統計速報(2008年12月3日発表分)

 今回の米在庫統計は総じて予想比ブルな内容であったものの、統計の内容自体(絶対水準自体)はベアな内容であった。石油製品需要の前年比割れの状態は深刻であり、米国経済の立ち直りには未だ時間を要することを確認する統計であった。しかし救いなのは石油製品需要が前年比マイナスではあるものの「消費の季節性は維持」されていることである。原油・石油製品価格の急落が明らかに消費を下支えしている。このまま12月の欧米主要企業決算を乗り越えられれば、少しずつ消費が回復していくことが期待される。しかし更なる価格の下落は生産者の体力をそぐことになるため供給に問題が生じさせる可能性が高く、生産者、消費者側とも余り好ましくないといえる。詳しく見てみよう。
 原油は生産が回復したが、輸入が大幅に減少したため、稼働率の大幅低下はあったものの市場予想と裏腹に在庫減少となった。生産は5,118KBD(+112KBD)と回復基調が持続。輸入は9,504KBD(▲1455KBD)と大幅に減少し、過去過去5年平均レベルを下回った。全ての地区で輸入が減少している。特にP3,P5の減少が顕著である(▲806KBD、▲375KBD)。結果、総供給量は14,622KBD(▲1343KBD、前週比9.4MBの在庫減少要因)となった。製油所の稼働率はP1, P4を除く地区で悪化している。稼働率は全体で84.3%(▲2.2%、前週比2.2MBの在庫増加要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、+1.8,▲2.5,▲2.8,+2.0,▲1.1%となっている。偏に景気後退に伴う需要減少観測の影響であろう。尚、製油所の稼働率は過去5年の最低である88.1%を大きく下回っている。計算上在庫は前週比で▲7.2MBの+0.13MBの在庫増加(先週の在庫増減は+7.3MB)となるが、実際は▲0.5MBとなった。結果、在庫水準は320.4MB(▲0.5MB)となった。在庫は輸入の大幅な減少の影響で、P3,P5での減少が顕著(各々▲0.6MB、▲1.9MB)であったが、稼働率が大幅低下しているP2で+2.2MBと大幅な増加となっている。在庫の変化はP1から順に、+0.0MB, +2.2MB, ▲0.6MB, ▲0.1MB, ▲1.9MB となっている。FSCは21.6日(+0.4日)と稼働率要因で小幅改善している。今週もSPRは放出されなかった。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は22.9MB(+2.3MB)と大幅な増加となっておりイールドカーブコンタンゴ化を協力にサポートすることになると見られる。統計としてはFSCで過去5年を上回る水準まで在庫が積みあがっており、予想比ブルであったものの総じてニュートラル〜ベアな内容であった。

 ガソリン在庫は予想に反して減少した。生産が稼働率の低下と得率の悪化で大幅に減少したが、需要が減少したためである。生産は稼働率が悪化し、得率が▲0.4%と悪化したことから8,716KBD(▲246KBD)となった。季節的に在庫が緩やかに積み増しされる時期であるため、FSCベースでの在庫水準がやや高くなっているが、総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションが続いており、クラックスプレッドがマイナスの状態が続いていることもあって生産調整が行われているようだ。輸入は884KBD(▲96KBD)と略横ばい。結果、総供給は9,600KBD(▲342KBD、前週比2.4MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,600KBD(▲342KBD、前週比2.4MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで8,935KBD(▲40.5KBD, 前週比0.3MBの在庫増加要因。過去5年平均 9,144KBD, 過去5年最高 9,283KBD, 過去5年最低 8,983KBD)と、季節要因で減少している。米景気悪化の影響で、前年比ベースの需要の減少は▲3.5%とマイナスの状態が続いており、前週比需要伸び率は▲0.5%(例年±0.0%)と季節性は維持しているものの、若干例年よりも減少のペースが早いようである。以上を合計するとバランス上は在庫は▲2.1MBの▲0.3MBの在庫減少(先週の在庫増減は+1.8MB)となるが、計算を下回る▲1.5MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional92.6MB(▲12.6MB)、Blending105.5MB(+1.8MB)となっている。この結果、FSCは22.3日(▲0.1日)と在庫要因で小幅悪化。しかし、過去5年の最高水準である22.3日と同レベルであり、明らかに本コラムで定義する「安全レベル」まで在庫が積み上がっている状態。最終需要動向は不況とはいいつつも徐々に落ち着きを取り戻しつつあることや、政府の相次ぐ経済・金融政策の影響で資金繰りへの過度な懸念が若干後退していること、価格水準自体が低くなっていること、季節的に在庫が緩やかに増加する時期であること、から徐々に在庫水準が切り上がってきている状況。今のところ、供給の途絶に伴う価格の急騰リスクは以前に比して大きく低下していると見ておくべきだろう。但し、更なる経済危機の発生により資金調達に懸念が生じるような場合にはこの限りではない。統計としては市場予想比若干ブルであったが、総じてベアな状態にあることを確認する統計であった。

 ディスティレート在庫は市場予想と裏腹に減少した。生産は稼働率が悪化し得率が▲1.3%と悪化したことから4,314KBD(▲295KBD)と大幅に減少。生産の内訳はULSD3,112KBD(▲230KBD)、ディーゼルオイル668KBD(▲78KBD)、ヒーティングオイル534KBD(+13KBD)。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,302KBDを上回るレベルでの推移が続いている。原油価格の急落に伴うディスティレートクラックの拡大により、ガソリン対比でディスティレートの生産増加のインセンティブが高まっていることや、消費の崩壊に歯止めが掛かりつつあること、燃費を重視したディーゼル車へのシフトが起きていることなどが生産の大幅な増加の要因である。輸入は116KBD(▲118KBD)と減少し、過去5年平均である928KBDを再び下回った。この結果、総供給は4,430KBD(▲413KBD、前週比2.9MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,430KBD(▲413KBD、前週比2.9MBの在庫減少要因)、直近需要は3,990KBD(▲34.5KBD, 前週比0.2MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,203KBD, 過去5年最高 4,423KBD, 過去5年最低 3,977KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲9.9%と大幅な悪化が続いているが、前週比ベース需要増加率は▲0.9%と例年の▲1.0%(冬場に入る前の端境期で需要が一旦減少する時期)程度となっており、季節性は維持できている。しかしガソリンも含めた米国の輸送需要は、季節性こそ戻ってきたものの全体的に地盤沈下している状態に変わりはない。全体のバランスでは前週比▲2.6MBの▲2.8MBの在庫減少(先週の在庫増減は▲0.2MB)となるところであるが、▲1.7MBの在庫減少となった。総在庫は125MB(▲1.7MB, 過去5年平均 127.0MB, 過去5年最高 132.8MB, 過去5年最低 115.6MB)となり、過去5年平均レベル127.0MBを再び下回った。製品毎の在庫の内訳はULSDが66.9MB(+2.5MB)、ディーゼルが18.5MB(+0.4MB)、ヒーティングオイルが39.6MB(▲14.9MB)。FSCは31.3日(▲0.2日)となった。これは過去5年平均水準である30.3日を上回る水準であり、安全水準を確保できている。価格下落や政府の経済対策の影響で以前に比して在庫が積み増し易い環境にあると考えられるが、更なる経済危機が発生した場合にはこの限りではない。統計としては市場予想比ブルではあるが、総じてベアな内容であった。