統計速報(2009年7月15日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、石油製品ベアな内容であった。ここ数週間、原油は過去5年レンジにFSCを収めるオペレーションが継続しており、これは上手に機能している。しかし、石油製品は景気の先行き不透明感と金融市場の不安定さを背景に需要が頭重く推移(というより、ディスティレート需要は減少している)している。年初に予想した、秋口にかけての景気悪化(二番底付け)の裏づけはここにあるのだが、引き続き石油製品の消費は緩慢である。詳しく見てみよう。

 原油は生産が横ばい、輸入が増加、稼働率が改善したことから先週に続き大幅な在庫減少となった。生産は5,171KBD(▲0KBD)と過去5年の略下限での推移となっている。輸入は9,549KBD(+325KBD)と東側での減少が続き、西側での輸入が増した。顕著である。輸入は引き続き過去5年の最低水準で推移しており、米国原油需要が低迷していることが分かる。結果、総供給量は14,720KBD(+325KBD、前週比2.3MBの在庫増加要因)となった。製油所の稼働率は先週と反対でP1、P5で大幅に悪化したが、その他の地区で大幅に改善したことから稼働率は全体で87.9%(+1.3%、前週比1.3MBの在庫減少要因)。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、▲5.3%,+2.0%,+3.4%,+6.7%,▲3.7%となっている。計算上在庫は前週比で+1MBの▲1.94MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲2.9MB)となるが、若干計算よりも在庫の減少幅は大きく▲2.8MBとなった。結果、在庫水準は344.5MB(▲2.8MB)となった。在庫はP2を除く全ての地区で減少している。在庫量の変化はP1から順に、▲1.1MB, +0.5MB, ▲1.8MB, ▲0.2MB, ▲0.2MB となっている。FSCは22.2日(▲0.5日)と悪化。この結果、原油在庫の水準はFSCベースで過去5年レンジ内に納まることなり、原油に関して言えば適正な在庫が確保されていると言える。今週はSPRは680KB増加している。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は30.8MB(+0.6MB)と先週に続き増加、イールドカーブコンタンゴ化の材料となろう。統計としてはブルな内容であった。

 ガソリン在庫は予想を上回る在庫増加となった。稼働率が改善したが得率が大幅に低下したことから生産が減少したものの、需要が減少したことから先週に続き市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が改善し、得率が▲2.6%と悪化したことから8,956KBD(▲298KBD)となった。輸入は931KBD(▲276KBD)と大幅に増加し、過去5年レンジの下限を再び下回るに至っている。結果、総供給は9,887KBD(▲574KBD、前週比4.0MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,887KBD(▲574KBD、前週比4.0MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,144KBD(▲47.75KBD, 前週比0.3MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,447KBD, 過去5年最高 9,597KBD, 過去5年最低 9,273KBD)となった。需要の前年比での減少率は小幅な水準に留まっており、ドライブシーズン中でもあり需要は比較的堅調な推移を続けていたが、今週は前年比ベースの需要の減少が▲1.9%、前週比での変化率は▲0.5%(例年+0.3%)と減少している。景気の先行きに対する不透明感は完全に払拭されていない状態である。価格の急速な上昇が需要を冷え込ませた可能性が高く、再び価格が上昇すれば需要は夏場のピークを境に減少することになるだろう。以上を合計するとバランス上は在庫は▲3.7MBの▲1.8MBの在庫減少(先週の在庫増減は+1.9MB)となるが、計算とは裏腹に+1.4MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional84.0MB(▲4.6MB)、Blending128.9MB(+15.2MB)となっている。この結果、FSCは23.5日(+0.3日)と先週に続き上昇し、引き続き過去5年の上限レンジを超えてしまった。今後の需要に関しては引き続き経済統計、特に今月末の米GDPを受けた株等の金融市場動向に振らされる展開になると予想している。統計としてはFSCの上昇もあって、先週に続きベアな内容であった。
 ディスティレート在庫は大幅な在庫増加となった。生産は稼働率が改善し得率が▲0.3%と悪化したことから4,034KBD(+4KBD)と先週と略変わらず。生産の内訳はULSD3,003KBD(+23KBD)、ディーゼルオイル578KBD(+19KBD)、ヒーティングオイル453KBD(▲38KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最低水準近辺。在庫の著しい積み上がりを受け、生産調整を余儀なくされているが、今週も先週と同様得率の調整で生産調整を行ったようだ。輸入は159KBD(▲62KBD)と減少し、過去5年の下限に低下。基本、在庫水準が高すぎるため海外からディスティレートを輸入する必要性は殆どないと行っても良かろう。この結果、総供給は4,193KBD(▲58KBD、前週比0.4MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,193KBD(▲58KBD、前週比0.4MBの在庫減少要因)、直近需要は3,280KBD(+13.75KBD, 前週比0.1MBの在庫減少要因。過去5年平均 4,088KBD, 過去5年最高 4,167KBD, 過去5年最低 3,929KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲21.3%と先週から減少幅を拡大した。前週比ベースではさすがに+0.4%(例年▲0.2%)とプラスになってはいるが、明らかに需要に減速感が出てきている。全体のバランスでは前週比▲0.5MBの+3.2MBの在庫増加(先週の在庫増減は+3.7MB)となるところであるが、+0.6MBの在庫増加となった。総在庫は159MB(+0.6MB, 過去5年平均 121.7MB, 過去5年最高 129.9MB, 過去5年最低 116.7MB)となり、過去5年最高レベル129.9MBを遥かに上回っている。世界的にディーゼルオイルの在庫水準は高く輸送需要が減少しているといって良い。当面は、原油価格が上昇する以外にディスティレートの買い材料はない。当面は新規手がかり材料待ちで、方向感が出にくい展開が続くと予想される。7月末の米GDP発表を受けた金融市場動向、各国中央銀行の金融政策動向によって変動する通貨レートの動きに注目したいが、ファンダメンタルズの弱いディスティレートは頭重い推移が続くことになると考えている。製品毎の在庫の内訳はULSDが92.0MB(▲1.3MB)、ディーゼルが21.4MB(+1.6MB)、ヒーティングオイルが45.8MB(+3.6MB)。FSCは48.6日(▲0.0日)となった。これは過去5年の最高水準である31.5日をはるかに上回るレベルであり、多過ぎであることは、いまさらコメントする必要もないだろう。統計としては市場予想比で若干ブルであったが、統計自体は引き続き明確にベアな状態である。