統計速報(2008年8月6日発表分)

先週の米在庫統計は原油ニュートラル、ガソリンブル、ディスティレートベアな内容であった。先週このコラムで指摘したとおり、ガソリン在庫が減少し、ディスティレート在庫が増加した。これは偏にFSCベースで過去5年平均を維持する、というオペレーションが継続していることによるものである。そろそろガソリン需要がピークに差し掛かることから、来週はガソリン、ディスティレートとも供給を増やさねばならないため、輸入の余地が限られるであろうことを考慮すると稼働率が引き上げられるものと見ている。今回の統計でも注目材料は需要とSPRの積み増し動向である。需要は価格の急落で急速な減少ペースに歯止めが掛かったようだ。一方、今週もSPRの積み増しが行われている。夏場の不慮の事態に備えるべく在庫が積み増しされていると思うのだが...。詳しく見てみよう。

 原油は生産が横ばい、輸入が再び増加稼働率も低下したことから在庫水準は増加した。生産は5,172KBD(+12KBD)。輸入はP3を除く全ての地区で増加に転じたことから全体で前週比+188KBDの10,1935KBDとなった。輸入量は過去5年平均(10,431KBD)を若干下回るレベル。結果、総供給量は15,365KBD(前週比+200KBD、+1.4MBの在庫増加要因)となった。稼働率は▲0.2%の小幅な悪化。基本的にピークシーズンであるにも関わらず需要の低迷やクラックマージンの悪化傾向もあって、稼働率は低下が続いている。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+0.2%、▲3.0%、+0.4%、+0.7%、+1.3%)。結局全体で87.0%(▲0.3MBの在庫減少要因)となった。計算上在庫は前週比で+1.1MBの+1.0MB(先週の在庫減少は▲0.1MB)となるが、計算を上回る+1.6MBの増加となった。結果、在庫水準は296.9MB(過去5年平均レベル315.3MB)となった。在庫の増加はP2,P3で顕著であった(各々+1.1MB、+1.5MB)。FSCは先週から小幅改善し変らず19.4日、過去5年の平均である19.7日は下回るが引き続き、過去5年平均と比較して需要対比で同程度の在庫をに数量をコントロールするオペレーションが継続している。尚、このレポートでは過去5年平均維持(FSCベース)が十分な在庫の定義としている。しかし足許原油の価格が夏場を前にしているにも関わらず軟化傾向にあることから、価格下落を警戒した在庫の積み増し中断の動きは徐々に緩和するものと考えられる。とはいっても今のところ依然として過去5年平均レベルを下回る在庫水準であることから、中東不安勃発、ハリケーン直撃といった予見不能なリスク発生時には十分に対応ができる水準ではないといえる。景気減速に伴う需要の減少が強くフォーカスされているが、夏場の供給途絶リスクの高まりは少なくとも後3ヶ月は忘れるべきではない。こうした夏場の不測に備え、引き続きSPRの積み増しが進んでいる。今週もSPRは706.8MB(前週比+515KB)となっている。民間レベルで保有できないリスクを政府が肩代わりを始めている可能性が高い。政府セクターの買いは相場を押し上げる効果を持つ(補助金と同じ)ことから動向には注意したいところ。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は18.7MB(前週比▲93KB)と、再び減少傾向に転じておりイールドカーブバックワーデーション化に寄与すると見ている。

 ガソリン在庫は大幅な減少となった。FSCを過去5年平均に維持するオペレーションが続いていることから当コラムでは在庫の減少を予想していたがその通りとなった。生産は稼働率が変らず得率が改善したことから小幅増加、輸入は先週に続いて減少し、需要が略横ばいであったため在庫減少となった。生産は稼働率がほぼ横ばいの中、得率が改善(+0.2%)の影響でP2、P5以外の地区で生産が悪化した。この結果+16KBDの9,061KBDとなった。しかし、過去5年平均(8,936KBD)を上回るレベルを維持している。このコラムで指摘している在庫水準(FSCベース)を過去5年平均程度に維持するオペレーションが採択されていると見られる。輸入はP3、P5で減少したことから全体で前週比▲101KBDの707KBDとなった。結果、総供給は9,925KBD(前週比▲85KBD、前週比で▲0.6MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,410KBD(前週比+34KBD、過去5年平均9,438KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,484KBD(前週比+16KBD、過去5年平均9,473KBD)となり、過去5年平均レベルの需要を回復した。価格の急落に伴い消費が持ち直していると見られる。引き続き需要は前年比マイナス(▲2.6%)の状態が継続しているが。前週比では+0.4%(例年+0.1%)と増加に転じている。弊社分析でも「可処分所得に占めるエネルギー関連支出」が過去最大だったのは1980年前半の8%で、7月中旬の時点の価格水準でこのレベルに達したものと見られ、価格下落に伴う需要の回復は期待できるものの、米国経済の悪化の可能性が高まる中徐々にその水準を切り下げていくこととなろう。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比▲0.8MBの▲4.3の在庫減少(先週▲3.5MB)となるが、計算通り▲4.3MBの大幅な在庫減少となった。ガソリンのピークシーズンであることから、ドライブシーズン前に積み上げた在庫が減少していくタイミングであるが価格の急落の影響もあって倉庫出し石油製品が増加したことによるものと考えている。在庫減少の内訳は、Conventional(▲2.5MB)、Blending(▲1.4MB)となっている。この結果、FSCは22.2日と▲0.5日悪化、過去5年平均の21.9日を維持するオペレーションが継続している。市場予想対比では明確にブルな統計であった。

 ディスティレート在庫は増加した。こちらも過去5年平均維持のオペレーションが続くと見られていたことから、季節的な在庫積み上げ時期であることもあって市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が横ばい、得率が大幅に悪化(▲0.6%)したことから4,630KBD(▲94KBD)と減少した。生産の内訳はULSD▲191KBD、ディーゼルオイル+34KBD。尚、生産レベルは過去5年平均の4,028KBDをはるかに上回り、過去5年の最高水準である4,328KBDをも上回っている。世界的なディーゼルオイル需要の高まり、クラックマージンの高止まりが生産を増加させているが、徐々に需要が減少を始め、クラックマージンが縮小し始めていることからこの動きもそろそろ転換点に指しかかっていると見ている。輸入は前週比+171KBDの292KBD(過去5年平均361KBD、過去5年最低241KBD)となっている。国内生産量が減少したことから在庫積み増しの時期でもあって輸入が増加したようだ。この結果、総供給は4,922KBD(前週比+77KBD、+0.5MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,139KBD(前週比▲30KBD、過去5年平均3,917KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)、直近需要は4,152KBD(前週比▲47KBD、過去5年平均3,997KBD)と、4週平均ベース需要は前年比プラスの+4.6%となった。前週比ベース需要増加率は+2.2%と例年の+1.1%を上回った。足許の価格下落の動きが継続していることが需要を下支えしている。全体のバランスでは週比+0.3MBの+2.7MB(先週の在庫増加は+2.4MB)となるところであるが、ほぼ計算どおりの+2.8MBの在庫増加となった。総在庫は133.3MBとなり、過去5年平均レベル124.6MBを上回るレベルを維持している。在庫増加の内訳はULSDが+0.4MB、ディーゼルが+1.4MB、ヒーティングオイルが+1.0MB。FSCは32.2日(前週比+0.9日)と過去5年平均水準である31.9日を維持するオペレーションが続いている。ディスティレートはクラックマージンが悪化し始めていることから徐々に増産のスピードが鈍化するものと見られるが、ガソリン同様にFSCベースで過去5年水準を維持させるオペレーションが今のところ継続しており最終需要の動向を見ながら在庫は一進一退の動きとなろう。統計としてはベアな内容であった。