昨日の米在庫統計は原油ブル、石油製品ブルな内容であった。基本的に価格高騰にも関わらず石油製品需要が季節性を維持しながら堅調に推移する一方で、稼働率の回復がままならないことから石油製品の需給はタイトで製品ブルな状況が続いているが、そうした需要の増加やクラックマージンの改善を背景に稼働率が上がると原油の在庫が予想を上回る大幅な在庫減少を記録してしまい、毎週非常に不安定な状況が続いている。結局のところ精製動向を背景としてブルな相場が続くことを予感させるような統計であった。詳しく見てみよう。
原油は生産が減少、輸入が大幅減少、稼働率が改善したことから在庫は市場予想比大幅に減少した。これで5週間ぶりの在庫減少となった。生産は5,045KBD(▲83KBD)と小幅減少した。輸入はP2, P5以外の全ての地区で減少、特にP3は▲957KBDとなったことから全体で▲696KBDの大幅減少となり全体で9,237KBDと、同じ時期の過去5年の最低水準9,926KBDを大きく下回る水準となった。価格高騰とドル安水準の定着が輸入を不安定なものにしている。結果、総供給量は14,282KBD(前週比▲779KBD,▲5.5MBの在庫減少要因)となった。稼働率はピークシーズン入りしていることと石油製品在庫水準が低いことから原油価格の高騰にも関わらず大幅な改善となった。稼働率は地区毎に各々P1から、▲7.4%、+1.7%、+1.5%、+4.3%、+4.4%と大幅な改善を示している。稼働率の改善は▲1.6MBの在庫減少要因となる。供給量減少、処理量の増加で在庫は前週比で▲7.1MBの▲6.9MB(先週の在庫増加は+0.2MB)となるが、実際は前週比▲5.3MBの320.4MB(過去5年平均レベル320.8MB)となった。在庫の増加率は例年は前週比▲0.2%であるが、今週は▲1.6%と大幅な減少となった。毎週コメントしているが、ひとえに価格高騰や不安定な稼動状況を背景に在庫動向はきわめてボラタイルな展開が続いている。在庫の十分・不十分を判断する上で重要なFSCも、ここまで稼働率が安定しないと通常の状態よりも統計数値としての信頼性に欠けるのだが、在庫減少・処理量増加で前週比▲0.7日の20.7日となった。過去5年の平均である20.3日を辛うじて上回る水準を維持してはいるが、供給状況が不安定な状況下余り十分な在庫があるといえない。もし例年通りの稼働率(過去5年の平均レベル)であった場合には、19.9日分の在庫しかなく過去5年平均レベルを下回ることになる。また、価格高騰が在庫積み上げの足かせになっていることも対処理量ベースの在庫水準を低く安定化させる材料となっていることは意識しておきたいところ。先週に引き続き、原油供給は十分であるものの米国には原油が様々な理由で流入しにくい状況になっていることが浮き彫りとなる統計であった。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は20.6MB(前週比+175KB)となった。
ガソリン在庫は予想と裏腹に在庫減少となった。稼働率の改善に伴い生産が増加、輸入も増加したが、需要も増加したことから小幅な在庫減少となった。生産は+124KBDの9,028KBDと、過去5年平均レベルまで生産量が低下してきている。稼働率の改善が思わしくないものの、過去最高レベルの得率(58.4%)が生産を支えているようだ。輸入は前週比+228KBDと先週から小幅回復。結果、総供給は10,171KBD(前週比+352KBD、前週比で+2.5MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,301KBD(前週比+36KBD、過去5年平均9,112KBD、▲0.3MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,3593KBD(前週比+16KBD、過去5年平均9,254KBD)となった。先週の統計に続き、需要の絶対数量は前年比ベースでマイナスとなっている。米景気の急速な悪化懸念が薄らいでいることから前年比では再びマイナスになってものの総じて消費は堅調との印象を受ける。とはいうものの「価格上昇に伴う需要の崩壊は、商品相場の一時的な上昇の終焉」を意味するため引き続き需要動向は細心の注意を払ってチェックして行く必要があろう。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+2.2MBの+0.5MBの在庫増加(先週の減少▲1.7MB)となるが、計算とは裏腹に▲0.7MBの在庫減少となった。ひとえに輸入の水準が例年比で低いことが在庫減少の主因となった。在庫減少の内訳は、その大半がBlending Componentの在庫減少によるもの(▲1.1MB)である。この結果、FSCは22.5日と先週から▲0.2日悪化し、過去5年の平均水準である22.5日に並んでしまった。このコラムでは在庫を需要で割ったForward Supply Coverを在庫の十分・不十分の判断材料としておりこの水準を上回っていれば一応在庫は足りている、判断しているがとうとうこの水準を略下回る状態となり、ピークシーズン中に在庫が不足、需給が逼迫する「需要低迷下の需給逼迫」という消費者にとって最悪な状況になる可能性が高くなってきている。今週は市場予想比ブルであり、現時点で最も重要と思われる需要も減速が見られなかったことからブルな内容であった。来週以降の統計でも需要動向に注目してゆく必要がある。
ディスティレート在庫は予想を下回る在庫増加となった。生産はULSDの生産の増加によって例年よりも大幅に増加しているが、輸入が大幅に減少したこと、需要が比較的堅調であったことから市場予想を下回る在庫増加となった。生産は稼働率の改善はあったものの得率の悪化(▲0.5%)により4,344KBD(▲8KBD)と先週から小幅に増加した。この時期の過去5年の最高水準が4,121KBDを大きく上回るレベルである。世界的なディスティレート需要の高まりによる在庫の減少ならびに、クラックの拡大によって生産は堅調であるようだ。輸入は前週比▲18KBDの198KBDとピークシーズンが終了したヒーティングオイルの輸入が減少している。尚、過去5年の同じ週の輸入の最低水準は229KBDであり、これを下回るレベルである。この結果、総供給は4,542KBD(前週比▲26KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,158KBD(前週比▲44KBD、▲0.3MBの在庫減少要因)と、前週比▲1.0%と例年の▲0.7%の需要減少率を上回る減少となった。全体のバランスでは前週比▲0.5MBの+0.8MB(先週の在庫増加は+1.3MB)となるところであるが、計算とほぼ同じく+0.7MBの在庫増加となった。総在庫は107.8MBとなり、過去5年平均レベル109.7MBを下回るレベルでの推移が続いている。在庫増加の内訳はULSDが+57KBD、ディーゼルが+288KBD、ヒーティングオイルが+383KBDとなった。FSCは25.9日(前週比+0.4日)と過去5年の最低水準である25.2日を上回り、過去5年平均レベルである27.2日を下回る水準。引き続き在庫は十分な状態とはいえない。今週の統計は市場予想比ブルな内容であった。