統計速報(2008年12月24日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、製品ベアな内容であった。原油、ガソリンは概ね、FSCを過去5年のレンジ内に収めるオペレーションが続いているのだが、ディスティレートに関しては需要がULSDなどの高価な燃料を中心に減速し始めている可能性が高く、在庫が大きく積みあがるなど比較的長い期間で見た場合に、構造的に価格押し下げられる可能性も高まってきている。少なくとも現在の市場は流動性がない上、マイナスの材料に過敏に反応し易い環境にあるためこ昨晩の統計は明確にベアであると捕らえられたようである。詳しく見てみよう。


 原油は生産が横ばい、輸入が大幅に減少、稼働率が大幅に改善したことから市場予想を上回る在庫減少となった。生産は4,972KBD(+5KBD)と「過去5年の最低水準近辺で」安定している。輸入は9,118KBD(▲555KBD)と大幅に減少し、過去過去5年最低レベル(8,902KBD)に迫った。P3での輸入増加が顕著である(▲1,060KBD)。結果、総供給量は14,090KBD(▲550KBD、前週比3.9MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP1,P4で悪化、その他の地区で改善している。稼働率は全体で84.7%(+0.7%、前週比0.7MBの在庫減少要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、▲1.7,+0.6,+0.5,▲2.3,+2.4%となっている。価格低下に伴い、在庫の保有がし易い環境になってきたことが材料として挙げられよう。しかし、製油所の稼働率は過去5年の最低である87.3%を依然として下回っている。計算上在庫は前週比で▲4.5MBの▲4.01MBの在庫減少(先週の在庫増減は+0.5MB)となるが、実際は▲3.1MBとなった。結果、在庫水準は318.2MB(▲3.1MB)となった。在庫は輸入量が減少したP3での減少が顕著(▲6.8MB)であったが、P2在庫が輸入と稼働率要因で+3.6MBとなったことが相殺した。在庫の変化はP1から順に、+0.2MB, +3.6MB, ▲6.8MB, ▲0.4MB, +0.4MB となっている。FSCは21.3日(▲0.4日)と在庫要因で悪化している。概ね原油在庫の水準は過去5年レンジの上限で推移している。今週もSPRは放出されなかった。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は28.7MB(+1.2MB)と大幅な増加となっており、需要の急速な減少で現物での受取が減少している可能性がある。イールドカーブコンタンゴ化が進行するであろう。統計としてはニュートラル〜ベアな統計であった。


 ガソリン在庫は予想に反して大幅な増加となった。生産が得率の悪化で減少したものの輸入が増加、需要が横ばいであったためである。生産は稼働率が改善し、得率が▲1.1%と悪化したことから9,090KBD(▲109KBD)となった。季節的に在庫が積み増しされる時期であるため、FSCベースでの在庫水準がやや高くなっているが、総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションが続いており、実は極端な在庫積み増しが行われているわけではない。輸入は1,254KBD(+452KBD)と大幅に増加。結果、総供給は10,344KBD(+343KBD、前週比2.4MBの在庫増加要因)となった。
需要は4週平均ベースで10,344KBD(+343KBD、前週比2.4MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで8,998KBD(+5.75KBD, 前週比0.0MBの在庫減少要因。過去5年平均 9,208KBD, 過去5年最高 9,421KBD, 過去5年最低 8,963KBD)と直近需要の減少が気になるものの、略横ばい。米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は▲3.9%とマイナスの状態が続いているが、前週比需要伸び率は+0.1%(例年+0.3%)と略例年並となっている。
 以上を合計するとバランス上は在庫は+2.4MBの+3.7MBの在庫増加(先週の在庫増減は+1.3MB)となるが、計算を上回る+3.3MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional94.8MB(+12.9MB)、Blending111.7MB(+9.9MB)となっている。この結果、FSCは23.0日(+0.4日)と在庫要因で小幅上昇。しかし、過去5年の最高水準である22.9日と同レベルであり、明らかに本コラムで定義する「安全レベル」まで在庫が積み上がっている状態。最終需要動向は不況とはいいつつも比較的落ち着いており、政府の相次ぐ経済・金融政策の影響で資金繰りへの過度な懸念が若干後退していること、価格水準自体が低くなっていること、季節的に在庫が緩やかに増加する時期であること、から徐々に在庫水準が切り上がってきている。今のところ、「供給の途絶」に伴う価格の急騰リスクはなくなってきていると見ておくべきだろう(政策による景気回復期待による高騰リスクは排除しない)。
但し、更なる経済危機の発生により資金調達に懸念が生じるような場合にはこの限りではない。来週の12月末決算を欧米企業が無事乗り越えられるかどうかが需要である。統計としては明確にベアであった。


 ディスティレート在庫は市場予想と裏腹に大幅に増加した。生産は稼働率が改善し得率が▲1.6%と悪化したことから4,404KBD(▲213KBD)と大幅に減少。生産の内訳はULSD3,133KBD(▲182KBD)、ディーゼルオイル740KBD(+47KBD)、ヒーティングオイル531KBD(▲78KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,315KBDを上回るレベルでの推移が続いているが、最高水準からの乖離が小さくなってきた。燃費を重視したディーゼル車へのシフトでディーゼル需要は堅調であったが徐々に需要が減少し始めていることが生産減少の要因と考えられる。輸入は240KBD(+65KBD)と減少し、過去5年最低水準である249KBDを下回っている。この結果、総供給は4,644KBD(▲148KBD、前週比1.0MBの在庫減少要因)となった。
 4週平均需要は4,644KBD(▲148KBD、前週比1.0MBの在庫減少要因)、直近需要は3,939KBD(+4KBD, 前週比0.0MBの在庫減少要因。過去5年平均 4,181KBD, 過去5年最高 4,404KBD, 過去5年最低 3,937KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲12.2%と大幅な悪化が続き、前週比ベース需要増加率も+0.1%と例年の+1.5%を大きく下回った。恐らく米国内の輸送需要に占めるディーゼルオイルの比率は高まっているものと考えるが、ディスティレート需要の減少は輸送需要の減少を示している可能性が高く、全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。目立った気温低下が報告されていないことも暖房需要減少を示唆している。
全体のバランスでは前週比▲1.1MBの+1.9MBの在庫増加(先週の在庫増減は+2.9MB)となるところであるが、+1.8MBの在庫増加となった。総在庫は135MB(+1.8MB, 過去5年平均 128.2MB, 過去5年最高 133.1MB, 過去5年最低 119.3MB)となり、過去5年最高レベル133.1MBを上回った。製品毎の在庫の内訳はULSDが73.6MB(+14.9MB)、ディーゼルが20.6MB(+2.6MB)、ヒーティングオイルが41.2MB(▲4.8MB)。FSCは34.4日(+0.4日)となった。これは過去5年の最高水準である32.6日を大きく上回る水準であり、安全水準確保を超えて在庫水準は高すぎる状態である。統計としては明確にベアな内容であった。