綺麗に破く

(商品市況概況)
「キャッシュ化の動き加速」
 昨日のコモディティ価格は大幅に下落した。最大の材料はECBによる利下げ観測が強まったことによってドルが急騰したことであろう。米修正金融安定化法案が上院で可決されたものの、修正されている段階で市場へのインパクトは小さく、引き続き拡大する金融機関の信用不安の拡大で資金繰りが悪化している企業数が増加しているものと見られ、各金融商品でキャッシュ化の動きが見られた。下のグラフにあるように、以前は商品が下落すれば株価が上昇、商品が上昇すれば価格は下落、という経済が横ばいの場合に発生するわかり易い構造(コスト低下→株価上昇、コスト上昇→株価下落)であったが、足許は恐らく安全資産である現金、国債等に資金シフトが起きているものと考えられる。こうした環境下、コモディティ価格は通貨・政治・実態経済・商品固有のファンダメンタルズの4要因で変動しているのはこのコラムでコメントしている通りであるが、足許最も影響が大きいのが、政治と通貨の影響であろう。少なくとも年内は商品価格には下押し圧力がかかり易い。

(経済関連ニュース)
・8月ユーロ圏生産者物価 前年比+8.5%(前月改定+9.2%)。
・米週間新規失業保険申請者数 前週比+1千人の497千人(前週改定496千人(速報比+3千人))、市場予想475千人。
・9月ユーロ圏製造業景気指数改定 45.0(速報比▲0.3)。
・8月米製造業受注 前月比▲4%(前月改定+0.7%(速報比▲0.6%))、市場予想▲3%。
・ECB政策金利を4.25%に据え置き。市場予想どおり。
・ECBトリシェ総裁「本日の会合で利下げの可能性について協議した。米国型の金融安定化策は欧州には適していない。以前はQ208,Q308に景気は底を打ち緩やかな回復を予想していたが、
現在は下ぶれのリスクを抱えている。このリスクはかなり大幅な下ぶれ方向にあると述べてきたがこのことは極めて明らかである。」
「分野によっては規制が循環の加速を引き起こす。ブームと崩壊の循環は規制によって増幅されることがあるため、注意せねばならない」
「楽観は許されないが、スケープゴートを仕立てるのも良くない。システム自体の見直しが重要である」
・ぺロシ米下院議長「修正金融安定化法案の可決を楽観している」
・米修正金融安定化法案、米上院で可決。下院ではまだ可決されていない。

・ドルは対ユーロで大幅上昇。景気減速を背景に欧州中央銀行が利下げを検討していたことに関してトリシェ総裁がコメントしたことが背景。市場のドル需給逼迫によるドル需要の高まりも支援材料となり、ユーロは1.4を大きく割り込んだ。対円でドルは下落。海外市場が不安定に推移する中、円が選好された。
日本株は大幅に続落。米経済統計の悪化によって輸出関連株の他、景気敏感株が売られた。米国株は下落。修正金融安定化法案の実効性に対する疑問や、昨晩発表された8月の米製造業受注の大幅な減速が嫌気され、米国株は大きく水準を切り下げた。

穀物市場サマリー)
・大豆価格は大幅に下落。ECBが利下げの可能性に関して言及したことから、政策金利は据え置かれたものの、先々の欧州利下げを織り込む形でドルが急騰したため、大豆価格も調整を余儀なくされた。単収報告が予想を下回ったことなどのファンダメンタルズ材料はマクロ材料で完全に打ち消されてしまった格好。イールドカーブは期近を中心に全ゾーンパラレルに低下している。
・トウモロコシ価格は続落。大豆と同様、Ecbの利下げ観測の高まりによるドルの対ユーロでの急騰が完全に嫌気された形。イールドカーブは全ゾーンパラレルに低下している。
・小麦価格は続落。ロシアやウクライナの生産が増加(各々穀物生産が+27%、+69%になる見込み)するとの見方が地合いを悪化させていた中、夜間のECBの将来の利下げに関するコメントを受けたユーロの急落(ドル急上昇)を受けて小麦価格も調整を余儀なくされた。イールドカーブは全ゾーン小幅低下。

非鉄金属関連ニュース)
・NY金は下落。ECBの政策金利が据え置かれたことにより、先々の利下げの可能性が高まったことに伴うドル高の進行が材料視され、大きく水準を切り下げる動きとなった。そもそも米金融安定化法案が上院で可決されたこともあって前日比マイナスで寄り付いた後、50日移動平均線を目指して水準を切り下げている。引き続き、金融安定化問題が片付いておらず、政治的な問題の解決に相場が左右され易いのはコメントしたとおりであるが、安全資産への逃避の動きから当面堅調な動きになろうか。
 NY銀も急落。急速にドル高が進行したことが材料視された。また夜間の米製造業受注が大幅な悪化になったことも、工業品である銀の需要減少観測が強まり、主要なチャートポイントを下抜け先月トライした10?を目指す動きとなっている。"

・NYプラチナは下落し、とうとう1,000?の心理的節目を割り込んだ。ドル高がECBの金利据え置き、先々の金利引下げ観測と相俟って急速に進行、また夜間の米製造業受注が大幅に悪化したことが工業品であるプラチナの需要減少に繋がるとの見方を強め、1,000?を割り込むに至った。しかしながらこのレベルではさすがに安値拾いの動きもあり、小幅なレンジでの取引となった。
 急速に進行するドル高と経済状況の悪化を受けて、プラチナ価格を前回見通しから修正した。中期的な見通しについてプラチナは、低い水準で安定すると考える。世界経済への影響が大きい米景気の悪化、GM、フォードといった自動車産業の景況感悪化に反映される自動車販売の減少に伴う触媒需要の減少観測を受け、このコラムで指摘してきた需要減少のリスク要因の影響が大きくなってきている状況であるためだ。引き続き、2008年、2009年のプラチナ需給は各々181キロオンス、458キロオンスの供給不足の状態になると考えているが、供給不足は地上在庫で相殺されることとなろう。長期的な観点に立った場合、米当局が環境面に配慮しディーゼル車の使用を推進、普及率を引き上げる見通しであり、AngloPlatの見通しでは普及率が5-8%であればさらに300キロオンス〜500キロオンスの需要増が見込まれる。
 NYパラジウムも下落した。金・プラチナの下落に連れる形に。今後パラジウムの価格は軟調に推移すると考えているが、中期的には地合いは改善すると見ている。環境規制の高まりから引き続きプラチナ・パラジウムの需要は堅調に推移すると見られるためである。しかしながら、チューリッヒ、ロシア、その他の地区の地上在庫が各々8百万オンス、10百万オンス、2百万オンス程度あると見られることや、ドルが上昇サイクルに入っていることが価格の上昇を抑えることになろうか。

・Freeport Cerro Verde銅山(ペルー)、16%の賃上げを要求してストライキを開始。
・Xstrata、カナダの銅・亜鉛従業員のストライキは合意に達する見込み。

(エネルギー関連ニュース)
・特になし。

(非鉄金属)
 昨日の銅価格は大幅に下落した。銅固有のファンダメンタルズ材料がない中、6,000?の節目を巡る攻防となっていたが、夜間にECBが利下げに関して言及したことを切っ掛けにドルが急騰、ドルの上昇に伴い銅は地合いを悪化させとうとう6,000?の節目を下回ることとなった。このレベルを下回ったところから下げが加速し、5,000?台で引けている。信用不安が拡大する中、あらゆる市場商品でキャッシュ化の動きが相次いでいる。米金融安定化法案は上院で可決、下院でも可決の見通しであるが、修正されている段階でその効力は薄くなろう。コンセントレートの継続的な不足や中国の需要が高い固定資産投資に見られるように堅調である等のファンダメンタルズの強さもあって下値は堅いと見ていたが、予想だにしない金融危機の広がりが実体経済に悪影響を与えていることが明白になる中、しばらくは下落圧力が強まることになると考える。相場の先行きは短・中期的には政治にゆだねられている。LME在庫は+25Mt増加、(FSCは3.8日)、(キャンセルワラント率は2.7%)。売買高は15,149枚(※現時点で確認できる前日の3Mの出来高)。イールドカーブは期近を中心に全ゾーン低下し、フラットニングが進行している。C-3(Cash vs 3M Fwd)は24?バックとバック幅を拡大した。
 昨日の亜鉛価格は大幅に下落した。個別の固有材料は殆どなく、夜間のECBによる景気悪化に伴う利下げ観測がドル高を誘発、銅と同じく大幅に水準を切り下げる動きとなった。この結果、コストの下限と見られていた1,600?をとうとう下回った。今回の下落で多数の生産者がコスト割れになり始めていると見られ、今後は生産調整の影響を慎重に見極めなければならなくなるだろう。LME在庫は▲75Mt減少、FSCは4.6日(キャンセルワラント率は3.3%)。売買高は3,810枚。イールドカーブは略全ゾーンパラレルに低下している。C-3は18?コンタンゴコンタンゴ幅を縮小した。
 昨日の鉛価格は下落した。取引序盤は前日の価格急落を受けて買い戻しが優勢となったが、夜間のECBの利下げに関するコメントを受けてドルが急騰し、急速に地合いが悪化、銅価格の急落も相俟って鉛価格は大幅に調整することとなった。今後も景気の悪化とともに自動車向け需要が減退すると予想され、金融機関を中心に企業業績が悪化していることから、当面下値を探る動きにならざるを得ないと考えている。目先、8月15日の安値である1,626?が意識されることになると考える。LME在庫は+600Mt増加、(FSCは2.7日、キャンセルワラント率は4.4%。)。売買高は2,177枚。イールドカーブは期先の下げ幅が大きく、ベアフラットニングしている。C-3は21?コンタンゴコンタンゴ幅を縮小した。
 昨日のアルミ価格は大幅に下落した。取引序盤から2,400?を挟む攻防となっていたが、原油価格が急落していること、ドル高がECBの利下げ発言を受けて急速に進行したこと、長らく割り込むことができなかった2,400?ラインを割り込んでしまったことから下げが加速、一気に2,300?を試す動きとなった。アルミは非鉄金属の中でも特に為替やエネルギー価格といった周辺材料の影響を受け易い。こうした価格下落を受けて生産者も期先の売りヘッジを入れている模様であり、カーブにフラットニング圧力がかかっている。今後は金融機関の業績悪化に伴い、資金繰り目的で現物を売却する動き(特に米国で顕著)が加速すると見られることから、さらに下値を探る動きになろう。今まで想定していなかった事態が政治・経済両面で発生しているため、下落余地が広がっていると考えられる。当面、神経質な相場展開になろう。LME在庫は▲425Mt減少、(FSCは12.0日)。(キャンセルワラント率は1.3%)。売買高は17,884枚。イールドカーブは期近の下落が大きい。C-3は45?コンタンゴコンタンゴ幅を拡大した。
 昨日のニッケル価格は下落した。ニッケル在庫は減少したものの、ドル高の急速な進行が材料視され、大幅に水準を切り下げる動きとなった。しかしながら他の非鉄金属に比べると価格の調整が早い段階で起きていたこともあって、下げ幅は比較的限定されている。LME在庫は▲60Mt減少、(FSCは13.0日)、キャンセルワラント率は2.2%。売買高は1,375枚。イールドカーブは期近を中心に大幅に全ゾーン低下している。C-3は230?コンタンゴコンタンゴ幅を縮小した。
 昨日の錫価格は下落した。取引序盤は10日移動平均線を上回って寄り付いたことから買いが入り上昇したのだが、夜間のECB利下げ発言を受けたドルの急騰もあって急速に地合いが悪化、在庫変化などの個別材料はなかったが水準を切り下げる動きとなった。インドネシアや中国の生産輸出状況に改善が見られない中(インドネシアは悪化)、ファンダメンタルズを材料にしっかりとした推移が続くと考えているものの、世界各地に金融不安が拡大し、実体経済も悪化していることから下げ余地を探る展開にならざるを得ないだろう。LME在庫は前日比変わらず。(FSCは5.5日)、キャンセルワラント率は7.89%。売買高は455枚。イールドカーブは全ゾーン略パラレルに低下している。C-3は20?バックとバック幅を縮小した。

(エネルギー)
 昨日のNY原油は大幅に下落した。景気悪化懸念に強く焦点が当たる中、取引序盤からじりじりと水準を切り下げる動きとなったが、夜間のECBでトリシェ総裁が先々の利下げについて言及したことを切っ掛けに、欧州の需要の減少、ユーロ急落によるドルの上昇を受けて原油価格は調整を余儀なくされた。米上院で修正米金融安定化法案が可決されたものの、「修正法案では不十分」との見方が強まる中、殆ど材料視されることはなかった。結果、原油価格は90?を目指して水準を切り下げる動きとなっている。全ゾーン略パラレルに低下している。Brentも欧州経済の失速懸念が強く意識される中、WTIを上回る下げ率となった。直近限月の騰落率はWTIは▲5.1%、Brentは▲5.6%。
 石油製品も大幅に下落。RBOBは週半ばの在庫統計で需要の減速がさらに鮮明になったことから、稼働率の低下、供給慮の低下、在庫の減少といったファンダメンタルズの買い材料は多いものの、ドル高の進行を受けた原油の下落には抗えず、力なく水準を切り下げることとなった。イールドカーブは期近を中心に全ゾーン低下している。直近限月の騰落率は▲4.9%。ヒーティングオイルも大幅に下落。こちらもRBOBと同様、在庫統計で確認されているように「季節性を無視した需要の減少」が確認されており、ドル高進行に伴う原油の下落を受けて急落した。イールドカーブは期近を中心に全ゾーン低下している。直近限月の騰落率は▲5.3%。ICEガスオイルも下落。イールドカーブは全ゾーンパラレルに低下。直近限月の騰落率は▲2.5%。

(ひとりごと)
シンガポールで働いていたころ
とあるお客さんから「アルミ価格の見通しがほしい」と言われ、働いていた会社のレポートを探していた
そのころ、アナリスト業務はやっていなかったので基本、自分で見通しを作ることはしてなかった。
働いていた会社は結構コモディティ関連情報が充実していたので、あっさりアルミの見通しを発見。
しかし、油や他の見通しも大量に入っていたのでお客さんに「他のも入ってますけどどうします?」
と聞いたところ「アルミのところだけで良い」との回答。

なので、必要なページだけコピーを取っていたら中国人の同僚のJ君(っていっても私よりも3歳年上)が私のところに来て

「何してるんだ」

と聞いてきた。
お客さんがアルミの見通しだけ欲しい、って言っているんで必要なところだけコピーしてんだ
と言ったところ

「貸せ!俺が必要なところだけ破いてあげるから」

え...破く?

私「ほら、3部欲しいって言われているし、破いたの持って行っても失礼じゃない?」
J君「心配するな。俺はその本を5部持っているし」
J君「きれいに破くから大丈夫」

...きれいにって言われても...ねぇ。
結局丁寧に断ってコピーしましたが
これって、国民性の違いなのか、彼の個性の問題なのか。
きっと国民性の違いだと思ってその話を、別の同僚のLちゃんに聞いたところ、相当笑われた。
それは彼の個性の問題よ、と。

教訓。
国民性の違いで片づけられるものではないんですな。
やはり個性が重要なんですな。