先週の米在庫統計は原油ブル、ガソリンベア、ディスティレートニュートラルな内容であった。原油は今年1月以来始めて生産が5MBDを下回る中、輸入も減少、稼働率も維持されたことから市場予想を大幅に上回る在庫減少となった。一方、石油製品はガソリンが需要が不冴えであることから徐々に需給が緩和している一方、需要が堅調なディスティレートは高いクラックマージンに支えられて生産が順調であることからこちらも需給のタイト化がとりあえずは回避されている状態である。原油・ガソリン・ディスティレートとも価格高騰に伴う在庫の調整圧力が高いことは事実であり、最終需要動向を見ながら過去5年のレンジに在庫を維持する、といったディフェンシブなオペレーションが続くことになりそうだ。詳しく見てみよう。
原油は生産が大幅に減少、輸入も2週連続で大幅な減少となり、稼働率が横ばいであったことから市場予想を大きく上回る在庫減少となった。生産は4,960KBD(▲163KBD)と大幅に減少。輸入はP5(▲451KBD)を中心に大幅に減少したことから合計で前週比▲621KBDの9,547KBDとなった。生産は過去5年で最も低い水準となり今年の1月25日以来始めて5MBDを下回り、輸入も過去5年の最低である9,599KBDを下回ることとなった。結果、総供給量は14,507KBD(前週比▲784KBD、▲5.5MBの在庫減少要因)となった。稼働率は市場予想通り前週比変らずの89.2%。但し稼働率は地区ごとにまちまちであり、各々P1から、+2.1%、▲3.3%、+1.0%、▲2.7%、+0.2%となっている。計算上在庫は前週比で▲5.5MBの▲4.7MB(先週の在庫増加は+0.8MB)となるが、計算を上回る▲5.8MBの減少となり在庫水準は293.9MB(過去5年平均レベル322.2MB)となった。特に輸入が減少し稼働率が略横ばいであったP3、P5の在庫減少が顕著である(各々▲2.1MB、▲4.8MB)。弊社IEAとも供給が不十分であるとのスタンスであるが、同時に足元の価格の急騰が在庫圧縮の動きに企業を走らせている可能性が高い。FSCは在庫減少の影響で前週比▲0.4日の18.7日と悪化、過去5年の平均である20.0日を大きく下回り、十分な在庫水準が維持できていないことは明らかである(過去5年平均維持が十分な在庫の本レポートでの定義)。もし例年通りの処理量(16.1MBD)となった場合のFSCは17.9日分の在庫しかなく、とうとう過去5年の最低レベルと略変わらないレベルまで在庫が減少する可能性が出てきた。在庫は過去にない低い水準になっているのだが、信用市場の悪化に伴う調達金利の上昇や素材価格自体の高騰によって在庫削減が進んでいる結果であり否定されるべきものではないが、このような在庫水準の低さは中東不安勃発時等、有事のバッファがない状態にあることは常にアップサイドのリスクを意識させることとなろう。今年の北半球は日本を始めとして猛暑が予想されており十分な在庫が確保できない状況にあることは夏場の価格の押し上げ要因となる。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は20.4MB(前週比▲445KB)となった。SPR(戦略備蓄)は前週比+133KBの706.0MBとなっている。夏場に備えるためか引き続き米戦略備蓄積み増しの動きに減速は見られていない。
ガソリン在庫は予想を小幅上回る在庫増加となった。生産が得率の低下で減少し、輸入も大幅に減少したがガソリンが季節性を無視して減少していることから市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率の悪化、得率の悪化の影響でP1,P3以外の地区では生産が減少、▲110KBDの8,929KBDと過去5年の略平均レベル(9,013KBD)をついに下回ってしまった。ガソリンクラックの縮小がガソリン生産の増加を抑制しているようだ(56.9%。過去5年の最高は59.9%)。輸入は主要なP1、P3で各々▲169KBD、▲71KBDとなったことから全体で前週比▲193KBDの1,163KBDとなった。減少が続いてはいるが、生産。輸入とも過去5年平均程度は維持している。これはここ2〜3年は需要が堅調であったものの、徐々に需要が減少し始めていることから全体の水準が平均回帰し始めていることを意味する。結果、総供給は10,092KBD(前週比▲303KBD、前週比で▲2.1MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,322KBD(前週比▲16KBD、過去5年平均9,340KBD、▲0.1MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,347KBD(前週比▲10KBD、過去5年平均9,364KBD)となり、過去5年平均レベルを割り込んでいる。引き続き需要は前年比マイナス(▲2.9%)の状態が継続。前週比では▲0.2%(例年+0.6%)と例年をし下回る需要の伸びとなっている。急騰するガソリン価格が消費者のガソリン離れを助長していることは略明確であり、季節性を無視した需要の減少が観測されるようになって来た。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲2.3MBの▲0.2MBの在庫減少(先週+2.1MB)となるが、計算とは反対に+0.9MBの大幅な在庫増加となった。この時期、ガソリンのピークシーズンであることから、ドライブシーズン前に積み上げた在庫が減少していくタイミングであるのだが裏腹に在庫がつみ上がり始めている。在庫増加の内訳は、その大半がBlending(+0.9MB)である。この結果、FSCは22.7日と小幅改善、過去5年平均の22.4日を上回っている。ガソリンは価格高騰に伴う需要減速が明確なものとなりつつあり、在庫は徐々に積みあがっていくことが予想されるが、同時に価格高騰に伴う在庫圧縮の動きは継続すると見られることから、毎週の需要動向を睨みつつ過去5年平均レベルを維持するオペレーションが採られるものと考えられることから急落、というシナリオは描きにくい。今回の統計はベアな内容であったと考える。
ディスティレート在庫は予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率は横ばいであったが得率が改善したことから前週比増加し過去5年の最高水準を上回る生産を維持、輸入が略変わらず(但し例年よりは非常に低い水準)であったが、需要がこの時期にも関わらず堅調に推移しているものの大幅な在庫増加となった。生産は稼働率が横ばいであったが得率が改善(+0.5%)したことから4,641KBD(+70KBD)と増加した。生産の内訳はULSD・ディーゼルオイルの増加が顕著(各々+53KBD、+67KBD)。尚、生産レベルは過去5年平均の4,014KBDを大きく上回り、過去5年の最高水準である4,219KBDをはるかに上回っている。世界的なディーゼルオイル需要の高まりによるもの(同時にクラックマージンも拡大)と考えている。得率は過去5年の最高水準である25.7%をはるかに上回る29.6%となっている。輸入は前週比▲7KBDの142KBDとなった。欧州地区のディスティレート需要が旺盛であることから輸入が進んでおらず、P1の輸入水準が例年を下回っていることが大きい。この結果、総供給は4,783KBD(前週比+63KBD、+0.4MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,167KBD(前週比+62KBD、過去5年平均4,028KBD、+0.4MBの在庫増加要因)、直近需要は4,272KBD(前週比▲15KBD、過去5年平均4,035KBD)と、4週平均ベース需要は前年比プラスの+0.9%となった。この時期はガソリン需要が増加しディスティレートティレート需要が落ち込むはずななのだが、前週比ベース需要増加率が+1.5%と例年の▲0.1%を大きく上回る状態となっており、こちらも完全に季節性が壊れた状態となっている。引き続き米国内のディスティレート需要は旺盛なのであろう。全体のバランスでは前週比+0.8MBの+2.1MB(先週の在庫増加は+1.3MB)となるところであるが、+1.8MBの在庫増加にとどまった。総在庫は122.5MBとなり、過去5年平均レベル116.4MBを上回るレベルを維持している。在庫増加の内訳はULSDが+2.2MB、ディーゼルが▲1.4MB、ヒーティングオイルが+1.0MB。FSCは29.4日(前週比変らず)と過去5年平均水準である28.9日を維持している。ディスティレートはクラックマージンの改善もあって安定した生産が続いているが、価格高騰の影響もあって在庫圧縮の動きが見られるのも事実であり当面はFSCベースで過去5年水準を維持させるオペレーションが続くことになると考える。統計としてはニュートラルな内容であった。