統計速報(1月16日発表分)

 昨日の米在庫統計はベアな内容であった。原油稼働率の大幅悪化で在庫が積みあがり、ガソリンは需要の大幅減少で在庫が増加、ディスティレートは生産が大幅に減少したにも関わらず、(例年水準には届かないものの)在庫増加となった。年初の米雇用統計を機に米国の実需減速観測が急速に台頭し始めており、先週OPECが増産に踏み切る可能性が高いとコメントしたものの、次回OPEC総会では増産が見送られる可能性が出てきた。詳しく見てみよう。

 原油は生産が若干減少、輸入が濃霧の影響から回復し増加、加えて稼働率がメンテナンスの影響で低下したことから予想を上回る大幅な在庫増加となった。これで在庫の減少は8週連続となった。生産は5,013KBD(▲38KBD)と小幅減少、輸入は10,389KBD(前週比+583KBD)と先週の減少分を回復した。尚輸入量は同じ時期の過去5年の最高水準である9,870KBDを大きく上回るレベルである。地区的にはP1,P3の輸入が各々+376KBD、427KBDと増加に転じた影響が大きい。結果、総供給量は15,402KBD(前週比545KBD+3.8MBの在庫増加要因)となった。稼働率は先週と異なり、P4を除くすべての地区で悪化。テキサス州の製油所のメンテナンス入り等の影響が響いたようである。結果、全体の稼働率は87.1%と先週から4.2ポイントも悪化、再び過去5年の最低水準の稼働率を下回る結果となった。稼働率の悪化は+5.1MBの在庫増加要因となる(供給需要合わせて前週比+8.9MBの在庫増加要因に)。結果、在庫は前週比+4.3MBの287.1MB(過去5年平均レベル293.3MB)となった。今回の在庫統計では供給の増加、処理量の減少といった両要因によるものであり、地区別の在庫の変化を見ると稼働率が大幅に低下したP3(前週比▲6.6%)の在庫増加が+3.0MBと顕著であった。FSCは在庫増加と稼働率悪化の両要因で、18.9日と先週から1.1日と大幅に改善、このコラムで在庫水準のレベルを判断する基準となる過去5年の平均レベル(18.8日)を再び回復するに至った。先々の米国の実需減少観測を鑑みた場合、原油に関して言えば有事のバッファが存在する状態に、わずか1週間で転換したといえる。先週もコメントした来月のOPEC総会での増産は、最大消費国米国の需要減少と在庫増加を鑑みれば、妙な状態になってきた。このことは、OPECが世界GDP成長率が3.0%を上回るレベルを維持している場合、供給に関して強気のオペレーションを採りがちであることからもその可能性が高い。先週のコメントでは需要の有意な減少が確認できない中、需給の逼迫で相場が上昇するリスクを孕んでいるとコメントしたが、年初の米雇用統計の悪化が示すように米国経済の減速の可能性が高まっていることから急激に環境が変化しつつあると考えられる。但しイールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は16.5MB(▲1.2MB)と10週ぶりに減少に転じた。

 ガソリン在庫は予想を小幅下回る増加となった。生産は稼働率の大幅悪化の影響で得率が前週比+1.9%と改善したものの、全体で8,978KBD(前週比▲138KBD)と大幅な減少となった。輸入は938KBD(前週比▲82KBD)と悪化しているが、過去5年の最高水準に近い、高い水準を維持している。今回の輸入減少が顕著だったのはP5であるが顕著な輸入減少とはいえないレベルである。結果、総供給は9,916KBD(前週比▲220KBD、前週比で▲1.5MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,288KBD(前週比▲43KBD、過去5年の最高水準9,292KBDを若干下回るレベル。▲0.3MBの在庫減少要因)となった。季節要因でこの時期ガソリンの需要は緩やかに減少するのだが、例年(過去5年平均)では▲1.2%のところ、▲0.5%の減少にとどまっている。ところが直近需要ベースでは9,116KBD(前週比▲188KBD、過去5年の最高水準9,287KBDを下回る)となっており、米国の、4週平均の過去5年の減少レベルを上回る▲2.0%の需要減少となっている。足許、サブプライムローン問題が実体経済に影響を及ぼし、実需の減速を促している可能性が高くなってきたと考えられる。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比で▲1.8MBの在庫減少となる(先週の在庫増加が+5.2MBなので、+3.4MBになる)が、結果的にガソリン在庫は前週+2.2MBの215.3MBと2週続けて在庫増加となった。在庫増加の内訳は、RFG, Conventional, Blending Component, RBOBすべて増加している。地区の内訳は、P1以外の地区全てで増加している。時期的に需要の減少とともに在庫が緩やかに増加するタイミングであるが、在庫の増加ペースは+1.0%とまだ例年のペース(+1.5%)に追いついていない。この結果、FSCは23.2日と前週比+0.3日と改善、在庫の増加ペースが例年のペースに追いついていないことから、再び過去5年の平均水準(23.4日)を小幅下回ることとなった。原油のところでもコメントしたが、米国の輸送需要が減少に転じる可能性は高く、徐々にFSCは改善していくことが予想される。今回の統計は、事前予想を下回ったものの、生産が稼働率の悪化で落ち込んでいるにも関わらず需要の現象で在庫が略予想通りのレベルで増加していることを鑑みれば先週に続きベアであったといえる。

 ディスティレート在庫も予想を下回る在庫増加となった。供給量が大幅に減少したことが要因である。生産は、稼働率が大幅に悪化したことから、得率は前週比横ばいであったものの4,257KBD(▲232KBD)の大幅減少となった。製品生産の内訳はULSDの生産が3,026KBD(前週比▲315KBD)と特に顕著に減少している。(ヒーティングオイルは前週比+69KBD、ディーゼルオイルは前週比+14KBD)。輸入は生産の減少を補うべく、ULSDが+62KBDと増加、寒波の襲来等でヒーティングオイルの輸入も前週比+116KBDと大幅に増加し、合計で前週比+178KBDの309KBDとなった。この結果、総供給は4,566KBD(前週比▲54KBD、前週比▲0.4MBの在庫減少要因)となった。需要は例年通りの季節サイクルで減少しているが、直近需要は4,216KBD(前週比▲7KBD)と小幅な減少にとどまった。気温低下に伴うヒーティングオイル需要が下支えしているものと見られる。4週平均ベースの需要は先週の大幅な落ち込みが影響し4,358KBD(前週比▲119KBD、+0.8MBの在庫増加要因)と大幅な減少となった。供給・需要の在庫増減要因を合計すると前週比で+0.4MBの在庫増加(先週の在庫増加が1.5MBであったので、+1.1MBの増加)になるが、この計算どおり在庫は+1.2MBの129.8MBの在庫増加となった。在庫増加の内訳は、ULSDが+0.9MB、ヒーティングオイルが+0.2MBとなった。ディーゼルオイルが+0.4MBとなった一方、シーズン品であるヒーティングオイル在庫はP1地区で大幅に増加(+1.1MB)、その他の地区で大幅に減少(▲0.9MB、特にP3の減少が▲0.6MBと顕著)している。P1地区へはP3からも供給されてるため一概にこの地区の需要が減ったとは考えるべきではない。全体のヒーティングオイルの在庫水準は36.3MBと過去5年の最低水準である54.8MBに大きく届かないレベルである。FSCは在庫・需要の両要因で29.8日(前週比+1.0日)と、で過去5年の最低水準(28.1日)を回復した。ラニーニャの影響で寒暖不安定であるが引き続きシーズン品であることもあり、価格の上昇に関わらず(重油へのシフトの可能性はあるものの)ヒーティングオイルの需要が減少することは当面なかろうが、ガソリンと同様、ディーゼル・ULSD等の輸送燃料の需要動向がポイントになってくると見られる。