統計速報(2008年8月20日発表分)

 先週の米在庫統計は原油ベア、ガソリンブル、ディスティレートニュートラルな内容であった。今回の統計でも注目材料は需要とSPRの積み増し動向である。需要は価格の急落で急速な減少ペースに歯止めが掛かりガソリンは増加しているが、ディスティレートは季節要因もあって先週から大幅な減少となった。一方、今週、漸くSPRの積み増しが一旦ストップした。原油・石油製品価格の調整を受けて民間セクターも在庫を積み増し易い環境になってきていることが政府在庫積み増しの動きを鈍化させたようだ。詳しく見てみよう。

 原油は生産が減少、輸入が再び大幅に増加、稼働率も低下したことから在庫水準は大幅に増加した。生産は5,078KBD(▲61KBD)と先週から大幅に減少。熱帯性暴風雨エドワルドの北上を受けて複数の油田の生産が停止している影響が先々週から続いているようだ。一方輸入はP3で大幅に増加し、前週比+1,336KBDの10,991KBDとなった。先々週の大幅な減少(▲538KBD)の反動もあるが、この輸入量の増加で例年(10,069KBD)の輸入量を回復している。結果、総供給量は16,069KBD(前週比+1,275KBD、+8.9MBの在庫増加要因)となった。稼働率は▲0.2%の小幅な悪化。ピークシーズンであるにも関わらず需要の低迷やクラックマージンの悪化傾向もあって、稼働率は低下傾向が鮮明となっている。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+1.9%、▲0.8%、▲0.4%、▲2.3%、+0.4%。結局全体で85.7%(+0.3MBの在庫増加要因)となった。計算上在庫は前週比で+8.6MBの+8.3MB(先週の在庫減少は▲0.3MB)となるが、計算を上回る+9.4MBの大幅な増加となった。結果、在庫水準は305.9MB(過去5年平均レベル312.0MB)となった。在庫の増加は輸入が顕著に増加したP3で非常に大きく10.8MBであったが、その他の地区では概ね減少している(例えばP1は▲1.0MB、P2は▲0.5MB)。FSCは先週から大幅に改善し20.3日、過去5年の平均である19.5日を回復するに至った。過去5年平均と比較して需要対比で同程度の在庫をに数量をコントロールするオペレーションを持続していたと考えられるが、当コラムでの予想通り原油価格の大幅な下落の影響で逆に在庫を積み増し易い環境になってきたものと予想される。尚、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としているが、今のところ過去5年平均レベルを回復したことから中東不安勃発、米ロの緊張、ハリケーン直撃といった予見不能なリスク発生時に対しては一定の抵抗力がある在庫水準になったと考えられる。こうした在庫積み増しの動きを受けて今週、久しぶりにSPRの積み増しの動きが止まった。SPRの水準は707.2MB(前週比+1KB)となっている。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は18.0MB(前週比▲462KB)と減少傾向が持続、イールドカーブバックワーデーション化に寄与すると見ている。

 ガソリン在庫は大幅な減少となった。生産は稼働率が変らず得率が大幅に改善したことから増加、輸入は前週比変らず、需要が略横ばいであったため在庫減少となった。生産は稼働率がほぼ横ばいの中、得率が改善(+1.5%)の影響でP1地区を中心に大幅に増加した。この結果+213KBDの9,065KBDとなった。過去5年平均(8,978KBD)を上回るレベルを維持している。輸入は前週比+9KBDの794KBDとなった。結果、総供給は9,859KBD(前週比+222KBD、前週比で+1.5MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,455KBD(前週比+20KBD、過去5年平均9,466KBD、▲0.1MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,423KBD(前週比▲23KBD、過去5年平均9,476KBD)となり、再び過去5年平均レベルの需要を割り込んだ。価格の急落に伴う消費の持ち直しの動きが続いているが、前年比ベースの需要の減少は▲1.9%、前週比需要伸び率は+0.2%(例年+0.5%)と、景気の減速感が強まる中大幅な需要増加は見込み難い。「可処分所得に占めるエネルギー関連支出」が過去最大だったのは1980年前半の8%で、7月中旬の時点の価格水準でこのレベルに達したものと見られ、価格下落に伴う需要の回復は期待できるものの、米国経済の悪化の可能性が高まる中徐々にその水準を切り下げていくこととなろう。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+1.4MBの▲4.9MBの在庫減少(先週▲6.4MB)となるが、計算を上回る▲6.2MBの大幅な在庫減少となった。ガソリンのピークシーズンであることから、ドライブシーズン前に積み上げた在庫が減少していくタイミングであるが価格の急落の影響もあって簿価の高い倉庫出し石油製品の出荷量が増加していることによるものと考えている。在庫減少の内訳は、Conventional(▲2.6MB)、Blending(▲3.6MB)となっている。この結果、FSCは20.8日と▲0.7日悪化、過去5年平均の21.5日を下回ってしまった。しかし、最終需要動向が不透明なため引き続き過去5年平均程度にFSCを維持するオペレーションが持続すると考えられ、来週は稼働率の上昇に伴う生産の増加でFSCは改善すると予想している。但し今週の統計はガソリンは明確にブルな内容であった。

 ディスティレート在庫は小幅増加した。生産は稼働率が略横ばい、得率が改善(+0.5%)したことから4,405KBD(+64KBD)と増加した。生産の内訳はULSD+68KBD、ディーゼルオイル+67KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の3,977KBDをはるかに上回り、過去5年の最高水準である4,298KBDをも上回る状態が続いている。輸入は前週比▲63KBDの73KBD(過去5年平均274KBD、過去5年最低182KBD)と、殆ど輸入されていない。米国内の価格下落が大きいことが輸入を阻害していると見る。この結果、総供給は4,478KBD(前週比+1KBD、在庫増減要因とならず)となった。4週平均需要は4,211KBD(前週比+3KBD、過去5年平均3,946KBD、在庫増減要因とならず)、直近需要は4,087KBD(前週比▲319KBD、過去5年平均3,938KBD)と、4週平均ベース需要は前年比プラスの+1.1%となった。前週比ベース需要増加率は+0.1%と例年の+0.4%を下回った。全体のバランスでは前週比変らずの▲1.8MB(先週の在庫減少は▲1.8MB)となるところであるが、計算とは裏腹に+0.5MBの在庫増加となった。総在庫は132.1MBとなり、過去5年平均レベル126.9MBを上回るレベルを維持している。在庫増加の内訳はULSDが▲1.4MB、ディーゼルが+1.3MB、ヒーティングオイルが+0.6MB。FSCは31.4日(前週比+0.1日)と過去5年平均水準である32.2日を大きく下回っている。但し、ガソリン同様にFSCベースで過去5年水準を維持させるオペレーションが維持されると見られることから来週は稼働率の改善に伴う生産増加でFSCは改善すると考えている。統計としてはニュートラルな内容であった。