テール・リスク

【商品市況概況】
新興国と商品と」
 昨日の商品価格は軒並大幅な上昇となった。欧州銀行の決算が好調であったことに伴う欧州地区の信用不安の後退、米経済統計が市場予想よりも若干良かったことに伴うソフトランディング期待、バーナンキ議長の金融緩和政策持続、数四半期以内の個人消費回復期待発言、といったプラス材料が重なったためである。市場の注目材料は経済統計の内容から、経済統計の内容を見た上での金融政策に変わりつつあるようだ。昨日のこのコラムでのコメントの通り、先進国の景気は緩やかな回復過程の前の調整局面入りしており、景気回復を確実なものにするための金融・財政の支援(財政支援は欧州・日本では難しいが)が実施されるかどうかが先進国の経済統計を見る上でのポイントとして、プライオリティが上がってきていると考えている。その一方で成長余力があり、実際に経済が拡大している新興国の需要の拡大が商品相場を切り上げていると言える。


 よくよくチャートを見てみると、新興国株並びに商品価格が上昇を始めたのは日本時間の7月16日の、米金融規制改革法案の可決の日以降である。今回の規制法案は長期的に流動性の低下をもたらすものであると小職は考えているが、事前に想定されていたレベルからは若干金融機関側に配慮した内容であったため、リスクテイクの動きを活発化したと見られる。日米欧、先進国の景気拡大の速度は緩やかなものにならざるを得ない一方で、日米欧の金融緩和によって余った資金が成長著しい新興国市場に流れ込んでもよくよく考えると何ら不思議はない。資金の調達に不安がなければ、高リスク・高リターン市場への投資も可能になる。同様の議論で商品も物色されていると言える。特に非鉄金属は、現物として保有し易く投機規制がかかりにくい。そのため、最大需要国である中国の需要の増加率が若干鈍化しているものの、力強い上昇となっていると考えられる。よって、金融不安が再燃しない限りは新興国・商品は物色される可能性が高いと考えておいた方が良いだろう。
 ちなみに今週末の米雇用統計は上記のロジックに従うと、もし悪ければ金融・財政支援策の発動期待で相場にプラス、もし予想通りであれば相場にニュートラル、もし良ければ追加策の実施見送り観測が強まり、相場にとってマイナス、と整理することができるだろう。この考え方が当たっているか否かは今週末の雇用統計を見てから、ですね...(外れてないと良いんですが)。


【経済関連ニュース】
・7月中国PMI 51.2(前月改定52.1)。
・7月中国HSBC PMI指数 49.4(前月改定50.4)。
・6月日本鉱工業生産 前月比▲1.5%(前月改定+0.1%)。
・7月ユーロ圏製造業景気指数 56.7(速報比+0.2)。
バーナンキFRB議長「米経済の完全な回復までには相当な道のりが残っている。個人消費はこの数四半期の内に勢いを増すだろう。景気が回復する過程では金融のサポートを外すべきではない」
・7月米ISM製造業景況指数 55.5(前月改定56.2)。市場予想は上回る。
・H110 英HSBC決算67.6億ドルの利益と前年比略倍増。
・ブラジルは利上げ打ち止め観測で株価大幅上昇。
・6月米建設支出 前月比+0.1%(前月改定▲1.0%(そk比▲0.8%))。



【為替(FX)・株】
NY Dow  :10,674.38(+208.44)
S&P500   :1,125.86(+24.26)
NIKKEI225 :9,570.31(+33.01)
JPY/USD :86.5(+0.03)
USD/EUR :1.318(+0.0127)
MRA CVIX(MRAコモディティ恐怖指数):16.8(▲0.6)

・ユーロは対ドルで上昇。BNPHSBC決算が好調であったこと等から欧州不安が後退したため。またNY時間でのバーナンキ議長のコメントを受けた米低金利政策の継続観測がユーロにとってプラスに働いた。円は小幅下落。リスクテイクの動き再開で。
日本株は小幅反発。企業決算が好調であることから、円高との綱引きとなった。米国株は大幅に上昇。製造業景況指数が市場予想を上回ったことや欧州銀行の好決算による信用不安の後退、その後のバーナンキ議長の金融緩和継続発言を受けて。


穀物市場サマリー】
Cbot Soybean :1,053.25(+0.75)
Cbot Wheat :693.25(+31.75)
Cbot Corn :390.50(▲2.25)
CSCE Sugar :19.40(▲0.17)

・大豆価格は小幅上昇した。 先週のCFTC Non-Commercialポジションは、ロングが339,893(前週比 +14,363)、ショートが149,061(前週比 +18,904)となったことから、ネットで190,832(前週比 ▲4,541)となった。インデックスファンドのポジションは492,710(前週比 +7,124)となっている。
・トウモロコシ価格も下落。 先週のCFTC Non-Commercialポジションは、ロングが132,404(前週比 ▲7,671)、ショートが42,253(前週比 ▲2,327)となったことから、ネットで90,151(前週比 ▲5,344)となった。インデックスファンドのポジションは180,626(前週比 +1,553)となっている。
・小麦価格は下落。 先週のCFTC Non-Commercialポジションは、ロングが102,938(前週比 +3,273)、ショートが95,726(前週比 ▲1,604)となったことから、ネットで7,212(前週比 +4,877)となった。インデックスファンドのポジションは210,960(前週比 ▲801)となっている。

非鉄金属・貴金属】
Comex Gold :1,183.40(+1.7)
Nymex Platinum :1,602.2(+25.4)
Baltic Dry Inex :1,977.00(+10)
Iron Ore :141.2(+4.9)
Chrome(クロム) :10,600(UC)
Cobalt(コバルト) :19.8(▲0.38)


Copper 3M :7,510.00(+213.5:25C)
 昨日の銅価格は上昇した。LME在庫は▲425Mt減少、(FSCは8.1日)、(キャンセルワラント率は7.5%)。売買高は13,779枚。C-3(Cash vs 3M Fwd)は25ドルコンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。
 先週のCFTCポジション報告によるNon-Commercialポジションは、銅はロングが35,846(前週比 +3,254)、ショートが24,596(前週比 ▲4,081)となったことから、ネットで11,250(前週比 +7,335)となった。

Zinc 3M   :2,122.00(+97:26.75C)
 昨日の亜鉛価格は上昇した。LME在庫は▲550Mt減少、FSCは18.9日(キャンセルワラント率は3.4%)。売買高は10,473枚。C-3は27ドルコンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。

Lead 3M   :2,214.00(+136.5:24C)
 昨日の鉛価格は上昇した。LME在庫は▲200Mt減少、(FSCは7.5日、キャンセルワラント率は2.1%。)。売買高は5,435枚。C-3は24ドルコンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。

Aluminum 3M :2,217.00(+42:10C)
 昨日のアルミ価格は上昇した。LME在庫は▲4,200Mt減少、(FSCは42.3日)。(キャンセルワラント率は5.1%)。売買高は17,237枚。C-3は10ドルコンタンゴコンタンゴ幅を縮小した。

Nickel 3M :21,950.00(+800:67C)
 昨日のニッケル価格は上昇した。LME在庫は+882Mt増加、(FSCは32.2日)、キャンセルワラント率は4.6%。売買高は2,611枚。C-3は67ドルコンタンゴコンタンゴ幅を縮小した。

Tin 3M   :19,880.00(+375:29C)
 昨日の錫価格は上昇した。LME在庫は+5Mt増加、(FSCは13.7日)、キャンセルワラント率は6.46%。売買高は372枚。C-3は29ドルコンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。


【エネルギー関連ニュース】
WTI :81.34(+2.39)
Brent :80.82(+2.64)


【ひとりごと】
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今日は真面目ですよ。
最近相場が下げるときに、結構高い確率で下げ続けるのはなぜかということを少し考えてみた。
たまたまこの日曜日の日経ヴェリタスに、以下の条件の時にどうするか?
という質問が出ていた。

ケース1
A必ず80万円もらえる
B100万円もらえるが、15%の確率で1円ももらえない

ケース2
A必ず80万円支払う
B100万円支払わねばならないが、15%の確率で1円も支払わないで済む


確率統計の議論で行けば、ケース1はBが、ケース2はAが正しい。
ケース1は利益確定の、ケース2は損失確定のオペレーションを如何に行うかという質問であるともいいかえられる。
私的な意見であるが、現在の経済環境を鑑みるとケース1、ケース2ともAを選択する人が多いのではないだろうか。
その要因は、「発生可能性の低い事象が発生した場合の損失が計算できない」ためである。
通常、期待値を計算する際に用いる予想損失・予想利益額はConitinuousな場合が多いが、
あるポイントを上回る(ないしは下回る)タイミングで、市場が機能しない、カウンターパーティがデフォルトする、
と言ったように、連続的ではない事象が発生する可能性が以前よりも高くなっていると考えられる。



今回の経済危機を通じてみても、リスクがより大きいのは相場が下落し多くの参加者が「損失を確定せねばならない場合」である。
商品を含めた資産は基本的には「買い」から入るのが原則である(トレーディングは売りからだ、という方も結構いらっしゃいますが、それとは別の観点です)。
そのため、相場が下落する際には素早く手じまいを行わなければならない。
しかし、以前まではこの15%の確率で発生する1円も支払わないで済む状態、が存在したため下落時にもそれなりのバッファがあった訳だが
今はその保証がないのだ。
よって、下げに不思議の下げなしの格言通り(というか私が勝手に作った格言だが)、下落局面では結構しっかり下がってしまうのだ。
これが足元の「レンジ相場であるにも関わらず、高いボラティリティ」を形成している原因なのではないだろうか。



と、言うことで難しい相場が当面続くことになるでしょう。