統計速報(2008年7月30日発表分)

 先週の米在庫統計は原油ニュートラル、ガソリンブル、ディスティレートニュートラルな内容であった。先週このコラムで指摘したとおり、ガソリン在庫が減少し、ディスティレート在庫が増加した。これは偏にFSCベースで過去5年平均を維持する、というオペレーションが継続していることによるものである。今のところ各石油製品の需要は比較的横ばいで推移していることから、このまま行くと来週もガソリン在庫が減少し、ディスティレート在庫は増加することになると考えている。今回の統計でも注目材料は需要とSPRの積み増し動向である。需要は特にガソリンについて頭打ち感が強い。米可処分所得に占めるエネルギー支出の限界点に価格水準が上昇していることが背景である。但し景気減速懸念を受けて価格が先行して下落していることから、需要の減少にはブレーキがかかると見られ、当面石油製品需要は横ばいで推移すると考えている。また今週もSPRの積み増しが行われていることは留意したい。個別の内容について詳しく見てみよう。

 原油は生産が横ばい、輸入が再び増加ことから、稼働率が横ばいであったことから在庫水準は略変わらずとなった。生産は5,160KBD(▲5KBD)。輸入はP3で大幅に増加(+467KBD)したことからその他の全ての地区で減少したものの合計で前週比+199KBDの10,005KBDとなった。輸入量は過去5年平均(10,339KBD)を若干下回るレベル。結果、総供給量は15,165KBD(前週比+194KBD、+1.4MBの在庫増加要因)となった。稼働率は+0.1%の小幅な改善。基本的にピークシーズンであるにも関わらず需要が低迷していることやクラックマージンの縮小傾向もあって、稼働率は毎週のことながら安定していない。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、▲0.8%、▲0.7%、±0.0%、▲0.5%、+1.4%)。結局全体で87.2%(在庫増減要因とはならず)となった。計算上在庫は前週比で+1.4MBの▲0.2MB(先週の在庫減少は▲1.6MB)となるが、ほぼ計算どおりの▲0.1MBとなった。結果、在庫水準は295.2MB(過去5年平均レベル316.6MB)となった。在庫の減少はP1,P5で顕著であった(各々▲0.8MB、▲0.7MB)が、輸入量の増加もあってP3で+1.0MBとなっている。FSCは先週から変らず19.3日、過去5年の平均である19.9日は下回るが引き続き、過去5年平均と比較して需要対比で同程度の在庫をに数量をコントロールするオペレーションを維持していることが伺える(尚、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としている)。しかし足許原油の価格が夏場を前にしているにも関わらず軟化傾向にあることから、価格下落を警戒した在庫の積み増し中断の動きは徐々に緩和するものと考えられる。とはいっても今のところ依然として過去5年平均レベルを下回る在庫水準であることから、中東不安勃発、ハリケーン直撃といった予見不能なリスク発生時には十分に対応ができる水準ではないといえる。景気減速に伴う需要の減少が強くフォーカスされているが、夏場の供給途絶リスクの高まりは少なくとも後3ヶ月は忘れるべきではない。こうした夏場の不測に備え、引き続きSPRの積み増しが進んでいる。今週もSPRは706.3MB(前週比+116KB)となっている。民間レベルで保有できないリスクを政府が肩代わりを始めている可能性が高い。政府セクターの買いは相場を押し上げる効果を持つ(補助金と同じ)ことから動向には注意したいところ。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は18.8MB(前週比▲721KB)と、再び減少傾向に転じておりイールドカーブバックワーデーション化に寄与すると見ている。
 
 ガソリン在庫は大幅な減少となった。稼働率が変らず得率が大幅に悪化したことから生産が大幅に減少、輸入も減少に転じ、需要が略横ばいであったため大幅な在庫増加となった。生産は稼働率が横ばいの中、得率が悪化(▲1.1%)の影響でP1、P5以外の地区で生産が悪化した。この結果▲165KBDの9,045KBDとなった。しかし、過去5年平均(8,851KBD)を上回るレベルを維持している。このコラムで指摘している在庫水準(FSCベース)を過去5年平均程度に維持するオペレーションが採択されていると見られ、今週はここ数週間ガソリンの得率を引き上げすぎていたことから若干調整が入ったようだ(59.0%。過去5年の最高は58.0%)。輸入は主要なP1で▲272KBDと再び減少に転じたことから全体で前週比▲180KBDの965KBDとなった。結果、総供給は10,010KBD(前週比▲345KBD、前週比で▲2.4MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,375KBD(前週比+28KBD、過去5年平均9,411KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,468KBD(前週比+126KBD、過去5年平均9,416KBD)となり、直近需要は過去5年平均レベルを回復した。引き続き需要は前年比マイナス(▲3.2%)の状態が継続。前週比では+0.3%(例年+0.1%)と増加に転じている。足許の相場下落が消費を押し上げたと考えられる。しかしこのままの価格水準が続けばガソリン消費の絶対量は9.4MBD程度で頭打ちになるだろう。弊社分析でも「可処分所得に占めるエネルギー関連支出」が過去最大だったのは1980年前半の8%で、足許の価格水準では既にこのレベルに達していると考えられ、しばらくは需要は頭打ちとなる可能性が高いと考える。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲2.6MBの+0.2MBの在庫増加(先週+2.8MB)となるが、計算とは裏腹に▲3.5MBの大幅な在庫減少となった。ガソリンのピークシーズンであることから、ドライブシーズン前に積み上げた在庫が減少していくタイミングであるが価格の急落の影響もあって倉庫出し石油製品が増加したことによるものと考えている。在庫減少の内訳は、Conventional(▲2.7MB)、Blending(▲0.8MB)となっている。この結果、FSCは22.8日と▲0.4日悪化、しかしながら過去5年平均の22.1日を維持できている。ガソリンも最終需要を見極めつつFSCベースで過去5年平均レベルを維持するオペレーションが採られるものと考えられることから、当面は現状レベルで緩やかに価格が低下していくものと考えている。今回の統計はブルな内容であった。

 ディスティレート在庫は増加した。生産は稼働率が横ばいながら得率が改善したことから増加、輸入も小幅な増加となり、需要が増加したものの先週に続き在庫増加となった。生産は稼働率が横ばい、得率が大幅に改善(+0.6%)したことから4,724KBD(+99KBD)と増加した。生産の内訳はULSD、ディーゼルオイルとも増加(各々+63KBD、+59KBD)した。尚、生産レベルは過去5年平均の3,955KBDをはるかに上回り、過去5年の最高水準である4,168KBDをも上回っている。世界的なディーゼルオイル需要の高まり、クラックマージンの高止まりが生産を増加させている状況は続いている。得率は過去5年の最高水準である26.2%をはるかに上回る30.8%となっている。輸入は前週比+19KBDの121KBD(過去5年平均295KBD、過去5年最低194KBD)となっている。国内生産量が増加していることから、殆ど輸入の必要性がないものと見られる。この結果、総供給は4,845KBD(前週比+118KBD、+0.8MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,169KBD(前週比▲22KBD、過去5年平均3,926KBD、+0.2MBの在庫増加要因)、直近需要は4,199KBD(前週比+122KBD、過去5年平均3,878KBD)と、4週平均ベース需要は前年比プラスの+2.3%となった。前週比ベース需要増加率は▲0.5%と例年の▲0.4%を下回った。景気減速の影響に因る需要減少の可能性と価格の下落に伴う需要の下支えが拮抗しているようだ。全体のバランスでは前週比+1.0MBの+3.4MB(先週の在庫増加は+2.4MB)となるところであるが、+2.4MBの在庫増加にとどまった。総在庫は130.5MBとなり、過去5年平均レベル122.8MBを上回るレベルを維持している。在庫増加の内訳はULSDが+1.0MB、ディーゼルが+0.1MB、ヒーティングオイルが+1.2MB。FSCは31.3日(前週比+0.7日)と過去5年平均水準である31.3日を維持するオペレーションが続いている。ディスティレートはクラックマージンが悪化し始めていることから徐々に増産のスピードが鈍化するものと見られるが、ガソリン同様にFSCベースで過去5年水準を維持させるオペレーションが今のところ継続しており最終需要の動向を見ながら在庫は一進一退の動きとなろう。統計としてはベアな内容であった。