統計速報(2009年9月2日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、ガソリンニュートラル、ディスティレートベアな内容であった。回復が進まない石油製品需要を背景として石油製品在庫が積みあがっているが、今週は原油生産、輸入が回復(といっても過去5年レンジを下回る)、稼働率が上昇したことから石油製品在庫は増加している。秋にかけて欧州の製油所が定修に入ることもあり、若干多目に現物を手当てしていると見られるが、そもそも在庫の水準が高いことから多めに手当てする必要が本当にあるのか疑問である。今後は著しく積み上がったディスティレートのウィンターグレードへの転換が無事進むだろうか、ということが課題となるだろう。ガソリンにも同様のことが起きると予想している。詳しく見てみよう。
 原油は生産が増加、輸入も増加したが、稼働率が大幅に改善したこともあって引き続き在庫減少となった。生産は5,244KBD(+71KBD)と過去5年の平均レベルを回復。輸入は9,576KBD(+351KBD)とP1、P2を除く地区、特にP3で増加となった。これに伴い輸入数量は前週比で大幅に増加しているものの、引き続き過去5年レンジよりも低い水準である。引き続き米国の石油製品需要の回復速度が緩慢であり、不必要な原油が輸入されていないものと考えられる。結果、総供給量は14,820KBD(+422KBD、前週比3.0MBの在庫増加要因)となった。製油所の稼働率はP4,P5で低下したが、それ以外の地区では改善しており、全体で87.2%(+3.8%、前週比3.8MBの在庫減少要因)。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、+11.0%,+2.2%,+4.1%,▲1.3%,▲2.9%となっている。計算上在庫は前週比で▲0.7MBの▲0.53MBの在庫減少(先週の在庫増減は+0.1MB)となるが、略計算どおりの▲0.4MBとなった。結果、在庫水準は343.4MB(▲0.4MB)となった。在庫は稼働率が10%超の改善となったP1で顕著であるが、稼働率が悪化したP5の在庫増加がこれを総裁している。在庫量の変化はP1から順に、▲1.1MB, ▲0.1MB, ▲0.0MB, ▲0.1MB, +1.0MB となった。FSCは22.3日(▲0.8日)と在庫、稼働率両要因で大幅に低下。しかし、原油在庫の水準はFSCベースで過去5年レンジを上抜けた状態が続いている。原油在庫もFSCベースで過去5年の適正レベルを上回る在庫水準となっており、余剰の状態が続いている。今週もSPRは変わらず。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は31.2MB(▲0.6MB)と減少、イールドカーブのフラット化が進むこととなろう。統計としては先週と同じくニュートラルな内容であった。

 ガソリンは稼働率が改善したことから、得率が悪化したものの生産が大幅に増加、輸入が減少、需要が増加したことからから大幅な在庫減少となった。生産は稼働率が改善し、得率が▲1.1%と悪化したことから9,157KBD(+138KBD)となった。輸入は878KBD(▲224KBD)と減少、5年レンジの下限での推移が続いている。結果、総供給は10,035KBD(▲86KBD、前週比0.6MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで10,035KBD(▲86KBD、前週比0.6MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,185KBD(+69.75KBD, 前週比0.5MBの在庫減少要因。過去5年平均 9,517KBD, 過去5年最高 9,634KBD, 過去5年最低 9,421KBD)となった。需要の前年比での減少率は▲2.71%とマイナスの幅を小幅縮小、前週比での変化率は+0.77%(例年▲0.10%)と回復しているが、あくまでこの数値は製油所などからの「出荷」の数量を擬似的に需要とみなしているものであり、明確に需要の増加であるか否かは来週の統計を確認する必要があろう。景気は最悪期は脱したとの見方が強いが、価格水準が引き続きネックとなり需要の戻りは緩慢な状態が続くことが予想される。株価の急騰に伴うマインド改善効果による需要の増加は、株価が下落した場合、あるいはガソリン価格が急騰した場合にはなくなってしまう可能性が高いことから、引き続き株価動向は無視できない展開が続くことになると考えている。以上を合計するとバランス上は在庫は▲1.1MBの▲2.8MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲1.7MB)となるが、▲3.0MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional82.8MB(▲6.5MB)、Blending120.6MB(▲14.0MB)となっている。この結果、FSCは22.3日(▲0.5日)と先週から悪化したが、引き続き過去5年レンジから上離れしている。統計としてはFSCが低下しており、市場予想比でブルな内容であったと考えられるものの、総じてニュートラルな状態は変らない(毎週殆どコメントを変えられない状態)。

 ディスティレート在庫は比較的まとまった在庫増加となった。生産は稼働率が改善し得率が▲0.1%と悪化したことから4,120KBD(+119KBD)と先週から大幅に増加。生産の内訳はULSD3,199KBD(+132KBD)、ディーゼルオイル527KBD(+56KBD)、ヒーティングオイル394KBD(▲69KBD)。尚、生産レベルは過去5年の平均レベルを回復している。在庫の著しい積み上がりと需要の回復が緩慢なことから低水準の生産が続いているが、生産調整可能な範囲を超えていると見られ調整幅は限定されている。輸入は156KBD(+24KBD)と小幅増加。そもそも在庫水準が高すぎるため海外からディスティレートを輸入する必要性は殆どない。この結果、総供給は4,276KBD(+143KBD、前週比1.0MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,276KBD(+143KBD、前週比1.0MBの在庫増加要因)、直近需要は3,393KBD(+17.75KBD, 前週比0.1MBの在庫減少要因。過去5年平均 4,101KBD, 過去5年最高 4,208KBD, 過去5年最低 4,010KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲19.37%、前週比ベースでは+0.53%(例年+0.38%)と小幅な改善が続いている。しかし、そもそも需要のレベルが低すぎることから多少、前週比で需要が回復しても殆ど統計全体に影響が出てこない状態である。全体のバランスでは前週比+0.9MBの+1.6MBの在庫増加(先週の在庫増減は+0.8MB)となるところであるが、+1.2MBの在庫増加となった。総在庫は164MB(+1.2MB, 過去5年平均 131.5MB, 過去5年最高 136.8MB, 過去5年最低 126.4MB)となり、過去5年最高レベル136.8MBを遥かに上回っている。世界的にディーゼルオイルの在庫水準は高く輸送需要は低迷しているといって良く、ディスティレート価格は総じて頭重い推移が続くことになると考えている。製品毎の在庫の内訳はULSDが95.9MB(+12.8MB)、ディーゼルが19.2MB(▲4.4MB)、ヒーティングオイルが48.5MB(▲0.1MB)。FSCは48.2日(+0.1日)となった。これは過去5年の最高水準である33.6日をはるかに上回るレベルであり、多過ぎであることはコメントする必要もないだろう。今後は冬場に向けたウィンターグレードへの転換が順調に進むかどうかがポイントとなろう。引き続き明確にベアな内容であると言える。