統計速報(11月21日発表分)

  昨日の米在庫統計はブルな内容であった。原油は久し振りにP1の稼働率改善はあったものの、全体的に製油所の稼働率の回復は思わしくなく、生産・輸入の減少によって先週に続き在庫はマイナス成長となった。石油製品は価格の絶対水準が高すぎることもあって、在庫の積極的な積み増しを手控える動きも見られ、総じて在庫減少となっている。個別に少し詳しく見てみたい。
 原油は生産が大幅に減少、輸入も大幅に減少したことから、製油所の稼働率の低下はあったものの予想に反し、大幅な在庫減少となった。年度末を控えて原油価格が高値で推移する中、急落を嫌気した在庫圧縮の動きもあったと考えられる。生産は4,942 KBD(▲192KBD)と大幅な減少となった。一部油田からの生産減少が伝えられていたがヒストリカルに見ても大幅な生産減少である。輸入はP3での輸入量減少の影響が大きく、全体で9,820KBD(前週比▲667KBD)と大幅に減少したことから総供給量は14,762KBD(前週比▲859KBD, ▲6.0MBの在庫減少要因)となったが、稼働率が悪化(▲0.7%、+0.8MBの在庫増加要因)したことから在庫は前週比▲1.1MBの313.605MBとなった。P1の稼働率が大幅に回復(前週比+11.6%)したもののP1,P4以外は稼働率が低下している。在庫水準が低く、気温低下予報も出始める中、通常であれば生産を増やさねばいけない状況のはずなのだが、高すぎる石油製品価格がそれを疎外していると考えられる。尚、現在の稼働率は過去5年の平均89.1%に満たない。FSCは在庫減少はあったが稼動率が低下したことから20.7日と先週から0.1日改善した。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は14,564KBD(+1,143KBD)と大幅に増加している。P2,P3の稼働率悪化がCushing在庫を増加させたようだ。

 ガソリンは予想を下回る小幅な在庫増加となった。生産は稼働率が大幅に悪化したものの、得率の大幅な改善(+0.9%、カトリーナ禍のあった2005年以来の高水準)があったこともあり、全体で8,964KBD(前週比+69KBD)となった。輸入は1,124KBD(前週比+110KBD、P1の輸入量は過去5年の最高)と過去最高水準の輸入量を維持している。結果、総供給が10,088KBD(前週比+179KBD、前週比で+1.3MBの在庫増加要因)となった。一方需要は前週比小幅増加したものの(直近ベースの需要は9,222KBD(前週比+35KBD、過去5年の最高水準9,246KBD、過去5年平均9,022KBD))、4週平均ベースでは例年の動きと異なり、小幅な減少となった(9,238KBD、過去5年の最高水準9,344KBD)。需要増加は前週比▲0.4%と、例年の+0.10%を下回ることとなった。この結果、在庫は195.190MB(前週比+0.2MB)と小幅な在庫増加となった。冬場に突入したが、引き続きガソリンの生産水準は、在庫水準の低さもあって継続せねばならない状況が続いているが、期末を控えて在庫積み増しを躊躇する生産者もいると考えられる(輸入が高水準であるのはその証左)。一方で、株価の暴落やガソリン価格自体の高騰の影響で徐々に需要に影響が出てきているものと考えられる。今後も輸送燃料需要の動向には十分注意する必要がある。結果、FSCは21.0日と小幅改善したが、再び過去5年の最低水準21.1日を下回る結果となった。繰り返しこのコラムでコメントしているがFSCベースで少なくとも過去5年水準(21.7日)を回復しなければ、有事のバッファがないと言ってよい。先週の予想通りクラックスプレッドの改善に伴って生産が増加し、在庫水準も徐々に回復してきているが依然として十分な水準とはいい難い。今後に関しては、価格高騰に伴う在庫保有インセンティブが低い中、同様に価格高騰に伴う需要減少の可能性も高く、歴史的低水準の在庫レベルが変わることはなかろう。また、景気動向に敏感に反応しやすい輸送需要の減少の可能性には注意を払っておく必要がある。引き続きガソリン価格は大きく下落するような環境にないといえる。

 ディスティレート在庫は2週連続で予想を上回る大幅な在庫減少となった。内訳的にはディーゼルとヒーティングオイルの在庫減少が顕著であった。生産は、稼働率の悪化もあって得率が横ばいであったことから4,180KBD(前週比▲37KBD)となったが、輸入がULSDの輸入が増加したものの、ディーゼル・ヒーティングオイルの輸入減少の影響で、267KBD(前週比+57KBD)と小幅な増加なったことから、総供給は4,447KBD(前週比+20KBD、前週比+0.1MBの在庫増加要因)となった。その一方で需要は気温低下の影響等から恐らくヒーティングオイルを中心に増加したため、直近需要が単週ベースで4,603KBD(前週比+83KBD)、4週平均ベース4,379KBD(前週比+82KBD、▲0.6MBの在庫減少要因。尚、需要増加ペースは+1.9%、例年は+0.8%)となったことから、▲2.4MBの131.005MBと、予想を上回る在庫減少となった。在庫減少の内訳を見てみると、ULSDが+175KBDと小幅な在庫増加となる一方で、冬場に突入したこともありヒーティングオイルの在庫が減少(主に気温が低下しているP1)、ディーゼル在庫も減少(最大供給地P3で減少)している。結局P5以外の全ての地区で在庫減少となった。特にヒーティングオイル在庫は45,970KBと、過去5年の最低水準である48,447KBを大きく下回っている。ガソリンのところでコメントしたが、米国内の輸送需要に徐々に減少し始めている可能性はあるものの、(消費量自体はガソリンの比ではないが)、今後は気温低下に伴うヒーティングオイル需要の増加が輸送需要の減少を下支えし、ディスティレート全体では堅調な消費が続くと見られる。結果、FSCは29.9日(前週比▲1.1日)と過去5年平均をまたしても下回ってしまった。ラニーニャの影響で厳冬になる可能性は高く、FSCが過去5年平均を下回る、有事におけるバッファが少ない状態であることから再びブル転換したと考えられる。しばらくの間は高い原油・石油製品価格の水準が、在庫積み増しの阻害要因となると見ている。