2008年6月11日発表分

 昨日の米在庫統計は原油ブル、ガソリンニュートラル、ディスティレートベアな内容であった。価格高騰の影響で原油・石油製品とも在庫圧縮の動きが出始めているため過去5年との比較で統計を評価しにくくなってきている。こうなると需要の何日分在庫があるのか?が非常に重要なポイントとなるが、いずれの製品も過去5年平均レベルを回復するまでには至っていない。その観点からは「予想比ベア・ニュートラルの差が毎週あったとしても総じて堅調な推移となり易い」といってよかろう。詳しく見てみよう。

 原油は生産が小幅減少、輸入が引き続き減少したため、稼働率が若干低下したもののここの数週間と同じように大幅な在庫の減少となった。これで4週連続の在庫減少となっており原油在庫は顕著な減少傾向を維持している。これは高い価格の在庫は保有したくないことに伴う在庫圧縮の動きであると考えられ暫くこの動きは続くことになろう。生産は5,114KBD(▲25KBD)と小幅減少した。輸入はP3で▲271KBD、P5で▲221KBDと大幅な減少となったことから、P1の輸入が+340KBDとなったものの全体で▲98KBDの減少となり9,688KBDとなった。これは同じ時期の過去5年の最低水準9,884KBDを大きく下回る水準である。基本、高い原油は輸入したくないとの動きが出ているものと見られる。結果、総供給量は14,802KBD(前週比▲123KBD、▲0.9MBの在庫減少要因)となった。稼働率は+0.3%の改善が予想されていたが前週比▲1.1%と悪化した(+1.3MBの在庫増加要因)。最終需要動向や製品在庫の積み増しにも慎重な姿勢が維持される中、稼働率は季節性を無視して一進一退である。これにより過去5年の最低89.6%を下回る状態が続いている。稼働率は地区毎に各々P1から、▲6.5%、▲2.6%、▲0.3%、▲8.2%、+2.8%となっている。供給量減少を処理量の減少が相殺し、計算上在庫は前週比で+0.4MBの▲4.4MB(先週の在庫増加は▲4.8MB)となるが、略計算通りの前週比▲4.6MBの302.2MB(過去5年平均レベル321.8MB)となった。この時期に在庫が大幅に減少したことは過去6年で1度もなく、やはり足元の価格の急騰が在庫圧縮の動きに企業を走らせている可能性が高いと考えるべきである。FSCは在庫減少・処理量増加で前週比▲0.1日の19.4日となった。過去5年の平均である20.1日を下回っており、このコラムで定義している十分な在庫水準は維持できていない。もし例年通りの稼働率になった場合18.5日分の在庫しかなく、はっきり言って在庫は過去にない低い水準になっている。産油国の生産増加の影響もあって実際のところ原油の供給自体は十分であると考えられるものの、信用市場の悪化に伴う調達金利の上昇や素材価格自体の高騰によって在庫削減を余儀なくされているものであり、依然として有事のバッファがない状態にあることは懸念材料である。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は21.3MB(前週比▲526KB)となった。

 ガソリン在庫は予想を下回る在庫減少となった。稼働率の悪化と得率の悪化で生産が減少、需要が先週から回復したことから在庫増加幅が減少した。生産は▲139KBDの8,974KBDと過去5年平均を下回った。輸入はP1で前週比▲108KBDと減少したことから全体で前週比▲115KBDとなった。結果、総供給は10,169KBD(前週比▲254KBD、前週比で▲1.8MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,318KBD(前週比+17KBD、過去5年平均9,236KBD、▲0.1MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,411KBD(前週比+282KBD、過去5年平均9,222KBD)となった。引き続き前年比マイナス(▲1.7%)の状態が続いている。先週ポイントとして挙げた「ガソリンの需要の減少がやや季節性を無視して減少していること」は、とりあえず今週の統計では継続しなかった(今週は前週比+0.2%の需要増加、例年は▲0.1%の減少)。但し毎度のことであるが今回の統計のみを以って需要が減少したと断じるのは早計であろう、以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲1.9MBの+1.0MBの在庫増加(先週の増加+2.9MB)となるが、略計算どおりの+1.0MBの在庫増加となった。在庫増加の内訳は、その大半がBlending Componentで+1.1MBとなっている。この結果、FSCは22.5日と先週から+0.1日改善し、過去5年の平均水準である22.6日を下回ってしまった。引き続き価格高騰に伴う在庫圧縮の動きが見られると考えられることから、過去のデータと照らし合わせて単純に在庫が足りない、とは言いがたいことも事実である。今回は数値の上ではニュートラルな内容であった。

 ディスティレート在庫は予想を上回る在庫増加となった。生産が稼働率の低下はあったものの得率が改善したことから例年よりも高い水準を維持、輸入が減少、需要が小幅減少したことからしたものの市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が悪化したものの、得率が改善(+0.2%)したことから4,475KBD(▲31KBD)と小幅な減少に留まった。この時期の過去5年の最高水準が4,258KBDであることを考えるときわめて高い水準の生産レベルが維持されている。世界的なディスティレート需要の高まりによる在庫の減少、クラックの拡大によって生産は引き続き堅調。生産の内訳はULSDの生産が▲150KBDと減少する一方、ディーゼルオイルが+94KBDと増加に転じている。輸入は前週比▲84KBDの127KBDとなった。欧州地区のディスティレート需要が旺盛であることから輸入は減少が続いている。この結果、総供給は4,602KBD(前週比▲115KBD、▲0.8MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,101KBD(前週比▲25KBD、+0.2MBの在庫増加要因)と、需要増加率は前週比▲0.6%と例年の+0.1%の需要増加率を下回った。また、前年比ベースでは▲1.5%とガソリン同様前年比マイナスの状態が続いている。全体のバランスでは前週比▲0.6MBの+1.7MB(先週の在庫増加は+2.3MB)となるところであるが、計算を上回る+2.3MBの在庫増加となった。総在庫は114.0MBとなり、過去5年平均レベル113.1MBを回復している。在庫増加の内訳はULSDが+1.4MB、ディーゼルが+0.2MB、ヒーティングオイルが+0.7MBであった。FSCは27.8日(前週比+0.7日)と過去5年平均水準である28.3日を下回る水準となっている。引き続き在庫は十分な状態とはいえないが原油・ガソリンと同様、在庫の圧縮の動きが出ているため評価が難しい。あまり過去5年の実績との比較が意味を持たなくなってきてることは注意したいところである。今回の統計は在庫が増加と需要の減少を受けてしたことを受け、ベアな内容であったと言える。