統計速報(2008年10月1日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ベア、ガソリンベア、ディスティレートブルな内容であった。米景気の失速に伴う輸送需要の減少が顕著となりつつあり、マーケットのセンチメントもベアに傾いているのだが、相次ぐハリケーンの影響と景気悪化に伴う資金調達難から在庫の圧縮の動きが見られ、景気後退局面にあり、需要が減少しているにも関わらずFSCベースでは十分な在庫がない状態である。マクロ経済指標に市場が支配されているが、気づかないうちに石油製品の需給は米国で逼迫する可能性が出てきていることは認識しておくべきであろう。詳しく見てみよう。

 原油は生産がさらに減少、輸入はハリケーンの影響がなくなったことから大幅に増加、稼働率も改善したものの例年のレベルを大きく下回る水準であったことから、市場予想を上回る在庫増加となった。生産は3,839KBD(▲93KBD)と先週からさらに減少。ハリケーンの影響がなくなったことからP3の輸入が大幅に増加(+2,611KBD)、全体で前週比+1,846KBDの8,989KBDとなった。これによりやっと過去5年の最低水準(8,426KBD)を上回るまで回復した。カトリーナ被害の教訓から、ハリケーン襲来時には稼働率を下げ、輸入プラットフォームも停止させ、従業員を徹底避難させることが浸透していることに伴う供給量の減少である。結果、総供給量は12,828KBD(前週比+1,753KBD、+12.3MBの在庫増加要因)となった。ハリケーンの影響でP3での製油所が稼動停止していたが、最も規模の大きいP3で稼働率が大きく改善したことから全体で72.3%と先週から5.6%回復している(前週比▲6.9MBの在庫減少要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、▲1.8%、▲2.3%、+12.7%、+1.7%、+0.5%。計算上在庫は前週比で+5.4MBの+3.9MB(先週の在庫減少は▲1.5MB)となるが、計算を上回る+4.3MBの在庫増加となった。結果、在庫水準は294.5MB(過去5年平均レベル300.7MB)となった。在庫の増加は輸入が大幅に増加したP3で顕著(+6.2MB)であったが、その他の地区では軒並み減少している。(各々P1から順に、▲0.3MB、±0.0MB、+6.2MB、▲0.1MB、▲1.5MB)であった。FSCは23.1日(▲1.6日)と稼働率要因で悪化している。もし例年の稼働率レベルを回復した場合、18.7日分の在庫しかなく、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としているが、稼働率の改善とともにこの数値は悪化していくものと見られ、需要が旺盛でない中で在庫の水準は有事のバッファがない状態になると考える。今週も一部、SPRが放出されている。数量は先週と同じく1.4MBが緊急放出された。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は14.5MB(前週比▲758KB)と大幅に減少した。この在庫水準の低さがマーケットスクィーズを引き起こす原因となったようだ(9月22日の相場大幅上昇)。統計としては市場予想比ベアな内容であったが、原油の在庫水準自体は極めて低く、引き続き需給はタイトな状態が続いている。

 ガソリン在庫は予想を大幅に上回る在庫の増加となった。生産は稼働率と得率の改善によって前週比大幅に増加、輸入も堅調、需要が例年を上回るペースで減少していることから市場予想を上回る在庫増加となった。
 生産は稼働率の改善と得率の改善(+0.6%)を受けて+736KBDの8,690KBDとなった(過去5年平均8,780KBD、過去5年の最低水準8,398KBD)。ハリケーンアイクの影響でP3の稼働率が著しく低下していたが、今週の統計ではP3の稼働率が改善、P3での生産が+528KBDとなったことが生産回復の主因である。輸入はP1で▲104KBDとなったが、P3で+112KBD、P5で+83KBDとなったこともあって、全体で前週比+50KBDの1,261KBDとなった(過去5年平均は1,017KBD)。結果、総供給は9,951KBD(前週比+786KBD、前週比で+5.5MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで8,867KBD(前週比▲174KBD、過去5年平均 9,176KBD、過去5年の最低 8,9291KBD、+6.7MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで8,730KBD(前週比▲11KBD、過去5年平均 9,007KBD、過去5年の最低 8,690KBD)となり、過去5年最低水準近辺での推移となっている。価格の急落が多少消費を下支えしたようである。しかし米景気悪化の影響で消費は明らかに影響を受けており、前年比ベースの需要の減少は▲4.1%、前週比需要伸び率は▲1.9%(例年▲1.2%)と例年のペースを上回る需要減少が観測されている。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+6.7MBの+0.8MBの在庫増加(先週▲5.9MB)となるが、略計算どおりの+0.9MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional+0.6MB、Blending+0.1MBとなっている。この結果、FSCは20.3日と+0.5日改善しているが、過去5年平均の21.8日、過去5年の最低20.4日を下回る状況である。最終需要動向が不透明なこと、金融不安を背景とした資金調達難から在庫の圧縮がさらに行われる可能性が高いことから各事業体とも在庫の積み増しには積極的ではないと考えられるが、ハリケーンの相次ぐ襲来で米国の石油製品在庫の水準は危機的なレベルまで低下しており、最終需要が弱いことから辛うじて需給が維持されている状態である。先週もコメントしているが、SPRが放出されていることからも分かるように「景気悪化で需要は弱いものの、供給が不足」している状態が続いており、石油製品価格を高止まらせることとなろう。ハリケーンの影響はあと1ヶ月程度続くと予想される。統計としては市場予想比ベアな内容であった。

 ディスティレート在庫は市場予想を上回る在庫減少となった。生産は稼働率、得率の改善(+1.2%)により3,678KBD(+420KBD)と大幅に増加。生産の内訳はULSD+261KBD、ディーゼルオイル+50KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の3,923KBDを下回り、過去5年の最低である3,610KBD近辺での推移となっている。これは偏にハリケーンの影響から回復していない製油所がまだ存在(特にグスタフの影響を受けたP1,P2)しているkとによるものである。輸入は前週比▲4KBDの195KBDと過去最低水準近辺をうろうろしており(過去5年最低185KBD)、供給に殆ど寄与していない。この結果、総供給は3,873KBD(前週比+416KBD、+2.9MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は3,811KBD(前週比▲115KBD、過去5年平均3,958KBD、+0.8MBの在庫増加要因)、直近需要は3,888KBD(前週比+156KBD、過去5年平均3,987KBD、過去5年最低3,857KBD)と、4週平均ベース需要はなんと前年比▲7.3%と大幅な悪化となり、前週比ベース需要増加率も▲2.9%と例年の+0.4%を大きく下回ることとなった。ガソリンから燃費の良いディーゼルへのシフトが徐々に進んでいたが、米景気悪化により明確に季節性を破壊しながら減少を続けている。米国の輸送需要は完全にマイナストレンドに入ったと考えておくべきであろう。全体のバランスでは前週比+3.7MBの▲0.5MB(先週の在庫減少は▲4.2MB)となるところであるが、予想を上回る▲2.4MBの在庫減少となった。総在庫は123.1MBとなり、過去5年平均レベル136.1MB、過去5年の最低である126.8MBをも下回る水準となっている。在庫変化の内訳はULSDが▲2.2MB、ディーゼルが▲1.5MB、ヒーティングオイルが+1.3MB。FSCは32.3日(▲0.3日)と需要要因で小幅改善した。これは過去5年平均水準である34.4日を大きく下回る状態であり、ガソリン同様、ディスティレート在庫の水準は危機的レベルにある。但し予想よりもはるかに弱い石油製品需要が辛うじて需給を維持させている。統計としては市場予想比ブルな内容であった。