統計速報(2008年9月17日発表分)

 先週の米在庫統計は原油ブル、石油製品ベアな内容であった。ハリケーンの頻発に伴う原油供給の不足が原油在庫の水準を押し下げ、石油製品の供給を減少させているが、米金融不安に起因する景気の著しい悪化懸念が消費者のマインドを冷え込ませているものと見られ、供給の減少を上回る需要の減少が起きている。未曾有の金融危機の影響で、ハリケーンによる供給不足が解消されているのはなんとも皮肉である。足許、金融市場、景気そのものに焦点が当たっていることから、「統計自体がブルな状態」は続いているものの、市場がこの統計の内容を価格に織り込むにはしばらく時間がかかると考える(まずは景気問題ばかりに目が行き、後に「結局在庫が足りない」ということに気づく)。詳しく見てみよう。

 原油は生産が先週の低い水準を維持、輸入も同様であり、稼働率の大幅低下があったものの市場予想を上回る在庫減少となった。
 生産は3,988KBD(▲96KBD)と先週からさらに減少。ハリケーンアイクの上陸によってメキシコ湾の生産が事実上停止の状態が継続しているためである。ハリケーンの影響でP1,P2,P3の輸入減少が大きく、輸入も前週比▲71KBDの8,510KBDとなった。文句なく過去5年の最低水準を下回るレベルである。結果、総供給量は12,498KBD(前週比▲167KBD、▲1.2MBの在庫減少要因)となった。原油の供給が減少する中、ハリケーンの条理機の影響で東側地区の製油所の稼動停止が相次ぎ、稼働率は大幅に低下し、前週比▲0.9%の77.4%となった(+1.1MBの在庫増加要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、▲6.9%、▲5.4%、+1.6%、▲1.2%、+0.8。計算上在庫は前週比で▲0.1MBの▲5.9MB(先週の在庫減少は▲5.8MB)となるが、計算を上回る▲6.3MBの在庫減少となった。結果、在庫水準は291.7MB(過去5年平均レベル306.1MB)となった。在庫の減少はP5を除く全ての地区で発生しており、特に供給がメキシコ湾から行われている南東地区(P1、P2の一部とP3)での在庫減少が顕著(各々▲0.8MB、▲2.2MB、▲4.1MB)であった。FSCは21.4日(▲0.2日)と在庫要因で悪化している。しかしながらもし例年の稼働率レベルを回復した場合、18.0日分の在庫しかなく、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としているが、来週以降、在庫の水準は有事のバッファがない状態に突入する可能性が高い。略毎週ハリケーンが発生している状況下では安全な在庫水準とは言えず、供給途絶に伴うアップサイドのリスクが常に存在していることが確認されている。今週もSPRは増減していない(707.2MB、前週比変らず)。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は16.1MB(前週比▲1,599KB)と大幅に減少した。統計としては明確に市場予想比ブルな内容であった。

 ガソリン在庫は予想を小幅下回る在庫減少に留まった。生産は得率が若干改善したものの稼働率の悪化で前週比大幅に減少、輸入もハリケーンの影響で減少、例年よりも早いペースで需要が季節要因で減少したことから、市場予想比を下回る在庫減少に留まった。
 生産は稼働率の悪化が得率が改善(+0.1%)を完全に相殺したことから、▲72KBDの8,326KBDとなった。過去5年平均(8,684KBD)を下回るレベルである。ハリケーンアイクの影響で稼動が停止していたP1,P2での生産減少が顕著であった。輸入はP1で▲208KBDと減少したことから前週比▲144KBDの977KBDとなった。結果、総供給は9,303KBD(前週比▲216KBD、前週比で▲1.5MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,208KBD(前週比▲129KBD、過去5年平均9,419KBD、+0.9MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで8,907KBD(前週比▲183KBD、過去5年平均9,243KBD)となり、過去5年最低水準をとうとう下回ってしまった。米景気悪化の影響で消費は明らかに影響を受けており、前年比ベースの需要の減少は▲2.7%、前週比需要伸び率は▲1.4%(例年▲1.1%)と例年のペースを上回る需要減少が観測されている。米信用市場の悪化、金融機関の業績悪化の影響も消費に明らかな悪影響を与えているようだ。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲0.6MBの▲7.1MBの在庫減少(先週▲6.5MB)となるが、計算を大きく下回る▲3.3MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional(▲2.7MB)、Blending(▲0.7MB)となっている。この結果、FSCは20.1日と▲0.1日悪化、過去5年平均の21.0日を大きく下回る状況である。最終需要動向が不透明なため引き続き過去5年平均程度にFSCを維持するオペレーションが持続すると考えられるが、継続的に襲来するハリケーンの影響で石油製品在庫はFSCベースで過去5年平均を維持するのが難しい状況が11月ごろまでは続くことになると考える。このことは石油製品価格の下支え要因となるので引き続き、ハリケーン等の天災情報には注意しなければならない。これは景気悪化以前の問題である。但し今回は統計としては市場予想比ベアな内容であった。

 ディスティレート在庫も市場予想を下回る在庫減少に留まった。生産は稼働率、得率の悪化(▲0.6%)により3,800KBD(▲121KBD)と減少。生産の内訳はULSD▲83KBD、ディーゼルオイル+8KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の4,027KBDを大きく下回ってしまった。これは偏にハリケーンの影響によるものであり上、生産減少はハリケーンの進路であったP1,P2のもの(各々▲4KBD、▲144KBD)である。輸入は前週比+14KBDの131KBD(過去5年平均329KBD、過去5年最低278KBD)と、供給に殆ど寄与していないことから、私はこの数値をこの数週間殆ど見ていない。この結果、総供給は3,931KBD(前週比▲107KBD、▲0.7MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,040KBD(前週比▲90KBD、過去5年平均3,984KBD、+0.6MBの在庫増加要因)、直近需要は3,728KBD(前週比▲167KBD、過去5年平均3,943KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲2.1%と先週に続いてマイナス成長となり、前週比ベース需要増加率も▲2.2%と例年の▲0.8%を大きく下回っている。ディスティレート需要が増加する時期であるが、燃費のよさから輸送燃料として用いられてきたディーゼルオイルの需要が、米金融不安の拡大の影響により明確に季節性を破壊しながら減少し始めている。全体のバランスでは前週比▲0.1MBの▲1.4MB(先週の在庫減少は▲1.3MB)となるところであるが、▲0.8MBの在庫減少にとどまった。総在庫は129.6MBとなり、過去5年平均レベル134.2MBを下回る水準を維持している。在庫変化の内訳はULSDが▲0.1MB、ディーゼルが▲0.5MB、ヒーティングオイルが▲0.2MB。FSCは32.1日(+0.5日)と需要要因で大幅に改善した。しかしながら過去5年平均水準である33.8日を大きく下回る状況が続いており、ハリケーン襲来が頻発する状況下、需要自体が堅調ではないものの消費に見合うだけの安定した在庫水準が維持できているとは言いがたい。ガソリン同様、引き続き天気予報とマクロ経済動向に注目せねばならない状況が続くことになろう。統計としては市場予想比ベアな内容であった。