統計速報(11月28日発表分)

 昨日の米在庫統計はマイルドにベアな内容であった。原油稼働率の大幅改善はあったが、健全な形での在庫小幅減少となった。ガソリンは需要が増加する中での在庫積み増しができており、ディスティレートも略同様であった。個別に少し詳しく見てゆこう。

 原油は生産が大幅に増加し、元の水準を回復したこと、輸入も大幅に増加したことから、製油所の稼働率の大幅な増加はあったものの市場予想に近い在庫減少となった。生産は5,117 KBD(+175KBD)と大幅に増加し、先々週の水準を略回復するに至っている。一部メキシコ湾の油田からの生産減少が伝えられていたが、回復したと見られる。輸入はP2を除いく全ての地区で増加し、10,354KBD(前週比+534KBD)となった。ここ数週間のクラックマージンの回復(特にヒーティングオイル)を受けて、稼働率が回復したことが要因である。結果、総供給量は15,471KBD(前週比+709KBD, +5.0MBの在庫増加要因)となったが、稼働率が市場予想を上回る大幅な改善(+2.4%、▲3.0MBの在庫減少要因。P1の稼働率が先週の大幅に回復の反動で悪化(前週比▲3.4%)したが、それ以外は全ての地区で大幅な改善に)したことから在庫は前週比▲0.5MBの313.153MBとなった。今回の在庫統計での原油在庫減少の殆どはP3の在庫減少(▲3.3MB)によるものである。一応在庫の減少ペースは例年並になっている。得率はガソリン、というよりも輸送需要系の商品の得率が悪化する一方で、シーズン中であること、クラックが改善していることからヒーティングオイルの得率が上昇している。FSCは在庫減少、稼動率の上昇で20.1日と先週から0.6日悪化している。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は15,229KBD(+665KBD)と2週連続で大幅に増加している。このことは現物渡しを選好するプレイヤーの減少を意味し、バック縮小に寄与するものと考えられる。

 ガソリンは予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が大幅に改善したことから、得率の悪化(57.8%、前週比▲1.3%)があったこともあり、全体で9,020KBD(前週比+56KBD)となった。輸入は835KBD(前週比▲289KBD)と過去5年平均である906KBDを下回った。結果、総供給は9,855KBD(前週比▲233KBD、前週比で▲1.6MBの在庫減少要因)となった。一方需要は足元の需要が大幅に増加(直近ベースの需要は9,356KBD(前週比+134KBD、過去5年の最高水準9,356KBDをとうとう上回る、過去5年平均9,087KBD))、4週平均ベースでは例年の動きと異なり、小幅な増加となった(9,283KBD、過去5年の最高水準9,254KBDと再び過去5年の最高を上回る)。需要増加は前週比±0.0%と、例年の▲0.5%を上回った。この結果、在庫は196.628MB(前週比+1.4MB)と予想を上回る在庫増加となった。内訳的には、Blending Componentが+1.7MBとなったほか、RBOBが+1.3MBとなっている。地区的には在庫増加の殆どがP1での増加(+1.4MB)である。足元の需要の減少が先週までは顕著であったが、ここに来てまた例年のペースを上回る需要が確認された。引き続き米景気減速、ガソリン価格自体の高騰に伴う輸送燃料需要の動向には十分注意する必要があるが、今週の統計では優位な需要検証傾向は確認できなかった。結果、FSCは21.2日と小幅改善、再び過去5年の最低水準20.8日を回復するに至っている。但し、繰り返しコメントしているようにFSCベースで少なくとも過去5年水準(21.8日)を回復しなければ、有事のバッファがないと言ってよい。今回の統計は在庫増加がP1地区に偏ってはいたものの、生産が減少し、需要が増加する中での在庫増加であったことから比較的健全な在庫増加であり、ベアな内容であったと考えている。但し少し長い見通しに関しては、期末を控えて価格高騰に伴う在庫保有インセンティブが低い中、同様に価格高騰に伴う需要減少が先々発生する可能性も否定できず、クラックマージンも悪化していることも生産を阻害する要因となり得、歴史的低水準の在庫レベルが変わることはなかろう。引き続きガソリン価格は大きく下落するような環境にないといってよい。

 ディスティレート在庫は市場予想を下回る在庫減少に留まった。内訳的にはピークシーズンであるヒーティングオイルの在庫減少が顕著である一方、ULSD需要が減少した。ディーゼルは略変わらず。生産は、稼働率の大幅な改善を受け、得率が横ばいであったことから4,302KBD(前週比+112KBD)となった。内訳的にはULSDの生産が小幅増加する中、ディーゼルとヒーティングオイルの生産が増加した。輸入はULSDの輸入が大幅に減少(▲111KBD)、ヒーティングオイルの輸入増加(+48KBD)の影響で、203KBD(前週比▲64KBD)と小幅な増加なったことから、総供給は4,505KBD(前週比+44KBD、前週比+0.3MBの在庫増加要因)となった。その一方で需要は気温低下の影響等からヒーティングオイルが増加し、得率・輸入共に悪化し在庫増加が顕著なULSDの需要が価格高騰等の影響を受け減少したことから直近需要が単週ベースで4,330KBD(前週比▲273KBD)、4週平均ベース4,423KBD(前週比+44KBD、+0.3MBの在庫減少要因。尚、需要増加ペースは+1.0%、例年は+0.2%)となったことから、▲0.1MBの130.916MBと、予想を下回る在庫減少となった。在庫減少の内訳を見てみると、ULSDが2週連続で+1.2MBと大幅な在庫増加となる一方で、冬場に突入したこともありヒーティングオイルの在庫が▲1.3MBの減少となった。但し、ヒーティングオイルの在庫減少は、気温低下の影響でP5以外全ての地区で減少が確認されている。FSCは29.6日(前週比▲0.3日)と過去5年平均を引き続き下回っている。ラニーニャの影響で厳冬になる可能性は高く、FSCが過去5年平均を下回る、有事におけるバッファが少ない状態であることから引き続き需給を巡る環境は厳しいと言わざるを得ないが、ディーゼル・ULSD等の輸送系燃料の需要が価格高騰の影響を受けて減少し始めている可能性はあり、ガソリンも含め輸送需要動向には注目したい。今回の統計は予想比ベアな内容であったが、しばらくの間は高い原油・石油製品価格の水準が、在庫積み増しの阻害要因となると考えられ、趨勢として高値で推移するであろうとの見通しを変更するまでの統計ではなかったと見ている。