統計速報(2008年9月4日発表分)

 先週の米在庫統計は原油ブル、ガソリンベア、ディスティレートブルな内容であった。原油の在庫は減少、在庫水準がFSCベースで少ないガソリン・ディスティレートの生産は増加したが、大幅な改善とはならなかった。原油・石油製品ともFSCで5年を維持するオペレーションが継続していると考えているが、「原油を輸入するかしないか」の選択ができるような状態ではない(ハリケーン等の撹乱要因が多い)ことから、しばらく米国内の石油製品需給はタイトな状態が続くことになるだろう。詳しく見てみよう。

 原油は生産が増加、輸入が減少、稼働率が改善したことから在庫は減少した。生産は5,097KBD(+191KBD)と先週から回復した。ここのところ数週間、立て続けに熱帯性低気圧が発生しており、メキシコ湾の生産は安定しているとは言いがたい。来週の統計ではハリケーンの影響で生産量は激減することになると予想する。輸入は先週に続き減少、P3を除く全ての地区で輸入が減少し、前週比▲149KBDの9,830KBDとなった。結果、総供給量は14,927KBD(前週比+42KBD、+0.3MBの在庫増加要因)となった。稼働率は+1.4%の大幅な改善となった。ここ数週間確認されている、ガソリン・ディスティレート在庫の減少を受け製品生産量を増加させていることによるものである。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+3.4%、+1.4%、+0.9%、+0.7%、+1.9%。結局全体で88.7%(▲1.7MBの在庫減少要因)となった。但し過去5年の同時期の稼働率は最低でも90.3%であり、いかに需要が例年比で弱いかが分かる。計算上在庫は前週比で▲1.4MBの▲1.6MB(先週の在庫減少は▲0.2MB)となるが、計算を上回る▲1.9MBとなった。結果、在庫水準は303.9MB(過去5年平均レベル312.2MB)となった。在庫の減少はP3,P5のみであり、その他の地区では増加している。FSCは19.5日(▲0.4日)と、在庫、稼働率の両要因で悪化している(過去5年の平均である19.5日は維持)。過去5年平均と比較して需要対比で同程度の在庫をに数量をコントロールするオペレーションを持続してるため、略予想通りであった。尚、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としているが、今のところ過去5年平均レベルを維持できていることから中東不安勃発、米ロの緊張、ハリケーン直撃といった予見不能なリスク発生時に対しては一定の抵抗力がある在庫水準であるといえる。とはいえ略毎週ハリケーンが発生している状況下では安全な在庫水準とは言えず、供給途絶に伴うアップサイドのリスクが常に存在していることが確認されている。今週もSPRは増減していない(707.2MB、前週比変らず)。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は18.1MB(前週比+805KB)と大幅な増加となり、イールドカーブコンタンゴ化に寄与していると見られる。

 ガソリン在庫は予想を下回る減少に留まった。生産は稼働率と得率が改善したことから大幅に増加、輸入は減少、需要は略横ばいであったが生産増加の影響が大きく、予想を下回る在庫減少となった。生産は稼働率と得率が改善(+0.9%)したことから、+295KBDの9,446KBDとなった。過去5年平均(8,903KBD)を上回るレベルを維持している。輸入はP1で▲375KBD、P3で▲59KBDとなったことから、前週比▲485KBDの883KBDとなった。結果、総供給は10,329KBD(前週比▲190KBD、前週比で▲1.3MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,426KBD(前週比▲15KBD、過去5年平均9,514KBD、+0.1MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,424KBD(前週比+13KBD、過去5年平均9,494KBD)となり、過去5年平均レベルの需要を割り込んだ状態が続いている。米景気悪化の影響で消費は明らかに影響を受けている。前年比ベースの需要の減少は▲2.2%、前週比需要伸び率は▲0.2%(例年▲0.3%)と、景気の減速感が強まる中大幅な需要増加は見込み難い。「可処分所得に占めるエネルギー関連支出」が過去最大だったのは1980年前半の8%で、7月中旬の時点の価格水準でこのレベルに達したものと見られ、価格下落に伴う需要の回復は期待できるものの米国経済の悪化の可能性が高まる中、需要は減少していくことになるだろう。また、季節的にもガソリンの需要が減少する時期である。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲1.2MBの▲2.4MBの在庫減少(先週▲1.2MB)となるが、計算を大きく下回る▲1.0MBの在庫減少に留まった。ドライブシーズン前に積み上げた簿価の高い在庫の蔵出しが一巡し、減少ペースに歯止めが掛かりだした可能性がある。在庫減少の内訳は、Conventional(+0.8MB)、Blending(▲1.9MB)となっている。この結果、FSCは20.6日と▲0.1日悪化、過去5年平均の20.8日を下回る状況である。最終需要動向が不透明なため、引き続き過去5年平均程度にFSCを維持するオペレーションが持続すると考えられ来週以降は輸入が増加するものと予想している。今週の統計はガソリンはベアな内容であった。

 ディスティレート在庫は市場予想とは羅腹に、在庫が減少した。生産は稼働率、得率の改善(+0.3%)により4,518KBD(+123KBD)と増加。生産の内訳はULSD+113KBD、ディーゼルオイル+40KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の4,075KBDを大きく上回り、過去5年の最高水準である4,233KBDをも引き続き上回る状態が続いている。輸入は前週比▲30KBDの93KBD(過去5年平均304KBD、過去5年最低212KBD)と、殆ど輸入されていない。この結果、総供給は4,611KBD(前週比+93KBD、+0.7MBの在庫増増加要因)となった。4週平均需要は4,257KBD(前週比+49KBD、過去5年平均3,985KBD、▲0.3MBの在庫減少要因)、直近需要は4,348KBD(前週比+160KBD、過去5年平均4,011KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲0.3%とマイナス成長に逆戻り、前週比ベース需要増加率も▲0.3%と例年の+1.4%を大きく下回っている。ディスティレート需要が増加する時期であるが、消費の伸びは緩慢である。全体のバランスでは前週比+0.4MBの+0.5MB(先週の在庫増加は+0.1MB)となるところであるが、計算を大きく下回る▲0.4MBの在庫減少となった。総在庫は131.7MBとなり、過去5年平均レベル129.8MBを上回るレベルを維持してはいる。在庫増加の内訳はULSDが▲0.6MB、ディーゼルが+0.5MB、ヒーティングオイルが▲0.3MB。FSCは30.9日(▲0.5日)と大幅に悪化、過去5年平均水準である32.6日を大きく下回っている。ガソリンから燃費のいいディーゼルオイルへのシフトが進んでいるためにガソリン比でディスティレート需要が増加しているわけであるが、どうも米景気のリセッションの可能性が高まる中、需要も頭打ちになってきているようである。しかしながら一方でFSCは過去5年を下回るバッファのない状態が続いており、来週は需要にかげりが見られるもののディスティレートの生産増加が行われると考えている。統計としてはブルな内容であった。