統計速報(2008年7月2日発表分)

 今週の米在庫統計は原油若干ブル、ガソリンベア、ディスティレートニュートラルな内容であった。原油の需給は輸入や稼働率の状況が不安定であることから略週変わりであるが、ガソリン・ディスティレートは需要が前年比割れの状態が続いてることからFSCベースで辛うじて5年平均を維持している。中東情勢不安や稼働率の不安定さも手伝って供給環境は安定していない。詳しく見てみよう。

 原油は生産は略変わらず、輸入が比較的まとまったロットで減少、稼働率が回復したことから再び在庫は減少に転じた。市場予想を上回る在庫減少となった。生産は5,123KBD(+3KBD)と小幅増加。輸入はP3以外で増加したが、P3の減少が▲660KBDと大きかったことから全体で10,168KBD(▲83KBD)となった。これは同じ時期の過去5年の平均10,176KBDを下回る水準である。結局のところ高い原油は余り買いたくない、当為ことなのだろう。結果、総供給量は15,291KBD(前週比▲80KBD、▲0.6MBの在庫減少要因)となった。稼働率は+0.6%程度の改善が予想されていたが、予想通りの+0.6%の88.6%となった。しかしながらこの水準は過去5年の最低水準である89.4%を下回るレベルであり、最終需要動向等を睨みながらの不安定な状態が続いている(▲1.4MBの在庫減少要因)。稼働率は今回はP3でのみ低下した。稼働率は地区毎に各々P1から、+3.1%、+1.9%、▲1.0%、+3.5%、+1.6%となっている。計算上在庫は前週比で▲2.0MBの▲1.2MB(先週の在庫増加は+0.8MB)となるが、計算を上回る▲2.0MBの減少となり在庫水準は299.8MB(過去5年平均レベル321.9MB)となった。弊社IEAとも供給が不十分であるとのスタンスであるが、同時に足元の価格の急騰が在庫圧縮の動きに企業を走らせている可能性が高い。FSCは在庫減少・処理量増加で前週比▲0.3日の19.1日と悪化、過去5年の平均である20.1日を依然として下回っており十分な在庫水準は維持できていない(過去5年平均維持が十分な在庫の本レポートでの定義)。もし例年通りの稼働率になった場合18.3日分の在庫しかなく、過去5年の最低レベルと略変わらないレベルとなる。在庫は過去にない低い水準になっているのだが、信用市場の悪化に伴う調達金利の上昇や素材価格自体の高騰によって在庫削減が進んでいる結果であり、依然として有事のバッファがない状態にあることは懸念材料である。中東情勢が不安定な中、十分な在庫が確保できない状況にあることは夏場の価格の押し上げ要因となろう。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は20.9MB(前週比+178KB)となった。SPR(戦略備蓄)は前週比+977KBの705.8MBとなっている。戦略備蓄は積み増さない、といったことが議論されていたように記憶しているがどこに行ってしまったのだろうか。

 ガソリン在庫は予想を上回る在庫増加となった。生産が略横ばいであった一方で輸入が増加したことから、需要が比較的堅調に推移したものの予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率の改善はあったものの、得率が▲0.5%と悪化したことから小幅減少し、▲18KBDの9,039KBDと過去5年の略平均レベル(8,939KBD)を上回るレベルを辛うじて維持した。ガソリンクラックの縮小が得率の上昇を抑えているようだ(57.6%。過去5年の最高は59.8%)。輸入は主要なP1で+221KBDとなったことから全体で前週比+194KBDの1356KBDとなった。過去5年で一番数量が多かったときが1,143KBDとなっていることからも分かるように大幅な輸入増加である。結果、総供給は10,395KBD(前週比+176KBD、前週比で+1.2MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,338KBD(前週比+57KBD、過去5年平均9,304KBD、▲0.4MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,357KBD(前週比+23KBD、過去5年平均9,420KBD)となり、再び過去5年平均レベルを割り込んだ。引き続き需要は前年比マイナス(▲2.2%)の状態が継続。前週比では+0.6%(例年+0.8%)と再び例年を下回った。少なくともこの数年見られた力強い需要の増加は見られていない。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+0.8MBの+0.6MBの在庫増加(先週▲0.2MB)となるが、計算を上回る+2.1MBの大幅な在庫増加となった。在庫増加の内訳は、その大半がRBOB(+1.3MB)である。この結果、FSCは22.6日と小幅改善、過去5年平均の22.4日はうわまわっている。「価格高騰に伴う在庫圧縮の動き」が見られると考えられることから、過去のデータと照らし合わせて単純に在庫が足りないとは言いがたいことも事実であるものの在庫の減少は「価格高騰時の消費者の買い急ぎ」を誘発することから、価格のアップサイドへのセンシティビティを高めるため引き続き注意する必要があろう。またクラックマージンの縮小が供給を不安定にさせる可能性が高いことも下支え材料となろう。今回は明確にベアな統計であったといえる。

 ディスティレート在庫は予想を下回る在庫増加にとどまった。生産が得率の悪化で小幅減少、輸入の戻りが緩慢であること、需要が堅調に推移していることから予想を下回る在庫増加となった。生産は稼働率が改善したものの得率が悪化(▲0.3%)したことから4,571KBD(▲17KBD)と小幅減少した。生産の内訳はULSDの比率が引き続き高かったものの(+43KBD)、ディーゼルオイルの生産減少(▲118KBD)がこれを相殺する形となった。尚、生産レベルは過去5年平均の4,226KBDを大きく上回っている。これは世界的なディーゼルオイル需要の高まりによるもの(同時にクラックマージンも拡大)と考えている。得率は過去5年の最高水準である25.9%をはるかに上回る29.1%となっている。輸入は前週比+42KBDの149KBDとなった。欧州地区のディスティレート需要が旺盛であることから輸入が進んでおらず、例年の200KBDのみならず過去5年の最低である142KBDをも下回っている。この結果、総供給は4,720KBD(前週比+25KBD、+0.2MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,106KBD(前週比+43KBD、過去5年平均4,021KBD、▲0.3MBの在庫減少要因)、直近需要は4,287KBD(前週比+247KBD、過去5年平均4,014KBD)と、4週平均ベース需要前年比割れの状態(前年比▲0.9%)が続いているものの、前週比ベース需要増加率が+1.1%と例年の+0.1%を大きく上回る状態が続くこととなった。全体のバランスでは前週比▲0.1MBの+2.7MB(先週の在庫増加は+2.8MB)となるところであるが、+1.3MBの在庫増加にとどまった。総在庫は120.7MBとなり、過去5年平均レベル115.7MBを上回るレベルを維持してはいるものの、在庫増加の内訳はULSDが▲0.3MB、ディーゼルが+0.3MB、ヒーティングオイルが+1.3MB。FSCは29.4日(前週比変らず)と過去5年平均水準である28.8日を回復した。ディスティレートはクラックマージンの改善もあって安定した生産が続いており、需要がそこそこ堅調であるものの安定感のある在庫水準が維持できている状態。今回の統計は市場予想比ブルであったものの、比較的ニュートラルな内容であったと考える。