今回の米在庫統計は略ニュートラルな内容であった。石油製品需要は価格の急落の影響で季節性を取り戻しつつあり、生産に関しても原油・石油製品在庫がFSCベースで過去5年水準を維持するオペレーションが上手く機能しており、金融や実態経済の著しい悪化を示す指標の発表がなければ石油需給に大きな問題をもたらす状況ではなくなっていると言える(低位で安定しやすくなった)。しかし、更なる価格の下落は生産者の体力をそぐことになるため、供給に問題が生じる懸念もあるため生産者側、消費者側とも余り好ましくないといえる。いずれにしてもここ数週間の在庫統計は価格にインパクトを与えるような内容ではなく、詳細な議論をする必要性がなくなってきている。詳しく見てみよう。
原油は生産が回復、輸入が大幅に減少したが、稼働率が低下したため先週に続き略増減ゼロとなった。生産は4,885KBD(+109KBD)と順調に回復。輸入は9,503KBD(▲469KBD)と減少し、過去過去5年の最低レベルとなった。P1〜P3の東側での輸入量が大きく減少している。結果、総供給量は14,388KBD(▲360KBD、前週比2.5MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP5を除く全ての地区で悪化している。需要の先行きが不透明であることから、FSCを5年平均程度に維持するオペレーションが続いていると考えられ、先週と売ってかわって生産の調整が行われた。稼働率は全体で84.6%(▲0.9%、前週比0.9MBの在庫増加要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、▲2.7,▲0.9,▲1.4,▲1.5,+2.8%となっている。計算上在庫は前週比で▲1.7MBの▲1.63MBの在庫減少(先週の在庫増減は+0.1MB)となるが、実際は+0.4MBとなった。結果、在庫水準は311.9MB(+0.0MB)となった。在庫は輸入がP1、P3で各々▲503KB、▲967KBとなったが、P2,P5で大幅に増加しており(各々+643KB、+769KB)、全体でほぼトントンとなった。FSCは20.9日(+0.2日)と稼働率要因で小幅改善している。今週はSPRは放出されなかった。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は18.0MB(+0.4MB)となっており引き続き、イールドカーブのコンタンゴ化に寄与すると見られる。統計としては市場予想比ではブルな内容であったものの、FSCで過去5年を維持するオペが続いており、総じてニュートラルな統計であったと考える。
ガソリン在庫は予想を上回る増加となった。生産が稼働率の低下と特率の悪化で減少、輸入も大幅に減少したものの、需要の減少もあって市場を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が悪化し、得率も悪化(▲0.1%)したことから9,024KBD(▲86KBD)と、クラックマージンのネガティブスプレッド状態が続いており、生産者側も生産のインセンティブが低下しているようである。同様の理由で輸入は589KBD(▲451KBD)と大幅な減少となった。需要減少の影響もあって輸入は全体的に不冴えな状態が続いている。結果、総供給は9,613KBD(▲537KBD、前週比3.8MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,613KBD(▲537KBD、前週比3.8MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,055KBD(+27KBD, 前週比0.2MBの在庫減少要因。過去5年平均 9,156KBD, 過去5年最高 9,391KBD, 過去5年最低 8,943KBD)と、持ち直しの動きが持続している。しかし米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は▲2.9%とマイナスの状態が続いているが、価格急落の影響もあって前週比需要伸び率は+0.3%(例年±0.0%)と季節性を維持した消費が続いている状態だ。以上を合計するとバランス上は在庫は▲3.9MBの▲2.8MBの在庫減少(先週の在庫増減は+1.1MB)となるが、計算とは裏腹に+2.0MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional94.2MB(+2.1MB)、Blending102.9MB(+12.6MB)となっている。この結果、FSCは21.9日(+0.2日)と改善、過去5年平均である21.6日を維持するオペレーションが続いている。最終需要動向は徐々に落ち着きを取り戻しつつあるため、金融不安を背景とした資金調達難から在庫の更なる積み増しが積極的に行われると考えにくい環境であることを鑑みれば、クラックマージンがネガティブである状況下、輸入による生産調整が行われる可能性が高いと見ておくべきであろう。引き続き需要を睨みながらFSCを過去5年程度に維持するオペレーションが続くことになると考えている。但し、信用収縮で資金調達の自由度が低下している環境下、「危機時に対応できる在庫の維持」が難しくなっていることは意識するべきである、統計としては市場予想比ベアな内容であった。
ディスティレート在庫は市場予想を下回る増加となった。生産は稼働率の悪化と得率の悪化(▲0.1%)したことから4,371KBD(▲18KBD)と減少。生産の内訳はULSD3,171KBD(▲38KBD)、ディーゼルオイル673KBD(▲59KBD)、ヒーティングオイル527KBD(+79KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,170KBDを大きく上回るレベルでの推移が続いている。原油価格の急落に伴うディスティレートクラックの拡大により、ガソリン対比でディスティレートの生産増加のインセンティブが高まっていることや、消費の崩壊に歯止めが掛かりつつあるためである。輸入は114KBD(▲35KBD)と減少し、過去最低水準である224KBDを再び下回った。この結果、総供給は4,485KBD(▲53KBD、前週比0.4MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,485KBD(▲53KBD、前週比0.4MBの在庫減少要因)、直近需要は3,992KBD(▲19.75KBD, 前週比0.1MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,151KBD, 過去5年最高 4,440KBD, 過去5年最低 3,802KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲3.0%と大幅な悪化が続いているが、前週比ベース需要増加率は+0.4%と例年の▲0.7%(冬場に入る前の端境期で需要が一旦減少する時期)を上回っており、価格の下落が需要を下支えしていることが浮き彫りとなった。しかしガソリンも含めた米国の輸送需要は、季節性こそ戻ってきたものの全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。全体のバランスでは前週比▲0.2MBの+1.0MBの在庫増加(先週の在庫増減は+1.2MB)となるところであるが、予想を下回る+0.5MBの在庫増加となった。総在庫は128MB(+0.5MB, 過去5年平均 128.4MB, 過去5年最高 138.6MB, 過去5年最低 115.7MB)となり、過去5年平均レベル128.4MBを下回る水準での推移が続いている。製品毎の在庫の内訳はULSDが67.8MB(▲0.7MB)、ディーゼルが18.8MB(▲4.6MB)、ヒーティングオイルが41.7MB(+9.0MB)。FSCは32.2日(+0.3日)となった。これは過去5年平均水準である31.0日を上回る水準であり、安全水準を確保できている。ただし最終需要の弱さや信用収縮の影響で在庫圧縮の動きが進捗する可能性は高く、資金調達が困難になることが予想される中、天災や厳冬といったトラブル発生時の価格上昇リスクが高いことは念頭においておくべきである。統計としては市場予想比ニュートラル〜ベアな内容であった。