統計速報(2008年9月24日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、石油製品ブルな内容であった。ハリケーンの頻発に伴う原油供給の不足と稼働率の低下に伴う石油製品供給の不足が需要の減少をはるかに上回ったためである。現在米国は深刻な供給減少が観測されており、石油製品需給はルーズではない。但し需要が例年を上回るペースで減少しており辛うじてバランスしている、という印象である。先週に続き、金融市場、景気そのものに焦点が当たっていることから、「統計自体がブルな状態」は続いているものの、市場がこの統計の内容を価格に織り込むにはしばらく時間がかかると考える(まずは景気問題ばかりに目が行き、後に「結局在庫が足りない」ということに気づく)。詳しく見てみよう。

 原油は生産が先週の低い水準からさらに悪化、輸入も大幅に減少、しかし稼働率が大幅に悪化したことから、市場予想を下回る在庫減少に留まった。生産は3,932KBD(▲56KBD)と先週からさらに減少。ハリケーンアイクの上陸によってメキシコ湾の生産が停止していたためである。ハリケーンの影響でP3の輸入減少が大きく(▲1,601KBD)、全体で前週比▲1,367KBDの7,143KBDとなった。文句なく過去5年の最低水準(9,128KBD)を下回るレベルである。カトリーナ被害の教訓から、ハリケーン襲来時には稼働率を下げ、輸入プラットフォームも停止させ、従業員を徹底避難させることが浸透していることに伴う供給量の減少である。結果、総供給量は11,075KBD(前週比▲1,423KBD、▲10.0MBの在庫減少要因)となった。ハリケーンの影響でP3での製油所が稼動停止、稼働率は大幅に低下し、前週比▲10.7%の66.7%となった(+13.2MBの在庫増加要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+5.5%、+2.1%、▲25.0%、+1.5%、+1.1%。計算上在庫は前週比で+3.2MBの▲3.1MB(先週の在庫減少は▲6.3MB)となるが、計算を下回る▲1.5MBの在庫減少にとどまった。結果、在庫水準は290.2MB(過去5年平均レベル302.3MB)となった。在庫の減少はP2、P5以外の地区で発生しており、特に供給がメキシコ湾から行われている南東地区での在庫減少が顕著(各々P1から順に、▲0.6MB、+0.4MB、▲3.1MB、▲0.2MB、+2.1MB)であった。FSCは24.7日(+3.3日)と稼働率要因で改善しているが、もし例年の稼働率レベルを回復した場合、18.1日分の在庫しかなく、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としているが、来週以降稼働率が回復する過程で、在庫の水準は有事のバッファがない状態になると考える。今週の統計で特筆すべきはSPRの放出である。数量は小幅ながら1.4MBが緊急放出されたようだ。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は15.3MB(前週比▲801KB)と大幅に減少した。この在庫水準の低さがマーケットスクィーズを引き起こす原因となったようだ(9月22日の相場大幅上昇)。統計としては市場予想比ベアな内容であったが、原油の在庫水準自体は極めて低く、需給はタイトな状態が続いている。

 ガソリン在庫は予想を大幅に上回る在庫の減少となった。生産は得率が大幅に改善したものの稼働率が大幅に悪化したことから前週比大幅に減少、輸入が大幅に増加し、需要が例年を上回るペースで減少したが、結局大幅な在庫減少となった。
 生産は稼働率の悪化が得率が改善(+6.6%)を完全に相殺したことから、▲372KBDの7,954KBDとなった(過去5年平均8,871KBD、過去5年の最低水準8,486KBD)。これは季節性を無視して2002年から11番目の水準の低さである。ハリケーンアイクの影響でP3の稼働率が著しく低下し、P3での生産が▲454KBDとなったためである。輸入はP1で+278KBDの1,019KBDとなったこと(過去5年の最高水準)から前週比+234KBDの1,211KBDとなった(過去5年の最高水準は1,098KBD)。結果、総供給は9,165KBD(前週比▲138KBD、前週比で▲1.0MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,041KBD(前週比▲168KBD、過去5年平均 9,298KBD、過去5年の最低 9,091KBD、+1.2MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで8,741KBD(前週比▲166KBD、過去5年平均 9,102KBD、過去5年の最低 8,636KBD)となり、過去5年最低水準を下回ってしまった。米景気悪化の影響で消費は明らかに影響を受けており、前年比ベースの需要の減少は▲3.4%、前週比需要伸び率は▲1.8%(例年▲1.2%)と例年のペースを上回る需要減少が観測されている。米信用市場の悪化、金融機関の業績悪化の影響も消費に明らかな悪影響を与えていると見て良い。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+0.2MBの▲3.1MBの在庫減少(先週▲3.3MB)となるが、計算を大きく上回る▲5.9MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional▲3.1MB、Blending▲2.6MBとなっている。この結果、FSCは19.8日と▲0.3日悪化、過去5年平均の21.3日、過去5年の最低20.2日を下回る状況である。最終需要動向が不透明なため引き続き在庫の積み増しには積極的ではないと考えられるが、ハリケーンの相次ぐ襲来で米国の石油製品在庫の水準は危機的なレベルまで低く、最終需要が弱いことから辛うじて需給が維持されているが、SPRが放出されていることからも分かるように「景気悪化で需要は弱いものの、供給が不足」している状態が続いており、石油製品価格を高止まらせることとなろう。ハリケーンの影響はあと1ヶ月程度続くと予想される。これは景気悪化以前の問題である。今回は統計としては市場予想比ブルな内容であった。

 ディスティレート在庫も市場予想を上回る在庫減少となった。生産は稼働率、得率の悪化(▲0.1%)により3,285KBD(▲542KBD)と大幅に減少。生産の内訳はULSD▲397KBD、ディーゼルオイル▲1518KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の3,943KBD、過去5年の最低である3,588KBDを大きく下回ってしまった。これは偏にハリケーンの影響によるものである。輸入は前週比+68KBDの199KBD(過去5年平均319KBD、過去5年最低176KBD)と、供給に殆ど寄与していない。この結果、総供給は3,457KBD(前週比▲474KBD、▲3.3MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は3,926KBD(前週比▲114KBD、過去5年平均3,964KBD、+0.8MBの在庫増加要因)、直近需要は3,732KBD(前週比+4KBD、過去5年平均3,940KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲4.1%と先週に続いてマイナスとなり、前週比ベース需要増加率も▲2.8%と例年の▲0.5%を大きく下回っている。ディスティレート需要が増加する時期であるが、燃費のよさから輸送燃料として用いられてきたディーゼルオイルの需要が、米景気悪化懸念により明確に季節性を破壊しながら減少を続けている。全体のバランスでは前週比▲2.5MBの▲3.3MB(先週の在庫減少は▲0.8MB)となるところであるが、予想を上回る▲4.2MBの在庫減少となった。総在庫は125.4MBとなり、過去5年平均レベル135.4MB、過去5年の最低である128.3をも下回る水準となっている。在庫変化の内訳はULSDが▲3.4MB、ディーゼルが▲1.0MB、ヒーティングオイルが+0.2MB。FSCは32.0日(▲0.1日)と在庫要因で小幅悪化した。これは過去5年平均水準である34.2日を大きく下回る状態であり、ガソリン同様、ディスティレート在庫の水準は危機的レベルにある。但し予想よりもはるかに弱い石油製品需要が辛うじて需給を維持させている、といったところだろうか。統計としては市場予想比ブルな内容であった。