先週の米在庫統計は原油ブル、ガソリンブル、ディスティレートベアな内容であった。ハリケーンの襲来の頻発に伴う原油供給の停止や製油所の稼働率低下といった「有事」であることから今回の統計のみをもって先々を見通すことは難しいが、「景気悪化が鮮明になる中での在庫減少」であったことから市場への統計自体のインパクトは極めて限定的なものとなった。とはいっても、ハリケーンが今後もメキシコ湾を脅かすようなことが続けば、いくら景気が悪化する、といっても石油製品価格は上昇することになろう。しばらくは天気とマクロ経済の綱引きの状態が続くことになると考える。詳しく見てみよう。
原油は生産が大幅に減少、輸入も大幅に減少したことから、稼働率が大幅に悪化したものの大幅な在庫減少は免れなかった。大型ハリケーンの相次ぐ襲来でメキシコ湾の油田の稼動が略100%停止した状態にあるためである。生産は4,084KBD(▲1,013KBD)と先週から大幅に悪化。輸入も先週に続き減少、ハリケーンの影響でP3の輸入減少が▲1,285KBDと顕著で、P1などの輸入増加はあったが結局全体で、前週比▲1,249KBDの8,581KBDとなった。結果、総供給量は12,665KBD(前週比▲2,262KBD、▲15.8MBの在庫減少要因)となった。原油の供給が減少する中、当然稼働率も大幅に低下し、前週比▲10.4%の78.3%となった。やはりP3での稼働率低下が顕著(▲22.5%)である。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+4.4%、+1.2%、▲22.5%、▲1.2%、▲1.8%。結局全体で78.3%(+12.8MBの在庫増加要因)となった。計算上在庫は前週比で▲3.0MBの▲4.9MB(先週の在庫減少は▲1.9MB)となるが、計算を上回る▲5.8MBの在庫減少となった。結果、在庫水準は298.0MB(過去5年平均レベル308.995MB)となった。在庫の減少はP1,P2,P5で顕著(各々▲0.7MB、▲2.5MB、▲4.6MB)であり、その他の地区では増加している。FSCは21.6日(+2.2日)と稼働率要因で大幅に改善している。しかしながらもし例年の稼働率レベルを回復した場合、18.0日分の在庫しかなく、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としているが、来週以降、在庫の水準は有事のバッファがない状態に突入する可能性が高い。略毎週ハリケーンが発生している状況下では安全な在庫水準とは言えず、供給途絶に伴うアップサイドのリスクが常に存在していることが確認されている。今週もSPRは増減していない(707.2MB、前週比変らず)。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は17.7MB(前週比▲441KB)と再び減少に転じた。統計としては明確に市場予想比ブルな内容であった。
ガソリン在庫も予想を大きく上回る在庫減少となった。生産は得率の改善を稼働率の悪化が完全に相殺、大幅な生産減少となった。輸入はハリケーン被害の少ないP1で増加したことから前週比増加、需要も大幅に減少したものの、生産の大幅な減少の影響で結局大幅な在庫減少となった。生産は稼働率の悪化が得率が改善(+0.4%)を完全に相殺したことから、▲1,048KBDの8,398KBDとなった。過去5年平均(8,940KBD)を下回るレベルである。当然ながら生産減少が最も大きかったのはハリケーンの影響で従業員が避難していたP3(▲787KBD)である。輸入はP1で+184KBD、P3で+42KBDとなったことから、前週比+238KBDの1,121KBDとなった。結果、総供給は9,519KBD(前週比▲810KBD、前週比で▲5.7MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,337KBD(前週比▲89KBD、過去5年平均9,477KBD、+0.6MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,090KBD(前週比▲334KBD、過去5年平均9,352KBD)となり、過去5年平均レベルの需要を割り込んだ状態が続いている。米景気悪化の影響で消費は明らかに影響を受けており、前年比ベースの需要の減少は▲2.6%となっている。しかし実は需要の減少は若干歯止めが掛かりつつあるようで、前週比需要伸び率は▲0.9%(例年▲0.9%)と例年通りの需要減少パターンに戻ってきている。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲5.1MBの▲6.1MBの在庫減少(先週▲1.0MB)となるが、略計算通りの▲6.5MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional(▲3.8MB)、Blending(▲2.6MB)となっている。この結果、FSCは20.1日と▲0.5日悪化、過去5年平均の20.9日を大きく下回る状況である。最終需要動向が不透明なため引き続き過去5年平均程度にFSCを維持するオペレーションが持続すると考えられるが、継続的に襲来するハリケーンの影響で石油製品在庫はFSCベースで過去5年平均を維持するのが難しい状況が11月ごろまでは続くことになろう。このことは石油製品価格の下支え要因となるので引き続き、ハリケーン等の天災情報には注意しなければならない。統計としては市場予想比明確にブルな内容であった。
ディスティレート在庫は市場予想を下回る在庫減少に留まった。生産は稼働率、得率の悪化(▲0.5%)により3,921KBD(▲597KBD)と減少。生産の内訳はULSD▲375KBD、ディーゼルオイル▲186KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の4,129KBDを大きく下回ってしまった、これは偏にハリケーンの影響によるものであり上、生産減少はその殆どがP3のもの(▲587KBD)である。輸入は前週比+24KBDの117KBD(過去5年平均378KBD、過去5年最低313KBD)と、殆ど供給に寄与していない。世界的なディーゼルオイル需要の高まりが、米国への輸入量を減じているようだ。この結果、総供給は4,038KBD(前週比▲573KBD、▲4.0MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,130KBD(前週比▲128KBD、過去5年平均3,983KBD、+0.9MBの在庫増加要因)、直近需要は3,895KBD(前週比▲453KBD、過去5年平均3,962KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲1.5%と先週に続いてマイナス成長となり、前週比ベース需要増加率も▲3.0%と例年の▲0.3%を大きく下回っている。ディスティレート需要が増加する時期であるが、消費の伸びは極めて緩慢である。景気悪化が鮮明になりつつある中、消費回復の足取りは極めて重い。全体のバランスでは前週比▲3.1MBの▲3.5MB(先週の在庫減少は▲0.4MB)となるところであるが、▲1.3MBの在庫減少にとどまった。総在庫は130.5MBとなり、過去5年平均レベル132.4MBを下回ってしまった。在庫変化の内訳はULSDが▲1.1MB、ディーゼルが▲0.7MB、ヒーティングオイルが+0.6MB。FSCは31.6日(+0.7日)と大幅に改善した。しかしながら過去5年平均水準である33.3日を大きく下回る状況が続いており、ハリケーン襲来が頻発する状況下、需要自体が堅調ではないものの消費に見合うだけの安定した在庫水準が維持できているとは言いがたい。ガソリン同様、引き続き天気予報とマクロ経済動向に注目せねばならない状況が続くことになろう。統計としては市場予想比ベアな内容であった。