全体で前週比+129KBDの1,145KBDとなった。結果、総供給は10,355KBD(前週比+282KBD、前週比で+2.0MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,342KBD(前週比+2KBD、過去5年平均9,429KBD、在庫増減要因とならず)、直近需要ベースで9,342KBD(前週比▲2KBD、過去5年平均9,429KBD)となり、過去5年平均レベルを下回る状態が続いている。引き続き需要は前年比マイナス(▲3.2%)の状態が継続。前週比では±0.0%(例年+0.1%)と再び季節性を無視した需要の頭打ち感が見られている。明らかに需要の増加、というより絶対量が頭打ちになっている(9.4MBD程度)感じである。弊社分析でも「可処分所得に占めるエネルギー関連支出」が過去最大だったのは1980年前半の8%で、足許の価格水準では既にこのレベルに達していると考えられ、しばらくは需要は頭打ちとなる可能性が高いと考える。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+2.0MBの+4.4MBの在庫増加(先週+2.4MB)となるが、+2.8MBの在庫増加に留まった。ガソリンのピークシーズンであることから、ドライブシーズン前に積み上げた在庫が減少していくタイミングであるが、在庫の増加は継続している。在庫増加の内訳は、Conventional(+1.1MB)、Blending(+1.8MB)である。この結果、FSCは23.2日と大幅改善、過去5年平均の22.2日を大きく上回っている。ガソリンは価格高騰に伴う需要の絶対量の頭打ちと、価格高騰に伴う在庫圧縮の動きの両要因で、最終需要を見極めつつ過去5年平均レベルを維持するオペレーションが採られるものと考えられることから当面は現状レベルで緩やかに価格が低下していくものと考えている。今回の統計も先週に続きベアな内容であった。

 ディスティレート在庫も大幅な予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率の悪化が得率の改善を上回ったため減少、輸入も大幅な減少となったこと、需要が略横ばいであったことから先週に続き、在庫増加となった。生産は稼働率が悪化、得率が改善(+0.1%)したことから4,625KBD(▲111KBD)と減少した。生産の内訳はULSD、ディーゼルオイルとも減少(各々▲86KBD、▲62KBD)した。尚、生産レベルは過去5年平均の4,009KBDをはるかに上回り、過去5年の最高水準である4,249KBDをも上回っている。世界的なディーゼルオイル需要の高まり、クラックマージンの高止まりが生産を増加させている一因であろう。得率は過去5年の最高水準である26.3%をはるかに上回る30.2%となっている。輸入は前週比▲48KBDの102KBDとなっている。この結果、総供給は4,727KBD(前週比▲159KBD、▲1.1MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,191KBD(前週比+9KBD、過去5年平均3,960KBD、在庫増減要因とならず)、直近需要は4,077KBD(前週比▲49KBD、過去5年平均3,984KBD)と、4週平均ベース需要は前年比プラスの+3.5%となった。この時期はガソリン需要が増加しディスティレートティレート需要が落ち込むはずななのだが、完全にその季節パターンが逆転してしまっている。前週比ベース需要増加率も+0.2%と例年の▲0.7%を大きく上回る状態となっており、こちらも完全に季節性が壊れた状態が続いている。引き続き米国内のディスティレート需要は旺盛であるといえる。全体のバランスでは前週比▲1.1MBの+2.1MB(先週の在庫増加は+3.2MB)となるところであるが、+2.4MBの在庫増加となった。総在庫は128.1MBとなり、過去5年平均レベル121.1MBを上回るレベルを維持している。在庫増加の内訳はULSDが+0.6MB、ディーゼルが+0.6MB、ヒーティングオイルが+1.2MB。FSCは30.6日(前週比+0.5日)と過去5年平均水準である30.6日を維持するオペレーションが続いている。ディスティレートはクラックマージンの改善もあって安定した生産が続いているが、価格高騰の影響もあって在庫圧縮の動きが見られるのも事実であり、ガソリン同様にFSCベースで過去5年水準を維持させるオペレーションが今後も継続することとなろう。需要が比較的堅調である以上、来週以降もディスティレート中心の生産が続き、ガソリン在庫が減ることになるのではなかろうか。統計としてはニュートラルな内容であった。