統計速報(2008年11月26日発表分)

 今回の米在庫統計はニュートラル〜ベアな内容であった。石油製品需要は前年比マイナスの状態が続いているが季節性を無視するほどの減少ではなく、価格の急落に伴う供給の安定(というよりも在庫が多少増えても問題ない)によって、石油製品の需給環境は略ニュートラルな状態にある一方、原油に関しては輸入の大幅増加やメキシコ湾からの生産回復の影響もあってベアな内容であった。しかし、更なる価格の下落は生産者の体力をそぐことになるため、供給に問題が生じる懸念もあり、生産者、消費者側とも余り好ましくないといえる。いずれにしてもここ数週間の在庫統計は価格にインパクトを与えるような内容ではなく、詳細な議論をする必要性がなくなってきている。詳しく見てみよう。
 原油は生産が回復、輸入が大幅に増加したため、稼働率が大幅に改善したものの市場予想を上回る大幅な在庫増加となった。生産は5,006KBD(+63KBD)と回復基調が持続。輸入は10,959KBD(+1088KBD)と大幅に増加し、過去過去5年の最高レベルを上回った。P4以外の全ての地区で輸入が増加している。結果、総供給量は15,965KBD(+1151KBD、前週比8.1MBの在庫増加要因)となった。製油所の稼働率はP1, P5を除く地区で大幅に改善している。稼働率は全体で86.2%(+1.5%、前週比1.5MBの在庫減少要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、▲2.0,+2.4,+1.8,+6.8,▲0.8%となっている。計算上在庫は前週比で+6.5MBの+8.12MBの在庫増加(先週の在庫増減は+1.6MB)となるが、実際は+7.3MBとなった。結果、在庫水準は320.8MB(+7.3MB)となった。在庫は輸入の大幅な増加の影響で、P4を除く全ての地区で増加している。在庫の変化はP1から順に、+0.4MB、+2.7MB、+3.9MB、▲0.3MB、+0.5MBとなっている。FSCは21.1日(+0.2日)と在庫要因で小幅改善している。今週もSPRは放出されなかった。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は20.5MB(+1.6MB)となっており引き続き、イールドカーブコンタンゴ化に寄与すると見られる。統計としてはFSCで過去5年を上回る水準まで在庫が積みあがり始めており、総じてベアな統計であったと考える。

 ガソリン在庫は予想を上回る増加となった。生産が稼働率の上昇と得率の改善で増加、輸入も増加、需要がピークシーズンの終了が間近になっていることから減少したため市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が改善し、得率も改善(+0.1%)したことから8,962KBD(+146KBD)となった。クラックマージンのネガティブスプレッド状態が続いているが、季節的に在庫が緩やかに積み増しされる時期であることや、価格の低下の影響で在庫の積み増しをし易い環境にあることが生産増加の要因となっているようである。輸入は980KBD(+120KBD)と回復している。結果、総供給は9,942KBD(+266KBD、前週比1.9MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,942KBD(+266KBD、前週比1.9MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで8,976KBD(▲53.25KBD, 前週比0.4MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,158KBD, 過去5年最高 9,283KBD, 過去5年最低 9,067KBD)と、季節要因で減少している。米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は▲3.3%とマイナスの状態が続いており、前週比需要伸び率は▲0.6%(例年▲0.3%)と季節性は維持しているものの、若干例年よりも減少のペースが早いようである。以上を合計するとバランス上は在庫は+2.2MBの+2.8MBの在庫増加(先週の在庫増減は+0.5MB)となるが、計算を若干下回る+1.8MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional94.4MB(+5.3MB)、Blending105.3MB(+10.5MB)となっている。この結果、FSCは22.3日(+0.3日)と改善、過去5年平均である21.7日を上回り、本コラムで定義する「安全レベル」まで在庫が積みあがることとなった。最終需要動向は徐々に落ち着きを取り戻しつつあることや、政府の相次ぐ経済・金融政策の影響で資金繰りへの過度な懸念が若干後退していること、価格水準自体が低くなっていること、季節的に在庫が緩やかに増加する時期であること、から徐々に在庫水準が切り上がってきている状況。今のところ、供給の途絶に伴う価格の急騰リスクは以前に比して低下していると見ておくべきだろう。但し、更なる経済危機の発生により資金調達に懸念が生じるような場合にはこの限りではない。統計としては市場予想比若干ブル、総じてニュートラルな内容であった。

 ディスティレート在庫は小幅な減少となった。生産は稼働率の改善と得率の改善(+0.9%)を受けて4,609KBD(+199KBD)と大幅に増加。生産の内訳はULSD3,342KBD(+134KBD)、ディーゼルオイル746KBD(+109KBD)、ヒーティングオイル521KBD(▲44KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,180KBDを大きく上回るレベルでの推移が続いている。原油価格の急落に伴うディスティレートクラックの拡大により、ガソリン対比でディスティレートの生産増加のインセンティブが高まっていることや、消費の崩壊に歯止めが掛かりつつあること、燃費を重視したディーゼル車へのシフトが起きていることなどが生産の大幅な増加の要因である。輸入は234KBD(+112KBD)と増加し、過去最低水準である205KBDを再び上回った。この結果、総供給は4,843KBD(+311KBD、前週比2.2MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,843KBD(+311KBD、前週比2.2MBの在庫増加要因)、直近需要は4,024KBD(+12.25KBD, 前週比0.1MBの在庫減少要因。過去5年平均 4,252KBD, 過去5年最高 4,442KBD, 過去5年最低 4,104KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲9.0%と大幅な悪化が続いているが、前週比ベース需要増加率は+0.3%と例年の±0.0%(冬場に入る前の端境期で需要が一旦減少する時期)を上回っており、価格の下落が需要を下支えしていることが分かる。浮き彫りとなった。しかしガソリンも含めた米国の輸送需要は、季節性こそ戻ってきたものの全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。全体のバランスでは前週比+2.1MBの+0.6MBの在庫増加(先週の在庫増減は▲1.5MB)となるところであるが、▲0.2MBの在庫減少となった。総在庫は127MB(▲0.2MB, 過去5年平均 126.2MB, 過去5年最高 133.8MB, 過去5年最低 114.6MB)となり、過去5年平均レベル126.2MBを漸く上回った。製品毎の在庫の内訳はULSDが66.5MB(+0.0MB)、ディーゼルが18.4MB(+1.5MB)、ヒーティングオイルが41.7MB(▲2.9MB)。FSCは31.5日(▲0.1日)となった。これは過去5年平均水準である29.7日を上回る水準であり、安全水準を確保できている。価格下落や政府の経済対策の影響で以前に比して在庫が積み増し易い環境にあると考えられるが、更なる経済危機が発生した場合にはこの限りではない。統計としてはニュートラルな内容であった。