統計速報(2009年8月5日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ニュートラル、ガソリンニュートラル、ディスティレートは市場予想比ブル、統計自体はベアな内容であった。原油は生産調整と輸入の調整で過去5年レンジを維持してきたが、石油製品需要の戻りが弱いことから5年レンジを上抜けた状態が続いている。ガソリンは景気が低迷しているがドライブシーズンということもあって需要は小じっかり、ディスティレートは引き続き明確にベアな状態が継続している。秋口にかけての景気悪化(二番底付け)の裏づけはここにあるが、足許の経済統計が市場予想比で悪くなく、極端に市場参加者のセンチメントが好転しており、長期に渡るマインドの改善が需要にプラスの影響を与える可能性も否定できない。特に株価が堅調に推移した場合、市場参加者ならびに個人のマインドは好転しやすい。詳しく見てみよう。


 原油は生産が大幅に増加したものの、輸入が過去最低水準まで低下、稼働率が略横ばいであったことから、先週から在庫増加幅を大幅に縮小させた。生産は5,246KBD(+139KBD)と過去5年平均レベルの生産を維持。その一方輸入は9,287KBD(▲737KBD)と全ての地区で大幅な減少となった。これに伴い輸入の水準は過去5年レンジを下抜けた。引き続き米国の石油製品需要の回復速度が緩慢であることを示している。結果、総供給量は14,533KBD(▲598KBD、前週比4.2MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP2,P3では回復したが、それ以外の地区では大幅な低下となり、全体で84.5%(▲0.0%、前週比0.0MBの在庫増加要因)。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、▲0.8%,+0.7%,+2.1%,▲6.1%,▲4.9%となっている。計算上在庫は前週比で▲4.1MBの+1.01MBの在庫増加(先週の在庫増減は+5.2MB)となるが、計算を上回る+1.7MBとなった。結果、在庫水準は349.5MB(+1.7MB)となった。在庫はP2,P5の増加が顕著であった。在庫量の変化はP1から順に、▲2.7MB, +2.7MB, ▲0.2MB, +0.0MB, +1.9MB となった。FSCは23.4日(+0.1日)と略横ばいで、先週に続き原油在庫の水準はFSCベースで過去5年レンジを上抜けた状態となっている。過去5年の適正レベルを維持してきた原油在庫であるが、ここにきて5年レンジを上抜け「過剰在庫」状態に突入しつつある。今週もSPRは変わらず。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は33.3MB(+1.2MB)と大幅な増加、イールドカーブコンタンゴ化が進むこととなろう。統計としてはニュートラルな内容であった。

 ガソリンは生産が稼働率が横ばいであったが得率が改善したことから増加、輸入が横ばい、需要が略横ばいであったことから先週に続き在庫減少となった。生産は稼働率が悪化し、得率が+0.7%と改善したことから9,075KBD(+98KBD)となった。輸入は1,021KBD(+30KBD)と減少、5年レンジの下限での推移が続いている。結果、総供給は10,096KBD(+128KBD、前週比0.9MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで10,096KBD(+128KBD、前週比0.9MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,197KBD(▲7.5KBD, 前週比0.1MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,466KBD, 過去5年最高 9,681KBD, 過去5年最低 9,178KBD)となった。需要の前年比での減少率は小幅な水準に留まっており、ドライブシーズン中でもあり需要は比較的堅調な推移を続けている。今週は前年比ベースの需要の減少は▲1.90%とマイナスの状態が続いているが、前週比での変化率は▲0.082%(例年+0.10%)と回復している(とは言っても小幅)。景気は最悪期は脱したとの見方が強いが、価格水準が引き続きネックとなり需要の戻りは緩慢な状態が続くことが予想される。株価の急騰に伴うマインド改善効果による需要の増加は、株価が下落した場合、あるいはガソリン価格が急騰した場合にはなくなってしまう可能性が高いことから、引き続き株価動向は無視できない展開が続くことになると考えている。以上を合計するとバランス上は在庫は+0.9MBの▲1.4MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲2.3MB)となるが、▲0.2MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional84.0MB(▲1.3MB)、Blending127.2MB(▲1.4MB)となっている。この結果、FSCは23.1日(▲0.0日)と先週から変わらず。過去5年レンジから若干上振れした。統計としてはFSCが上昇していることもありベアな統計であったと言える。

 ディスティレート在庫は市場予想に反し大幅な在庫減少となった。生産は稼働率が悪化し得率が▲1.3%と悪化したことから3,798KBD(▲189KBD)と先週から大幅に減少。生産の内訳はULSD2,952KBD(▲25KBD)、ディーゼルオイル411KBD(▲117KBD)、ヒーティングオイル435KBD(▲47KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最低水準を下回った。在庫の著しい積み上がりと需要の回復が緩慢なことから低水準の生産が続いているが、生産調整可能な範囲を超えていると見られ調整幅は限定されている。輸入は141KBD(▲113KBD)と減少。そもそも在庫水準が高すぎるため海外からディスティレートを輸入する必要性は殆どない。この結果、総供給は3,939KBD(▲302KBD、前週比2.1MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は3,939KBD(▲302KBD、前週比2.1MBの在庫減少要因)、直近需要は3,396KBD(+96.75KBD, 前週比0.7MBの在庫減少要因。過去5年平均 4,051KBD, 過去5年最高 4,169KBD, 過去5年最低 3,891KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲18.53%と先週から減少幅を縮小、前週比ベースでは+2.93%(例年▲0.16%)と小幅な改善が続いている。しかし、そもそも需要のレベルが低すぎることから多少、前週比で需要が回復しても殆ど統計全体に影響が出てこない状態である。全体のバランスでは前週比▲2.8MBの▲0.7MBの在庫減少(先週の在庫増減は+2.1MB)となるところであるが、▲1.1MBの在庫減少となった。総在庫は161MB(▲1.1MB, 過去5年平均 127.3MB, 過去5年最高 132.6MB, 過去5年最低 121.2MB)となり、過去5年最高レベル132.6MBを遥かに上回っている。世界的にディーゼルオイルの在庫水準は高く輸送需要は低迷しているといって良く、ディスティレート価格は総じて頭重い推移が続くことになると考えている。製品毎の在庫の内訳はULSDが94.4MB(▲3.4MB)、ディーゼルが21.0MB(▲1.9MB)、ヒーティングオイルが46.1MB(▲2.6MB)。FSCは47.5日(▲1.7日)となった。これは過去5年の最高水準である32.0日をはるかに上回るレベルであり、多過ぎであることはコメントする必要もないだろう。統計としては市場予想比ブルな統計であるが、絶対水準は引き続き明確にベアな内容であると言える。