統計速報(2009年5月6日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、ガソリンブル、ディスティレートベア な内容であった。ガソリンのFSC水準は過去5年最高水準を上回っているものの、稼働率をこれ以上引き下げるとドライブシーズン中の在庫が不十分となることから、結果的にディスティレートの在庫が増えてしまう、という状態が継続している。今回の統計で重要なポイントは急速な石油製品需要の後退であろう。経済対策の効果で景気のそこ底割れが回避される可能性が高くなってきているものの、新型インフルエンザの影響で人モノの動きが鈍化、輸送需要に大きな影響が出始めていると見られる。教科書どおりであればインフルエンザは夏までに終息すると見られるが、予断を許さない状況となってきた。詳しく見てみよう。
 原油は生産は横ばい、輸入が増加したが稼働率が大幅に上昇したことから市場予想を下回る在庫増加にとどまった。生産は5,280KBD(+11KBD)と過去5年の平均水準を維持。輸入は9,920KBD(+96KBD)とP5の増加がP3の減少を相殺し、前週比プラス。結果、総供給量は15,200KBD(+107KBD、前週比0.7MBの在庫増加要因)となった。製油所の稼働率はすべての地区で改善しており、稼働率は全体で85.3%(+3.3%、前週比3.3MBの在庫減少要因)。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、+1.2%,+2.5%,+2.6%,+9.5%,+2.3%となっている。石油製品の在庫水準をFSCベースで過去5年のレンジに収めるため輸入量・稼働率の調整を要求されているが、石油製品需要が生産者予想よりも低かったものと見られる(後述)。計算上在庫は前週比で▲2.5MBの+1.55MBの在庫増加(先週の在庫増減は+4.1MB)となるが、計算を下回る+0.6MBとなった。結果、在庫水準は375.3MB(+0.6MB)となった。在庫はP3の大幅減少をP1とP5の在庫増加が相殺している。在庫量の変化はP1から順に、+0.5MB, ▲0.2MB, ▲1.9MB, ▲0.2MB, +2.3MB となっている。FSCは24.9日(▲0.8日)と増加。過去5年レンジの上限を上回る状態が継続しており、原油供給は十分と言える。今週は2.1MB、SPRが積み増しされた。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は29.8MB(+0.1MB)と微増、イールドカーブの形状には大きな影響を与えないと見ている。統計としては市場予想比ブルな内容であったものの、統計の絶対的な内容は引き続きニュートラル〜ベアな内容である。

 ガソリン在庫は予想に反し在庫減少となった。稼働率の上昇はあったものの得率が低下したことや、輸入量が低水準で推移したことが材料。但し需要の伸びはドライブシーズンであるにも関わらず低調である。生産は稼働率が改善し、得率が▲1.0%と悪化したことから8,918KBD(+128KBD)となった。総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションを継続させている。ここ数週間の生産増加の影響で、FSCは、過去5年レンジの上限を上回ってしまっているが、今回は輸入量を小幅調整している。輸入は823KBD(▲18KBD)と小幅減少。結果、総供給は9,741KBD(+110KBD、前週比0.8MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,741KBD(+110KBD、前週比0.8MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,039KBD(▲25.25KBD, 前週比0.2MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,192KBD, 過去5年最高 9,286KBD, 過去5年最低 9,123KBD)となった。経済対策の影響等もあり、消費は比較的順調に回復をしてきたが、価格上昇の影響などもあって明らかに鈍化してきている。前年比ベースの需要の減少は引き続き▲2.4%とマイナスの状態が続いている。需要の前週比での変化率は▲0.3%(例年+0.1%)となった。比較的ガソリンの需要は堅調であると考えていたが、新型インフルエンザ問題等影響も大きく、輸送需要は足許低迷しているようだ。但し夏場に向けてインフルエンザ問題は解消すると見られることから需要の極端な増加はある意味一時的なものであると見ている。以上を合計するとバランス上は在庫は+0.9MBの▲3.7MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲4.7MB)となるが、計算を大きく下回る▲0.2MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional84.4MB(+3.1MB)、Blending126.2MB(▲3.8MB)となっている。この結果、FSCは23.5日(+0.0日)と先週から低下し、過去5年の上限レンジを若干上回るレベル。最終需要動向は景気対策の影響等で徐々に回復してきているのだが、ここ数週間の価格上昇の影響や新型インフルエンザ問題もあってしばらくは頭打ちになると考えている。統計としては市場予想比ブルな内容であったが、原油と同じく総じて絶対的な内容はニュートラルである。
 ディスティレート在庫は市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が改善し得率が▲0.5%と悪化したことから4,207KBD(+54KBD)と小幅増加。生産の内訳はULSD3,199KBD(+78KBD)、ディーゼルオイル607KBD(▲21KBD)、ヒーティングオイル401KBD(▲3KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準を若干下回るレベル。在庫の著しい積み上がりを受け、生産調整を余儀なくされている。輸入は165KBD(+42KBD)と小幅増加しているが、過去5年レンジを下回る状態が継続している。この結果、総供給は4,372KBD(+96KBD、前週比0.7MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,372KBD(+96KBD、前週比0.7MBの在庫増加要因)、直近需要は3,527KBD(▲154.75KBD, 前週比1.1MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,165KBD, 過去5年最高 4,321KBD, 過去5年最低 3,951KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲17.2%と大幅な悪化、また前週比▲4.2%(例年+0.5%)と減少し、季節性が崩壊しつつある。新型インフルエンザ問題もあって、輸送需要は減少している。但し夏場にインフルエンザ問題は終息すると見られることからこの需要減少は一時的なものに留まろう。全体のバランスでは前週比+1.8MBの+3.5MBの在庫増加(先週の在庫増減は+1.8MB)となるところであるが、+2.4MBの在庫増加となった。総在庫は147MB(+2.4MB, 過去5年平均 109.5MB, 過去5年最高 117.1MB, 過去5年最低 102.6MB)となり、過去5年最高レベル117.1MBを大きく上回っている。この時期、ディスティレート在庫は増加を始めるのだが、既に高い水準まで在庫が積み上がっており、むしろ在庫圧縮をせねばならない状態であるにも関わらず、在庫増加に歯止めが掛からない。ドライブシーズンであることもあってガソリンのFSCを高く維持するオペレーションがULSD、ディスティレート在庫の水準を高止まりさせているようだ。よって更に稼働率を引き下げにくい環境になっておりしばらくは、ディスティレート価格の下押し材料となろう。製品毎の在庫の内訳はULSDが86.9MB(+6.8MB)、ディーゼルが21.0MB(+4.0MB)、ヒーティングオイルが38.6MB(+6.2MB)。FSCは41.5日(+2.4日)となった。これは過去5年の最高水準である28.0日をはるかに上回るレベルであり、明らかに多すぎである。統計としては引き続きベアな内容であった。