統計速報(2008年7月16日発表分)

 先週の米在庫統計は原油ベア、ガソリンベア、ディスティレートベアな内容であった。価格高騰に伴う生産/在庫調整が大きな課題となる中、ガソリン需要の頭打ちを受けて徐々にディスティレート生産を強化できる体制になりつつあり、今のところは需給に大きな悪影響は出ていない。しかしながらこれからハリケーンシーズンに突入することもあって、いずれの原油・製品でも採用されていると考えられるFSCを過去5年のレンジに維持する、といったディフェンシブなオペレーションが有効に機能しなくなるリスクは大きい。そのため、小職は米政府がSPRを積みますことで有事の対応を行っているのではないかと考えている。詳しく見てみよう。

 原油は生産が先週の落ち込みから回復、輸入も大幅な回復となったことから、稼働率が上昇したものの大幅な在庫増加となった。生産は5,139KBD(+179KBD)と先週の大幅減少分を完全に回復。輸入はP1,P5で大幅に増加(+524KBD、+523KBD)したことから合計で前週比+1,244KBDの10,791KBDとなった。結果、総供給量は15,930KBD(前週比+1,423KBD、+10.0MBの在庫増加要因)となった。稼働率は+0.3%と市場予想を上回る改善となり、全体で89.5%(▲0.4MBの在庫減少要因)。地区ごとの稼働率の回復は前週比で各々P1から、+2.1%、+0.1%、+0.8%、▲0.5%、▲1.3%となっている。計算上在庫は前週比で+9.6MBの+3.8MB(先週の在庫減少は▲5.8MB)となるが、若干計算を下回る+3.0MBの増加となり在庫水準は296.9MB(過去5年平均レベル319.2MB)となった。輸入が大幅に回復したP1,P3での在庫増加が顕著であった(各々+0.9MB、+2.0MB)。FSCは在庫増加の影響で前週比+0.1日の18.9日と改善、過去5年の平均である19.9日を大きく下回り、十分な在庫水準が維持できていないことは明らかである(過去5年平均維持が十分な在庫の本レポートでの定義)が、クラックマージンの減少に伴う稼働率の低迷が続いており、昨年までの不足感とはやや趣が違うのは事実である。もし例年通りの処理量(16.1MBD)となった場合のFSCは18.0日分の在庫しかない。在庫はこのように過去にない低い水準になっているのだが、信用市場の悪化に伴う調達金利の上昇や素材価格自体の高騰によって在庫削減が進んでいる結果であり否定されるべきものではない。しかしながら、このような在庫水準の低さは中東不安勃発、ハリケーン直撃といった予見不能なリスク発生時には十分に対応ができる水準ではない。SPRの備蓄積み増しが価格上昇を後押ししているのでは、との見方に配慮し米議会がSPR積み増し中止を検討しているものの、殆ど毎週SPRは増加しており、現在の在庫水準が実は統計発表時から最大に増加していることは余り指摘されていない事実である。民間レベルで保有できないリスクを政府が一部肩代わりを始めている可能性は十分にありえる。但しいずれにしても政府セクターのこうした買いは相場を押し上げる効果を持つ(補助金と同じ)ことから動向には注意したいところだ。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は19.9MB(前週比▲540KB)と、再び減少傾向に転じている。

 ガソリン在庫は予想を小幅上回る在庫増加となった。生産が稼働率の改善ならびに得率の改善で増加、輸入が減少したがガソリン需要が季節性を無視して減少していることから市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率の改善、得率の改善(+0.6%)の影響でP5以外の地区では生産が回復、+128KBDの9,057KBDと過去5年の略平均レベル(9,066KBD)を略回復するに至った。ガソリンクラックの縮小がガソリン生産の増加を抑制している動きに大きな代わりはない(57.5%。過去5年の最高は58.7%)。輸入は主要なP1で▲165KBDと減少したことから全体で前週比▲147KBDの1,016KBDとなった。減少が続いてはいるが、生産。輸入とも過去5年平均程度は維持している。結果、総供給は10,073KBD(前週比▲19KBD、前週比で▲0.1MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,346KBD(前週比+23KBD、過去5年平均9,384KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,344KBD(前週比▲3KBD、過去5年平均9,433KBD)となり、過去5年平均レベルを下回る状態が続いている。引き続き需要は前年比マイナス(▲2.9%)の状態が継続。前週比では+0.2%(例年+0.2%)と今週に関しては例年通りの増加となっているが、明らかに需要の増加、というより絶対量が頭打ちになっている(9.4MBD程度)感じである。急騰するガソリン価格が消費者のガソリン離れを助長していることは明確であり、季節性を無視した需要の減少が観測されている。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲0.3MBの+0.6MBの在庫増加(先週+0.9MB)となるが、計算とは+2.4MBの大幅な在庫増加となった。ガソリンのピークシーズンであることから、ドライブシーズン前に積み上げた在庫が減少していくタイミングであるが、在庫の増加は継続している。在庫増加の内訳は、その大半がBlending(+2.0MB)である。この結果、FSCは22.9日と小幅改善、過去5年平均の22.4日を上回っている。ガソリンは価格高騰に伴う需要の絶対量の頭打ちと、価格高騰に伴う在庫圧縮の動きの両要因で、最終需要を見極めつつ過去5年平均レベルを維持するオペレーションが採られるものと考えられることから当面は現状レベルで緩やかに価格が低下していくものと考えている。今回の統計も先週に続きベアな内容であったと考える。

 ディスティレート在庫は予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率の改善、得率の改善を受けて前週比増加し過去5年の最高水準をはるかに上回る生産を維持、輸入が略変わらず、需要がこの時期にも関わらず堅調に推移しているものの大幅な在庫増加となった。生産は稼働率が改善、得率が改善(+0.5%)したことから4,736KBD(+95KBD)と増加した。生産の内訳はULSDが横ばい、ディーゼルオイルの増加が顕著(+11453KBD)。尚、生産レベルは過去5年平均の4,158KBDをはるかに上回り、過去5年の最高水準である4,519KBDも上回っている。世界的なディーゼルオイル需要の高まり、クラックマージンの高止まりが生産を増加させている一因といえる。得率は過去5年の最高水準である27.7%をはるかに上回る30.1%となっている。輸入は前週比+8KBDの150KBDとなっている。欧州地区のディスティレート需要が旺盛であることや、国内生産の増加もあって輸入が進んでいない。この結果、総供給は4,886KBD(前週比+103KBD、+0.7MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,181KBD(前週比+14KBD、過去5年平均3,981KBD、+0.1MBの在庫減少要因)、直近需要は4,126KBD(前週比▲146KBD、過去5年平均3,857KBD)と、4週平均ベース需要は前年比プラスの+1.1%となった。この時期はガソリン需要が増加しディスティレートティレート需要が落ち込むはずななのだが、前週比ベース需要増加率が+0.3%と例年の▲1.1%を大きく上回る状態となっており、こちらも完全に季節性が壊れた状態が続いている。引き続き米国内のディスティレート需要は旺盛であるといえる。全体のバランスでは前週比+0.6MBの+2.4MB(先週の在庫増加は+1.8MB)となるところであるが、+3.2MBの大幅な在庫増加となった。総在庫は125.7MBとなり、過去5年平均レベル119.6MBを上回るレベルを維持している。在庫増加の内訳はULSDが+1.2MB、ディーゼルが+0.7MB、ヒーティングオイルが+1.2MB。FSCは30.1日(前週比+0.7)と過去5年平均水準である30.1日を維持している。ディスティレートはクラックマージンの改善もあって安定した生産が続いているが、価格高騰の影響もあって在庫圧縮の動きが見られるのも事実であり、ガソリン同様にFSCベースで過去5年水準を維持させるオペレーションを継続すると見られる。統計としては予想比ベアな内容であった。