統計速報(2009年1月29日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ベア、石油製品ニュートラルな内容であった。石油製品の最終需要は季節性を取り戻して比較的落ち着いた推移となっているが、前年比4%を超える需要減少が継続しており、生産・在庫の調整が上手く機能していない状態となっている。特にクッシング在庫の急速な積みあがりに代表されるように、足許の需給は緩みがちになっている。原油・石油製品の増減の方向性に関しては余り違和感がないものの、原油需要の落ち込みに示されるように最終需要は弱く、当面はベアな統計が続くことになろうか。詳しく見てみよう。
 原油は生産が横ばい、輸入が減少したものの稼働率が大幅に低下したため、市場予想を大幅に上回る在庫増加となった。生産は5,045KBD(▲7KBD)と「過去5年の最低水準近辺で」安定している。輸入は9,708KBD(▲158KBD)とP1、P4以外の全ての地区で増加した。足許の輸入量は過去5年の平均レベル(9,595KBD)であり、米国内での原油需要が減少していることが伺われる。結果、総供給量は14,753KBD(▲165KBD、前週比1.2MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP1、P3以外で改善しているものの、P1、P3の規模が大きく先週に続いて大幅な稼働率低下となった。稼働率は全体で82.5%(▲1.0%、前週比1.0MBの在庫増加要因)。但し、季節的には稼働率が低下する時期であるので稼働率自体が低下するのは不自然ではない。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、▲2.7,+0.8,▲1.7,+2.0,+0.2%となっている。価格水準の低下とイールドカーブの極端なコンタンゴ化等、在庫の積み増しが行い易い環境にあるものの最終需要の弱さと在庫水準自体の高さから、製油所の稼働率は過去5年の最低である86.2%を依然として下回っている。計算上在庫は前週比で▲0.2MBの+5.92MBの在庫増加(先週の在庫増減は+6.1MB)となるが、実際は+6.2MBとなった。結果、在庫水準は338.9MB(+6.2MB)となった。在庫は稼働率が大幅に低下したP1やP3で大きく増加しており、減少したのは輸入が減少し、稼働率が落ちなかったP5のみであった。在庫の変化はP1から順に、+2.0MB, +1.1MB, +4.2MB, +0.1MB, ▲1.1MB となっている。FSCは23.3日(+0.6日)と在庫・稼働率両要因で改善している。今回の増加で過去5年レンジの上限をさらに大きく上回ってしまった。今週は733KB、SPRが積み増しされた。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は33.5MB(+0.3MB)と増加が続いており、イールドカーブコンタンゴ化にさらに寄与することとなろう。統計としては明確にベアな内容であった。

 ガソリン在庫は予想を下回る在庫増加にとどまった。生産が稼働率・得率要因で減少、輸入が横ばいである一方、需要が略例年並の減少に留まったためである。生産は稼働率が悪化し、得率が+0.1%と改善したことから8,660KBD(▲69KBD)となった。季節的に在庫が積み増しされる時期であるため、FSCベースでの在庫水準が高くなっているが、総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションが続いている状態。輸入は1,154KBD(▲0KBD)と横ばい。過去5年平均を上回ることとなった。結果、総供給は9,814KBD(▲69KBD、前週比0.5MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,814KBD(▲69KBD、前週比0.5MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで8,760KBD(▲114KBD, 前週比0.8MBの在庫増加要因。過去5年平均 8,963KBD, 過去5年最高 9,168KBD, 過去5年最低 8,517KBD)となった。米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は引き続き▲4.4%とマイナスの状態が続いているが、需要の前週比での変化率は▲1.3%と例年の▲1.3%と変わらずであった。以上を合計するとバランス上は在庫は+0.3MBの+6.8MBの在庫増加(先週の在庫増減は+6.5MB)となるが、計算を大きく下回る▲0.1MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional97.5MB(+8.7MB)、Blending121.4MB(▲9.8MB)となっている。この結果、FSCは25.1日(+0.3日)と需要・在庫両要因で小幅上昇。過去5年の最高水準である24.2日からの乖離幅が大きくなってきており、明らかに本コラムで定義する「安全レベル」を大きく上回る水準まで在庫が積み上がっている状態。最終需要動向は不況とはいいつつも比較的落ち着いており、政府の相次ぐ経済・金融政策の影響で資金繰りへの過度な懸念が若干後退していること、価格水準自体が低くなっていること、季節的に在庫が緩やかに増加する時期であること、から徐々に在庫水準が切り上がってきている。「供給の途絶」に伴う価格の急騰リスクは殆どないと見ておくべきだろう。尚、オバマ政権誕生に伴う高騰リスクは経済環境の悪化を映じ、現時点においては低いと見ている。統計としてはニュートラルな内容であった。

 ディスティレート在庫は略予想通りの在庫減少となった。生産は稼働率が悪化し得率が+0.4%と改善したことから4,170KBD(+17KBD)と小幅増加。生産の内訳はULSD2,991KBD(▲62KBD)、ディーゼルオイル689KBD(+48KBD)、ヒーティングオイル490KBD(+31KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,104KBDを再び上回った。燃費を重視したディーゼル車へのシフトでディーゼル需要は比較的堅調であり、高い生産レベルを維持している。輸入は264KBD(▲98KBD)と減少し、過去5年最低水準である242KBDは上回っているものの引き続き低い水準である。この結果、総供給は4,434KBD(▲81KBD、前週比0.6MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,434KBD(▲81KBD、前週比0.6MBの在庫減少要因)、直近需要は4,078KBD(▲13KBD, 前週比0.1MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,116KBD, 過去5年最高 4,282KBD, 過去5年最低 3,932KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲4.8%と大幅な悪化が続いているが、前週比▲0.3%(例年▲0.7%)と、前週との比較ベースでは需要は比較的堅調である。季節性が維持されているという点で比較的需要は堅調であると言えるが、全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。全体のバランスでは前週比▲0.5MBの+0.3MBの在庫増加(先週の在庫増減は+0.8MB)となるところであるが、▲1.0MBの在庫減少となった。総在庫は144MB(▲1.0MB, 過去5年平均 132.5MB, 過去5年最高 142.6MB, 過去5年最低 123.8MB)となり、過去5年最高レベル142.6MBを上回っている。製品毎の在庫の内訳はULSDが84.8MB(+0.9MB)、ディーゼルが21.8MB(+5.2MB)、ヒーティングオイルが37.3MB(▲13.2MB)。FSCは35.3日(▲0.1日)となった。これは過去5年の最高水準である35.2日と略同じレベルであり、安全水準確保を超えて在庫水準は高すぎる状態である。統計としてはニュートラルな内容であった。