昨日の米在庫統計は原油若干ベア、ガソリンニュートラル〜ブル、ディスティレートベアな内容であった。価格高騰の影響もあって全体の現物の動きも停滞している、という印象を強く受ける。環境としては在庫圧縮の動きで在庫水準自体が低く、需要は価格上昇の影響で減少傾向が見え始めている。尚、これは米国内の動きであり新興国等の石油製品動向を反映したものではないことは一応念押ししておきたい。詳しく見てみよう。
原油は生産が小幅増加、輸入が大幅に増加したものの、稼働率が大幅に回復したことから在庫は市場予想比大幅な減少となった。これで6週連続の在庫減少であり、この時期には普通見られる動きではない。これは高い価格の在庫は保有したくないことに伴う在庫圧縮の動きであると考えられ暫くこの動きは続くことになろう。生産は5,145KBD(+31KBD)と小幅増加した。輸入はP3で+1,157KBDと大幅な増加となったことからその他の地区が全て減少となったものの全体で+571KBDの大幅減少となり10,259KBDとなった。これは同じ時期の過去5年の平均10,339KBDを下回る水準である。結果、総供給量は15,404KBD(前週比+602KBD、+4.2MBの在庫増加要因)となった。稼働率は+0.5%程度の改善が予想されていたが、さすがに石油製品需給がタイトになってきていることやクラックマージンの改善から前週比+0.7%の改善となった(▲0.9MBの在庫減少要因)。但し、過去5年の最低89.2%を辛うじて上回る程度である。稼働率は地区毎に各々P1から、+5.2%、+0.6%、▲0.3%、+7.3%、+0.7%となっている。供給量増加の影響で計算上在庫は前週比で+3.3MBの▲1.3MB(先週の在庫増加は▲4.6MB)となるが、略計算どおり前週比▲1.2MBの301.0MB(過去5年平均レベル321.9MB)となった。弊社IEAとも供給が不十分である、とのスタンスであるが、同時に足元の価格の急騰が在庫圧縮の動きに企業を走らせている可能性が高いことも事実であろう。FSCは在庫減少・処理量増加で前週比▲0.2日の19.2日となった。過去5年の平均である20.1日を下回っており、このコラムで定義している十分な在庫水準は維持できていない。もし例年通りの稼働率になった場合18.4日分の在庫しかなく、はっきり言って在庫は過去にない低い水準になっているといえる。信用市場の悪化に伴う調達金利の上昇や素材価格自体の高騰によって在庫削減を余儀なくされていることに因るものであり、依然として有事のバッファがない状態にあることは懸念材料である。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は20.6MB(前週比▲613KB)となった。SPR(戦略備蓄)は前週比+491KBの704.7MBとなっている。
ガソリン在庫は予想に反して在庫減少となった。稼働率の回復はあったものの、得率が大幅に悪化したことから生産が横ばい、輸入が大幅に減少したことから需要の減少はあったものの予想に反して在庫減少となった。生産は▲9KBDの8,965KBDと、過去5年の略平均レベルとなった。輸入は主要なP1,P3で減少したことから全体で前週比▲153KBDとなった。結果、総供給は10,007KBD(前週比▲153KBD、前週比で▲1.1MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,291KBD(前週比▲27KBD、過去5年平均9,236KBD、+0.2MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,251KBD(前週比▲160KBD、過去5年平均9,255KBD)となった。ついに直近需要が過去5年平均を下回るに至っている。引き続き前年比マイナス(▲2.3%)の状態が続き、前週比▲0.3%(例年+0.1%)となった。このコラムでは、「ガソリンの需要の減少が季節性を無視して減少している可能性」を指摘していたが、徐々にそういう状態になりつつあるようである。やはり価格高騰が需要の足かせになりつつある可能性が出てきた。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲0.9MBの+0.1MBの在庫増加(先週+1.0MB)となるが、計算とは裏腹に▲1.2MBの在庫減少となった。在庫増加の内訳は、その大半がBlending Component(▲1.9MB)である。この結果、FSCは22.5日と先週と変わらずであった。ここ数週間過去5年の平均水準近辺で推移しているが、今週の統計では過去5年平均(22.7日)を下回った。「価格高騰に伴う在庫圧縮の動き」が見られると考えられることから、過去のデータと照らし合わせて単純に在庫が足りない、とは言いがたいことも事実である。とはいっても在庫の減少は「価格高騰時の消費者の買い急ぎ」を誘発することから価格のアップサイドへのセンシティビティを高めるため引き続き注意せねばならない。今回は数値の上ではニュートラル〜ブルな内容であった(在庫減少はブル、需要減少はベア)。
ディスティレート在庫は予想を上回る在庫増加となった。生産が得率の低下から減少、輸入が増加、需要が小幅減少したことから市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が改善したものの得率が悪化(▲0.5%)したことから4,439KBD(▲36KBD)と先週から小幅減少した。世界的なディスティレート需要の高まりによって、ここ数週間過去5年の最大生産量を上回る状態が続いている。生産の内訳はULSDの生産が小幅減少(▲36KBD)したことが生産減少の要因となった。輸入は前週比+130KBDの257KBDとなった。欧州地区のディスティレート需要が旺盛であることから輸入が進んでおらず、例年の309KBDの輸入量を大きく下回っている。この結果、総供給は4,696KBD(前週比+94KBD、+0.7MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,072KBD(前週比▲29KBD、過去5年平均4,024KBD、+0.2MBの在庫増加要因)、直近需要は4,070KBD(前週比+45KBD、過去5年平均4,043KBD)と、引き続き過去5年を上回る水準は維持しているが、需要増加率は前週比▲0.7%と例年の+0.6%を大きく下回り、やはり需要の季節性が壊れつつあることが確認されている。全体のバランスでは前週比+0.9MBの+3.2MB(先週の在庫増加は+2.3MB)となるところであるが、実際は計算を若干下回る+2.6MBの在庫増加となった。総在庫は116.6MBとなり、過去5年平均レベル114.1MBを回復している。在庫増加の内訳はULSDが+0.9MB、ディーゼルが+0.3MB、ヒーティングオイルが+1.3MB。FSCは28.6日(前週比+0.8日)と過去5年平均水準である28.4日を回復した。需要のゆっくりとした減少の影響で徐々にFSCベースでの在庫水準は過去5年平均を回復してきているようだ。但し、在庫圧縮の動きは価格の高騰によるものであることからあまり過去5年の実績との比較が意味を持たなくなってきてることは注意したいところである。今回の統計は素直に在庫が増加したことを受け、ベアな内容であったと言える。