技術革新

(商品市況概況)
「技術革新」
 週末のコモディティ市場はまちまちであった。米景気の減速を背景とする需要減少観測が商品市場のセンチメントを悪化させているようである。以前も指摘したが、新聞の論調は「投機資金が市場から退場しているから下がっている」としているのだが、私は全くそうは思わない。もしそうであったとしてもそれは「先々の需要減少観測を見越した売り」によるものであり、相場を押し上げていたのが投機資金であるという考え方には賛同できない。ただ、この一連のエネルギー価格の高騰で分かったことが1つある。それは「現在の技術では150?を超える油を使用して経済活動を継続することは困難である」ということである。つまり、中長期的には新興国の需要が増加すると見られることから価格は上昇の見通しであるが、同時に150?を越えると需要がついてこれずに需要が減少し、下落する、ということである。ここに言う技術とは2種類考えられる。1つは燃費の著しい向上に伴い、同じ熱量を確保するための燃料の使用量が劇的に減少すること(需要サイド)、もう1つは価格高騰を背景に新しいエネルギー技術(供給サイド)が開発されることである。どちらにしてもまだ時間がかかると考えられるが、どちらかといえば需要サイドの改善による消費余力の改善の可能性の方が高いことになろう。
 繰り返しになるが、「価格高騰についていけないので価格が下落している」のであり、投機資金が退場したから下落したのではない、ということだ。投機を悪者に仕立てると産油国が本当に必要なときに増産をしてくれない、というリスクがあるため余り声高にそのことを指摘するべきではないと考える。いずれにしても現在の技術では原油を使わざるを得ないことはほぼ明らかなのだから。

(経済関連ニュース)
・7月韓国CPI 前年比+5.9%(前月改定+5.5%)、市場予想+5.7%。
・6月独小売売上高指数 前月比▲1.4%(前月改定+0.5%(速報比▲0.8%))、市場予想▲0.5%。予想以上の落ち込み。
・7月ユーロ圏製造業景気指数改定 47.4(速報比▲0.1)。
・7月米非農業部門雇用者数 前月比▲51千人(前月改定▲51千人(速報比+11千人))、市場予想▲75千人。
・6月米建設支出 前月比▲0.4%(前月改定±0.0%(速報比+0.4%))、市場予想▲0.3%。
・7月米ISM製造業景況指数 50.0(前月改定50.2)、市場予想49.0。

・ドルは対ユーロで上昇。注目の米雇用統計が市場予想を下回る雇用者数の減少に留まったことから買いが入り、上昇した。その前に発表されていた独小売売上高の悪化もユーロ売りを誘い、一時期の著しいドル売りの環境からは脱したようである。ドルは対円では下落している。
日本株は大幅反落。景気の先行指標となり易い金融機関の業績が悪化、下期以降の貸し倒れ比率の上昇懸念と相俟って下げを助長した。輸出関連、不動産関連株も軟調な推移となった。上海A株は反発、インドSensexは続伸。ブラジルBovespa、FT250、Dax等は欧米経済統計の悪化を受けて大幅な下落となっている。米株は下落。GMの決算が赤字になったことを受けて軟調に推移した。

穀物市場サマリー)
・大豆価格は下落。生産地の降雨の影響で気温が低下、育成を助けると見られたことや、米雇用統計が市場予想を上回る内容であったことからドル高が進行したことが材料視されたようである。イールドカーブは全ゾーンパラレルに低下している。
 CFTC Non-Commercial ポジションはロングポジションが▲18,272枚の123,526枚と大幅に減少、ネットポジションは▲17,463枚の86,699枚の買い越しとなった。インデックスファンドのポジションも大幅に減少し▲1,375枚の148,734枚の買い越しとなっている。"
"・トウモロコシ価格は下落。米雇用統計を受けたドル高の進行と、生産地の降雨に伴う育成条件の改善が材料視された。足許10日移動平均線を上値として頭思い推移が続いており、一時期の悪天候に伴う著しい相場上昇の感じはなくなってきている。5月29日の安値である573?を週末の下落で下回ってしまったことから7月23日の場中につけた543?が次の下値として意識されよう。イールドカーブは全ゾーンパラレルに低下。
 CFTC Non-Commercialポジションは、ロングポジションが▲7,950枚の354,708枚、ショートポジションが▲20,575枚の96,015枚とともに大幅な減少となり、ネットポジションは+12,625枚の258,693枚の買い越しとなっている。インデックスファンドのポジションも減少し、▲14,153枚の372,405枚となっている。穀物市場における建て玉の減少が始まっている。"
"・小麦価格は大幅に上昇。米小麦の週間輸出制約高が前週比+116KMtの726.4KMtとなったことから域内需給の逼迫観測が台頭、上昇となった。しかしながらトウモロコシや大豆が下落していることやドル高の進行もあって引けにかけては上げ幅を削り、結果的に10日移動平均線近辺まで水準を下げて引けている。イールドカーブは全ゾーン小幅上昇。
 CFTC Non-Commercialポジションは、ロング・ショートとも減少し、各々▲3,609枚の76,830枚、▲2,676枚の74,763枚となり、ネットポジションは▲933枚の2,067枚の買い越しとなった。インデックスファンドも▲3,541枚の172,520枚の買い越しと、買い越し幅を縮小している。

非鉄金属関連ニュース)
・金は下落。注目の米雇用統計は市場予想を上回る内容であったことからドルが買われ、金は下落した。しかしながらその後、イランを巡るイスラエル高官の発言を受けて原油価格が高騰、同時に金も有事の金買いで上昇し下げ幅を削る展開となった。但し50日移動平均線を上回ることはできなかった。
 足許金価格のトレンドは若干変化しつつある。米国のみならずユーロ圏の景気が鈍化し始めていることに伴うドルの行き過ぎた下落が修正され始めているためだ。同時に地政学的リスクの高まりや、米景気の後退懸念に伴う恒常的にドルの水準が安いこと、株式市場のパフォーマンスの悪化、といった材料を受けて安全資産であり、市場規模のうちの半分近くが投機資金である金は、質への逃避で物色されることから大幅な下落とはなっていない。尚、一次回帰分析の結果では現在の金価格は一次回帰直線を下回る水準にあり、テクニカルな買いが入ってもおかしくない環境にある(金価格=1,151.4×ドル・ユーロ-868.74)。同時に金価格の上昇が宝飾品需要を落ち込ませている可能性が高く(WGCの発表によればQ108の宝飾需要は前年比▲21.5%の454.4Mtに、世界最大の金消費国であるインドの需要は前年比▲50%の102.1Mtに落ち込んでいる)上値を追いきれないのも事実であろう。よって、ドルの行き過ぎた下落が修正される局面に入っていることも考慮し、弊社は金価格の見通しを若干ブルからニュートラルに引き下げることにした。これは今までこのコラムで主張していたように「当面高値で安定推移」との見方と整合するものである。もし金の見通しをベアに転換するには今しばらくドルのトレンドを経済統計とともに見定める必要があろう。
 NY銀も下落。米雇用統計の発表を受けてドルが強含んだことから大幅に水準を切り下げたが、金がイスラエル・イラン問題で上昇したことを受けて銀価格も上昇、その後30日移動平均線で頭を抑えられて再び下落に転じた。

・NYプラチナ価格は大幅に下落。米雇用統計が市場予想を上回ったことからドルが上昇、それに連れる形で大幅に下落し1月30日の安値1,682?を下回る大幅な下落となった。しかしながら取引後半のイラン・イスラエル問題を受けて原油・金が大幅に上昇、下げ幅を削る展開となった。
 中期的な見通しについてプラチナは、堅調な推移になると考えていたが、自動車向け需要が一時的にでも減退すると見られることから強気姿勢は維持できないと考えている。世界経済への影響が大きい米景気の悪化観測の高まり、GM、フォードといった自動車産業の景況感悪化に反映される自動車販売の減少に伴う触媒需要の減少観測を受け、このコラムで指摘してきた需要減少のリスク要因の影響が大きくなってきている状況だ。また、ドルが行き過ぎた下落から反転し上昇しつつあることもプラチナ価格の下げ要因となりえる。しかしこれは金同様、ドルの上昇トレンドが持続的なものになるかどうか不透明であるため現時点においてはドルの絶対水準の低さに着目し先々相場に与える影響は今時点ではニュートラルであるとしておきたい。
 価格上昇に対するその他のリスクシナリオは、プラチナ価格が上昇し代替品としてパラジウムが代用品として利用されるリスクであろう。今のところディーゼル車向けに用いられているパラジウムは全体の10%程度であり、これは将来的には25%程度まで上昇すると考えている。また地上在庫の多さがこうした不足分を補うと見られることから、結局のところ生産不足分は相殺されニュートラルになる可能性があることも相場の下押し材料となりえよう。しかしながらやはり南アの生産状態が電力価格の上昇やその他のコストの上昇等で不安定であることから、アップサイドのリスクは意識せざるを得ないだろう。しかしそのリスクは依然に比して低下していると考える。
 NYパラジウム価格も下落。米雇用統計を受けたドルの上昇が相場を下押しした。しかしながら引けに掛けての金の上昇を受けてパラジウムも上昇することとなり、下げ幅を削る展開となった。
 今後パラジウムの価格は横ばい推移すると考えている、価格高騰に伴う需要の減少観測でプラチナの価格が下落、自動車触媒や宝飾品のプラチナの代替品としてのパラジウム需要がこの先頭打ちになる可能性があるためだ。また、非常に多い地上在庫(弊社見積もりではチューリッヒに8百万オンス、ロシアに10百万オンスの地上在庫があると見ている)が、価格の上限を押さえることとなろう。

(エネルギー関連ニュース)
イスラエル シャウル・モファズ副首相「イランは核兵器プログラムで需要な天気に向けた軌道にある。全ての選択肢が検討される」
・イラン アフマディネジャド大統領「同国の核プログラムを遅延させるような外部の圧力には、「武力」で対抗する」と発言。

(非鉄金属)
 週末の銅価格は下落した。アジア時間から上海在庫の減少はあっても軟調な推移となっていたが、LME在庫が増加したことから更に下げが加速、一気に200日移動平均線を試す動きとなった。その後発表された米雇用統計が市場予想を上回る内容であったことから買いが入ったが、同時にドル高も進行していたため相殺され、結局大幅に水準を切り下げることとなった。足許、特に米国・欧州を中心とする景気の悪化観測に市場がフォーカスし始めている。コンセントレートの供給懸念はあるものの、LME在庫の増加傾向が持続しており、足許の供給懸念は一時期ほどではなくなってきている。今後は、中国の固定資産投資や鉱工業生産の水準の高さを鑑みれば需要に大きな変更はなく堅調であるといえ、コンセントレートの供給不足もあって大幅な調整の可能性は低いとの見方を変更する必要性は余りかんじないが、ドルが強基調になっていることが相場の上値を限定することになろう。LME在庫は+2,250Mt増加、(FSCは2.8日)、(キャンセルワラント率は9.8%)。売買高は9,930枚(※現時点で確認できる前日の3Mの出来高)。イールドカーブは期近の下げ幅が大きいようだ。C-3(Cash vs 3M Fwd)は173?バックとバック幅を縮小した。
 週末の亜鉛価格は下落した。中国政府が亜鉛に関わる輸出リベートを5%削減したことから堅調な推移となっていたが、ドル高の進行やエネルギーの下落、銅の大幅調整を受けて軟調な推移となった。上海在庫は減少しているが、これは現在LME価格<上海価格であることから裁定取引に伴う在庫の取り崩しが起き易い。一方LME在庫は増加傾向を辿っており、そもそもの地合いは良くない。亜鉛は需要が強いというわけではないが、大生産国であるはずの中国の輸入が増加傾向を辿っており(亜鉛、鉛はオリンピック期間中は10%の生産量削減)、中国の輸出に関わるリベートが削減されたこと、1,800?のコストラインに近づくレベルでは生産減少の可能性が根強いことから下値が堅いのも事実である。LME在庫は+1,050Mt増加、FSCは4.7日(キャンセルワラント率は7.6%)。売買高は5,732枚。イールドカーブは全ゾーンパラレルに大幅に低下している。C-3は7?コンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。
 週末の鉛価格は下落した。LME在庫が大幅に増加したことから軟調な推移となったが、10日移動平均線となる2,170?を下真綿と頃から下げが加速した。しかしながら米雇用統計が市場予想よりも良かったことを受けて買い戻しが入り上昇、その後、同時に進行していたドル高を材料に上げ幅を削る展開となった。中国のオリンピック期間中の生産減少を受けて中国からの精錬鉛のアウトフローは明確に減少し始めており、早晩中国が精錬鉛の輸入国に転じる可能性が高くなってきた(といっても、輸入できる国は豪州が安定していない以上、限られることにはなりますが...)。LME在庫は+1,250Mt増加、(FSCは3.9日、キャンセルワラント率は9.0%ここ数週間でキャンセルワラント率は上昇している。)。売買高は2,910枚。イールドカーブは期近の下げが大きいが全ゾーン低下している。C-3は12?バックとバック幅を縮小した。
 週末のアルミ価格は下落した。エネルギーの軟調推移を受けてアルミも力なく下値を探る動きとなっていたが、夜間に発表された米雇用統計が市場予想を上回る内容であったことからアルミも連れ高となる局面があったが、同時にドル高が進行していることからやはり下げに転じ、結局前日比大幅なマイナスとなった、LME在庫は▲1,750Mt減少、(FSCは9.8日)。(キャンセルワラント率は1.9%)。売買高は14,263枚。イールドカーブは期近を中心に全ゾーン低下している。C-3は50?コンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。
 週末のニッケル価格は下落した。ステンレス需要の頭打ちが指摘されLME在庫が再び増加に転じている中、軟調な推移が続いていたが、夜間に発表された米雇用統計の内容が市場予想を上回ったことからニッケルも一時上昇した。しかしながら同時にドル高が進んだことや株がGMの決算悪化等の影響で下落したことからニッケルも地合いを崩し結局前日比マイナスで引けることとなった。今のところ結果的に18,000?が下値として意識されているが、このまま軟調な推移が続き、10日移動平均線が18,000?を下回ると更に下を見ざるを得ないだろう(2006年6月14日につけた17,050?が意識されようか)。ニッケルに関しては引き続き堅調に推移するであろうとの弊社見通しを小職は支持するが、少なくとも現時点においてはニッケルに関して相場が反転するような材料が出てきていないのが実情である。LME在庫は▲84Mt減少、(FSCは10.3日)、キャンセルワラント率は3.7%。売買高は1,379枚。イールドカーブは期近を中心に全ゾーン低下。手前は完全にコンタンゴとなった。C-3は128?コンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。
 週末の錫価格は下落した。金曜日は100日移動平均線を下回って寄り付くか否かがポイントであったが、あっさりこの水準を下回って寄り付いたことから大幅な下落となった。夜間に発表された米雇用統計は殆ど材料として扱われなかった。これにより今年1月から維持し続けている100日移動平均線を割り込むこととなり、まずは20,000?、次は200日移動平均線となる19,400?が意識されることになると考えている。LME在庫は+20Mt増加、(FSCは5.2日)、キャンセルワラント率は5.4%。売買高は512枚。イールドカーブは全ゾーン略パラレルに低下している。C-3は?フラットとバックからコンタンゴに転じた。

(エネルギー)
 週末の原油価格は上昇した。注目の米雇用統計が市場予想を上回る内容であったことや、イラン・イスラエルの軍事的緊張が高まったためである。この上昇で原油か悪は先月割り込んだ10日移動平均線を回復して堅調な推移となったが、引けに掛けては株価の下落やドル高の進行といったマイナス材料を受けて結局10日移動平均線を上回れずに引けることとなった。ここ数週間、急速に原油の需要の減少に市場がフォーカスしており、特段の材料がなければ下値を探り易い地合いとなっている。つまり、マイナス材料には敏感に反応し易い地合いだ。WTIイールドカーブは期先を中心に上昇している。Brentも同様の相場展開で、同様に100日移動平均線でサポートされて引けている。イールドカーブは期先の上げ幅が大きい。直近限月の騰落率はWTIは+0.8%、Brentは+0.2%。
 石油製品はまちまち。RBOBは雇用統計後に大幅に上昇し、一時一目均衡表の雲の下限となる320?を試す動きとなったが、ドル高の進行もあって原油の上昇が続かず、結局10日移動平均線を下回って引けることとなった。価格高騰の影響で需要、特に米国内需要が9.4MBDを上回ることがなくなっており、以前ほどの力強さは感じられない。イールドカーブは略パラレルに上昇している。直近限月の騰落率は+0.4%。ヒーティングオイルは下落。相場展開はほぼ同じく、米雇用統計とイラン問題を背景に上昇後、ドル高・株安を受けて下落するという動きであったが前日比小幅なマイナスとなった。週半ばの在庫統計で在庫水準が増加したことも材料となっているようだ(とはいってもFSCベースで5年平均を維持するオペレーションによるものだと考えているので、それほど材料視するものではないと思いますが...)。クラックスプレッドの縮小が示すように、一時期の需要増加が落ち着き減少し始めている可能性を示唆している。イールドカーブはまちまちで全ゾーン小幅低下。直近限月の騰落率は▲0.7%。ICEガスオイルも下落。イールドカーブは期近が下落、期先が上昇している。直近限月の騰落率は▲0.2%。