統計速報(2009年8月19日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ブル、ガソリンニュートラル、ディスティレートニュートラルな内容であった。回復が進まない石油製品需要を背景として石油製品在庫が積みあがっており、原油輸入が調整、原油は大幅な在庫減少となった。当コラムで在庫の十分・不十分を判断する上で重要視しているFSCは需要が回復していないことから過去5年のレンジを大きく上離れしており、いずれの石油製品、原油とも「供給過剰」な状態であることには変わりはない。実体経済の回復のないまま続く価格上昇が消費に深刻な影響を与えなければ良いのだが...。また今週は早くもカテゴリー4のハリケーン「ビル」が発生しており、夏場〜秋にかけての供給不安が材料となるだろう。また、著しく積み上がったディスティレートのウィンターグレードへの転換が無事進むだろうか、ということも今後の課題となるだろう。詳しく見てみよう。
 原油は生産が横ばいであったものの、輸入が更に減少し過去最低水準を大幅に下回るレベルまで低下、稼働率が小幅上昇したこともあって、大幅な在庫減少となった。生産は5,169KBD(▲3KBD)と過去5年レンジ内での生産を維持。その一方輸入は8,113KBD(▲1417KBD)とP1を除く全ての地区で大幅な減少となった。これに伴い輸入の水準は過去5年レンジを下抜けた。引き続き米国の石油製品需要の回復速度が緩慢であり、不必要な原油が輸入されていないものと考えられる。尚、早くもハリケーン「ビル」が発生しているが、まだ輸入・生産には影響が出ていない。結果、総供給量は13,282KBD(▲1420KBD、前週比9.9MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP3,P4では回復したが、それ以外の地区では低下しており、全体で84.0%(+0.6%、前週比0.6MBの在庫減少要因)。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、▲6.3%,▲1.0%,+2.1%,+10.9%,▲0.2%となっている。計算上在庫は前週比で▲10.6MBの▲8.07MBの在庫減少(先週の在庫増減は+2.5MB)となるが、略計算どおりの▲8.4MBとなった。結果、在庫水準は343.6MB(▲8.4MB)となった。在庫は輸入の大幅に減少したP3の減少が顕著であった。在庫量の変化はP1から順に、+0.2MB, ▲1.1MB, ▲6.7MB, ▲0.2MB, ▲0.5MB となった。FSCは23.1日(▲0.7日)と在庫、稼働率両要因で大幅に低下。しかし、原油在庫の水準はFSCベースで過去5年レンジを上抜けた状態が続いている。原油在庫もFSCベースで過去5年の適正レベルを上回る在庫水準となっており、明らかに余剰状態である。今週もSPRは変わらず。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は33.3MB(▲0.3MB)と減少、イールドカーブのフラット化が進むこととなろう。統計としてはニュートラルな内容であるものの、市場予想比明確にブルな内容であった。

 ガソリンは生産が稼働率が改善したことから、得率が悪化したものの増加、輸入が減少、需要が略横ばいであったことから先週に続き在庫減少となった。生産は稼働率が改善し、得率が▲0.1%と悪化したことから8,899KBD(+39KBD)となった。輸入は942KBD(▲32KBD)と減少、5年レンジの下限での推移が続いている。結果、総供給は9,841KBD(+7KBD、前週比0.0MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,841KBD(+7KBD、前週比0.0MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,132KBD(▲12.5KBD, 前週比0.1MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,509KBD, 過去5年最高 9,624KBD, 過去5年最低 9,392KBD)となった。需要の前年比での減少率は▲3.22%とマイナスの幅が拡大、前週比での変化率は▲0.14%(例年+0.05%)と価格の上昇の影響もあって、頭打ちの状態となっている。景気は最悪期は脱したとの見方が強いが、価格水準が引き続きネックとなり需要の戻りは緩慢な状態が続くことが予想される。株価の急騰に伴うマインド改善効果による需要の増加は、株価が下落した場合、あるいはガソリン価格が急騰した場合にはなくなってしまう可能性が高いことから、引き続き株価動向は無視できない展開が続くことになると考えている。以上を合計するとバランス上は在庫は+0.1MBの▲0.8MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲0.9MB)となるが、▲2.2MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional83.2MB(▲4.3MB)、Blending125.3MB(▲8.0MB)となっている。この結果、FSCは23.0日(▲0.2日)と先週から小幅低下したが、引き続き過去5年レンジから上離れしている。統計としてはFSCが低下しており、市場予想比でブルな内容であったと考えられるものの、総じてニュートラルな状態は変らない。


 ディスティレート在庫は小幅な在庫減少となった。生産は稼働率が改善し得率が▲0.3%と悪化したことから3,805KBD(▲18KBD)と先週から小幅減少。生産の内訳はULSD2,992KBD(+68KBD)、ディーゼルオイル406KBD(▲50KBD)、ヒーティングオイル407KBD(▲36KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最低水準を大きく下回っている。在庫の著しい積み上がりと需要の回復が緩慢なことから低水準の生産が続いているが、生産調整可能な範囲を超えていると見られ調整幅は限定されている。輸入は179KBD(+17KBD)と減少。そもそも在庫水準が高すぎるため海外からディスティレートを輸入する必要性は殆どない。この結果、総供給は3,984KBD(▲1KBD、前週比0.0MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は3,984KBD(▲1KBD、前週比0.0MBの在庫減少要因)、直近需要は3,339KBD(+2.75KBD, 前週比0.0MBの在庫減少要因。過去5年平均 4,064KBD, 過去5年最高 4,209KBD, 過去5年最低 3,962KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲20.67%と先週から減少幅を拡大、前週比ベースでは+0.08%(例年▲0.38%)と小幅な改善が続いている。しかし、そもそも需要のレベルが低すぎることから多少、前週比で需要が回復しても殆ど統計全体に影響が出てこない状態である。全体のバランスでは前週比▲0MBの+0.8MBの在庫増加(先週の在庫増減は+0.8MB)となるところであるが、▲0.7MBの在庫減少となった。総在庫は162MB(▲0.7MB, 過去5年平均 129.4MB, 過去5年最高 133.2MB, 過去5年最低 124.6MB)となり、過去5年最高レベル133.2MBを遥かに上回っている。世界的にディーゼルオイルの在庫水準は高く輸送需要は低迷しているといって良く、ディスティレート価格は総じて頭重い推移が続くことになると考えている。製品毎の在庫の内訳はULSDが93.8MB(+3.4MB)、ディーゼルが20.4MB(▲5.3MB)、ヒーティングオイルが47.4MB(▲2.6MB)。FSCは48.4日(▲0.2日)となった。これは過去5年の最高水準である33.0日をはるかに上回るレベルであり、多過ぎであることはコメントする必要もないだろう。今後は冬場に向けたウィンターグレードへの転換が順調に進むかどうかがポイントとなろう。統計としては市場予想比ブルな統計であるが、絶対水準は引き続き明確にベアな内容であると言える。