統計速報(2009年1月14日発表分)

 今回の米在庫統計は「市場予想に対して」原油ブル、ガソリンブル、ディスティレートベアな内容であったが、在庫の「絶対的な状況」は完全にニュートラル〜ベアな内容であったと言える。この数ヶ月間、この在庫統計が「ブルな材料」として捉えられることは殆どなく、金融市場の混乱が継続していることに伴う「裁定取引が行われず、イールドカーブの最適化が行われていない環境下」で非常に特殊な動きをしていると考えられるためだ。総じて景気悪化に伴いベアな状態が続くと考える。詳しく見てみよう。
 原油は生産が横ばい、輸入が大幅に減少、稼働率が上昇したため、先週から在庫増加幅が大幅に減少したものの在庫増加となった。生産は4,917KBD(▲18KBD)と「過去5年の最低水準近辺で」安定している。輸入は9,729KBD(▲756KBD)とP5以外の全ての地区で大幅に減少したが、過去5年の平均レベル(9,634KBD)は上回る水準となっている。結果、総供給量は14,646KBD(▲774KBD、前週比5.4MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP2で悪化、その他の地区で大幅に改善している。稼働率は全体で85.2%(+0.8%、前週比0.8MBの在庫減少要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+4.2,▲5.4,+0.9,+6.6,+4.3%となっている。価格水準の低下とイールドカーブの極端なコンタンゴ化等、在庫の積み増しが行い易い環境にあることが生産を押し上げているようである。しかし、製油所の稼働率は過去5年の最低である89.8%を依然として下回っており、本格的な増産が行われているわけではない。計算上在庫は前週比で▲6.3MBの+0.38MBの在庫増加(先週の在庫増減は+6.7MB)となるが、実際は+1.1MBとなった。結果、在庫水準は326.6MB(+1.1MB)となった。在庫は稼働率が大幅に上昇したP1やP5で大きく減少しているが、それ以外の地区で大幅に増加している。在庫の変化はP1から順に、▲2.5MB, +1.3MB, +3.6MB, +0.2MB, ▲1.5MB となっている。FSCは21.7日(▲0.1日)と稼働率要因で悪化している。概ね原油在庫の水準は過去5年レンジの上限で推移している。今週は66KB程SPRが積み増しされた。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は33.0MB(+0.8MB)と増加が続いており、イールドカーブコンタンゴ化に寄与している。統計としては市場予想比ブルであったものの総じてニュートラル〜ベアな統計であった。
 ガソリン在庫も予想を下回る在庫増加となった。生産が得率の悪化で減少、輸入も減少、しかし需要が減少したため先週から在庫増加幅が縮小した。しかし市場予想を下回る在庫増加に留まっている。生産は稼働率が改善し、得率が▲2.5%と悪化したことから8,813KBD(▲302KBD)となった。季節的に在庫が積み増しされる時期であるため、FSCベースでの在庫水準がやや高くなっているが、総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションが続いている状態。輸入は797KBD(▲55KBD)と小幅減少し、過去5年平均を下回ることとなった。結果、総供給は9,610KBD(▲357KBD、前週比2.5MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,610KBD(▲357KBD、前週比2.5MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで8,930KBD(▲104.25KBD, 前週比0.7MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,166KBD, 過去5年最高 9,331KBD, 過去5年最低 8,747KBD)と直近需要の減少が若干気になるものの、季節要因もあるため不自然な現象ではない。米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は引き続き▲4.2%とマイナスの状態が続いている。以上を合計するとバランス上は在庫は▲1.8MBの+1.6MBの在庫増加(先週の在庫増減は+3.3MB)となるが、計算を上回る+2.1MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional95.2MB(+0.4MB)、Blending117.3MB(+12.8MB)となっている。この結果、FSCは23.9日(+0.5日)と需要・在庫両要因で小幅上昇。しかし、過去5年の最高水準である23.8日と同レベルであり、明らかに本コラムで定義する「安全レベル」を大きく上回る水準まで在庫が積み上がっている状態。最終需要動向は不況とはいいつつも比較的落ち着いており、政府の相次ぐ経済・金融政策の影響で資金繰りへの過度な懸念が若干後退していること、価格水準自体が低くなっていること、季節的に在庫が緩やかに増加する時期であること、から徐々に在庫水準が切り上がってきている。今のところ、「供給の途絶」に伴う価格の急騰リスクは殆どないと見ておくべきだろう。政策による景気回復期待による高騰リスクは経済環境の悪化を映じ、現時点においては低いと見ている。統計としては市場予想比ブルな内容であるが、生産/需要/在庫の関係自体がベアな状態を持続している。

 ディスティレート在庫は市場予想を大きく上回る在庫増加となった。生産は稼働率が改善し得率が+0.5%と改善したことから4,666KBD(+116KBD)と小幅増加。生産の内訳はULSD3,438KBD(+82KBD)、ディーゼルオイル595KBD(▲98KBD)、ヒーティングオイル633KBD(+132KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,489KBDを上回るレベルでの推移が続いている。燃費を重視したディーゼル車へのシフトでディーゼル需要は比較的堅調であり、原油急落に伴うクラックスプレッドの拡大もあって高い生産レベルを維持している。輸入は215KBD(▲92KBD)と減少し、過去5年最低水準である131KBDは上回っているものの引き続き低い水準である。この結果、総供給は4,881KBD(+24KBD、前週比0.2MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,881KBD(+24KBD、前週比0.2MBの在庫増加要因)、直近需要は4,096KBD(▲109KBD, 前週比0.8MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,193KBD, 過去5年最高 4,477KBD, 過去5年最低 3,689KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲8.5%と大幅な悪化が続いている。米国内の輸送需要に占めるディーゼルオイルの比率は高まっているものと考えるが、ディスティレート需要の減少は輸送需要の減少を示している可能性が高く、消費の季節性が維持されているという点で比較的需要は堅調であると言えるが、全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。全体のバランスでは前週比+0.9MBの+2.7MBの在庫増加(先週の在庫増減は+1.8MB)となるところであるが、+6.3MBの在庫増加となった。総在庫は144MB(+6.3MB, 過去5年平均 132.6MB, 過去5年最高 141.0MB, 過去5年最低 121.1MB)となり、過去5年最高レベル141.0MBを上回っている。製品毎の在庫の内訳はULSDが83.4MB(+40.3MB)、ディーゼルが20.2MB(+1.5MB)、ヒーティングオイルが40.6MB(+2.5MB)。FSCは35.2日(+2.4日)となった。これは過去5年の最高水準である37.5日には届かないものの、非常に高い水準であり、安全水準確保を超えて在庫水準は高すぎる状態である。統計としては明確にベアな内容であった。


(ひとりごと)
何か、去年の年末からヒット件数が上がって、もうすぐ50,000件に達します。結構すごいことだ、これは。