統計速報(2008年12月10日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、製品ベアな内容であった。概ね、FSCを過去5年のレンジ内に収めるオペレーションが続いており(以前は過去5年平均に維持するオペレーションであったが、価格の急落やイールドカーブの全ゾーンコンタンゴ化の影響で在庫の保有が容易になっている)、在庫は総じて高い水準での推移となっている。石油製品需要の前年比割れの状態は深刻であり、米国経済の立ち直りには未だ時間を要することは、週末のビッグ3の救済策白紙撤回の影響もあって明らかである。詳しく見てみよう。
 原油は生産が回復、輸入mo大幅に減少したものの、稼働率が大幅に改善したことから市場予想と裏腹に在庫減少となった。生産は5,152KBD(+34KBD)と回復基調が持続。輸入は9,959KBD(+455KBD)と大幅に増加し、過去過去5年最大レベル(10,299KBD)に迫った。P1,P5での輸入増加が顕著である(+324KBD、+332KBD)。結果、総供給量は15,111KBD(+489KBD、前週比3.4MBの在庫増加要因)となった。製油所の稼働率はP4以外の全ての地区で大幅に改善している。稼働率は全体で87.4%(+3.8%、前週比3.8MBの在庫減少要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+2.2,+4.6,+4.0,▲0.2,+0.1%となっている。価格低下に伴い、在庫の保有がし易い環境になってきたことが材料として挙げられよう。しかし、製油所の稼働率は過去5年の最低である89.3%を依然として下回っている。計算上在庫は前週比で▲0.4MBの▲0.86MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲0.5MB)となるが、実際は+0.4MBとなった。結果、在庫水準は320.8MB(+0.4MB)となった。在庫は稼働率の大幅な上昇の影響で、P2, P3,P4での減少が顕著(各々▲0.3MB、▲1.8MB、▲0.2MB)であったが、P5在庫が、輸入増加と稼動率が横ばいであったことから+2.2MBとなったことで、殆ど相殺された。在庫の変化はP1から順に、+0.4MB, ▲0.3MB, ▲1.8MB, ▲0.2MB, +2.2MB となっている。FSCは20.8日(▲0.7日)と稼働率要因で悪化している。概ね原油在庫の水準は過去5年レンジの上限で推移している。今週もSPRは放出されなかった。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は22.8MB(▲0.1MB)と小幅な減少となっており、イールドカーブコンタンゴ化には一旦歯止めが掛かる可能性がある。統計としてはほぼニュートラルな統計であった。

 ガソリン在庫は予想に反して大幅な増加となった。生産が稼働率の改善で大幅に増加し、需要が略横ばいであったためである。生産は稼働率が改善し、得率が▲0.2%と悪化したことから8,999KBD(+283KBD)となった。季節的に在庫が緩やかに積み増しされる時期であるため、FSCベースでの在庫水準がやや高くなっているが、総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションが続いており、クラックスプレッドがマイナスの状態が続いていることもあって実は極端な在庫積み増しが行われているわけではない。輸入は1,106KBD(+222KBD)と大幅に増加。結果、総供給は10,105KBD(+505KBD、前週比3.5MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで10,105KBD(+505KBD、前週比3.5MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで8,939KBD(+3.25KBD, 前週比0.0MBの在庫減少要因。過去5年平均 9,158KBD, 過去5年最高 9,264KBD, 過去5年最低 8,928KBD)と、季節要因で減少している。米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は▲3.9%とマイナスの状態が続いているが、前週比需要伸び率は±0.0%(例年+0.1%)と季節性は維持している。以上を合計するとバランス上は在庫は+3.5MBの+2.0MBの在庫増加(先週の在庫増減は▲1.5MB)となるが、計算を上回る+3.7MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional92.7MB(+0.7MB)、Blending109.2MB(+25.5MB)となっている。この結果、FSCは22.7日(+0.4日)と在庫要因で小幅上昇。しかし、過去5年の最高水準である22.5日と同レベルであり、明らかに本コラムで定義する「安全レベル」まで在庫が積み上がっている状態。最終需要動向は不況とはいいつつも徐々に落ち着きを取り戻しつつあることや、政府の相次ぐ経済・金融政策の影響で資金繰りへの過度な懸念が若干後退していること、価格水準自体が低くなっていること、季節的に在庫が緩やかに増加する時期であること、から徐々に在庫水準が切り上がってきている。今のところ、「供給の途絶」に伴う価格の急騰リスクはなくなってきていると見ておくべきだろう(政策による景気回復期待による高騰リスクは排除しない)。但し、更なる経済危機の発生により資金調達に懸念が生じるような場合にはこの限りではない。週末のビッグ3救済案否決のインパクトは非常に大きい。統計としては市場予想比ベアであった。

 ディスティレート在庫は市場予想と裏腹に大幅に増加した。生産は稼働率が改善し得率が+1.2%と改善したことから4,654KBD(+340KBD)と大幅に増加。生産の内訳はULSD3,313KBD(+201KBD)、ディーゼルオイル727KBD(+59KBD)、ヒーティングオイル614KBD(+80KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,345KBDを上回るレベルでの推移が続いている。原油価格の急落に伴うディスティレートクラックの拡大により、ガソリン対比でディスティレートの生産増加のインセンティブが高まっていることや、消費の崩壊に歯止めが掛かりつつあること、燃費を重視したディーゼル車へのシフトが起きていることなどが生産の大幅な増加の要因である。輸入は103KBD(▲13KBD)と減少し、過去5年平均である195KBDを大きく下回っている。この結果、総供給は4,757KBD(+327KBD、前週比2.3MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,757KBD(+327KBD、前週比2.3MBの在庫増加要因)、直近需要は3,927KBD(▲63.25KBD, 前週比0.4MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,176KBD, 過去5年最高 4,426KBD, 過去5年最低 3,917KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲10.4%と大幅な悪化が続いているが、前週比ベース需要増加率は▲1.6%と例年の▲0.4%を下回った。恐らく米国内の輸送需要に占めるディーゼルオイルの比率は高まっているものと考えるが、ディスティレート需要の減少は輸送需要の減少を示している可能性が高く、全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。全体のバランスでは前週比+2.7MBの+1.0MBの在庫増加(先週の在庫増減は▲1.7MB)となるところであるが、+5.6MBの在庫増加となった。総在庫は131MB(+5.6MB, 過去5年平均 128.5MB, 過去5年最高 132.4MB, 過去5年最低 117.9MB)となり、過去5年平均レベル128.5MBを再び上回った。製品毎の在庫の内訳はULSDが69.6MB(+19.0MB)、ディーゼルが19.7MB(+8.5MB)、ヒーティングオイルが41.3MB(+11.8MB)。FSCは33.3日(+1.9日)となった。これは過去5年の最高水準である33.7日に迫る水準であり、安全水準を確保できている。価格下落や政府の経済対策の影響で以前に比して在庫が積み増し易い環境にあると考えられるが、更なる経済危機が発生した場合にはこの限りではない。統計としてはベアな内容であった。