統計速報(2009年3月25日発表分)

 今回の米在庫統計は原油ベア、ガソリンブル、ディスティレートブルな内容であった。ここ数週間、石油製品の需要・在庫動向を睨みながら原油の処理量が調整されているが、稼働率が上がった場合には石油製品在庫が増加し、低下した場合はその逆、という所謂需要が余り大きな影響を与えない状態となっている。特にディスティレート在庫の積み上がりが大きく、この在庫水準を適正レベルまで持っていかなければ、健全な生産消費活動にはなりにくい。しかし、需要の回復が脆弱な中、こういった「つみあがってしまった現物の処理」には相応の時間を要することになると考えている。詳しく見てみよう。
 原油は生産が横ばい、輸入が増加、稼働率が横ばいであったことから先週に続き大幅な在庫増加となった。生産は5,432KBD(+18KBD)と過去5年の平均水準を回復している。輸入は9,384KBD(+204KBD)とP1、P4で減少、P3,P5で増加している。輸入量は在庫水準の高さを映じて過去5年のレンジの加減での推移となった。結果、総供給量は14,816KBD(+222KBD、前週比1.6MBの在庫増加要因)となった。製油所の稼働率はP3、P5で改善したものの、その他の地区、特にP1での悪化が著しかった。稼働率は全体で82.0%(▲0.2%、前週比0.2MBの在庫増加要因)。地区ごとの稼働率の変化はP1から順に、▲9.2%,▲5.9%,+2.5%,▲2.1%,+4.8%となっている。石油製品の在庫水準をFSCベースで過去5年のレンジに収めるため輸入量・稼働率の調整を要求されている。結局、製油所の稼働率は過去5年の最低水準を年初以降、一度も上回っていない。計算上在庫は前週比で+1.7MBの+3.66MBの在庫増加(先週の在庫増減は+1.9MB)となるが、略計算どおり+3.3MBとなった。結果、在庫水準は356.6MB(+3.3MB)となった。在庫は稼働率が大幅に改善したP5で減少しているもののその他の地区ではすべて増加している。在庫量の変化はP1から順に、+0.0MB, +1.2MB, +3.5MB, +0.2MB, ▲1.6MB となっている。FSCは24.7日(+0.3日)と在庫・稼働率両要因で上昇、過去5年レンジの上限を上回る状態が継続している。今週は1.8MB、SPRが積み増しされた。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は31.7MB(▲2.2MB)と大幅に減少、イールドカーブのフラット化に寄与することとなろう。統計としては明確にベアな内容であった。
 ガソリン在庫は予想を大きく上回る在庫減少となった。稼働率が低い水準で推移している中、輸入も減少、需要が回復したことから市場予想を上回る在庫減少となった。生産は稼働率が悪化し、得率が▲0.9%と悪化したことから8,723KBD(▲145KBD)となった。季節的には在庫がウィンターグレードからサマーグレードに転換する時期であり、在庫は減少し易い。しかしながら総じてFSCを過去5年のレンジ内に留めるオペレーションを継続させている。しかし、過去5年レンジの最低水準にFSCが近づいており、需給に影響が出てもおかしくない水準である。輸入は1,136KBD(▲13KBD)と減少。結果、総供給は9,859KBD(▲158KBD、前週比1.1MBの在庫減少要因)となった。需要は4週平均ベースで9,859KBD(▲158KBD、前週比1.1MBの在庫減少要因)、直近需要ベースで9,058KBD(+22.5KBD, 前週比0.2MBの在庫減少要因。過去5年平均 9,048KBD, 過去5年最高 9,178KBD, 過去5年最低 8,950KBD)となった。経済対策の影響等もあり、消費は若干鈍化したものの堅調な推移となっている。前年比ベースの需要の減少は引き続き▲0.2%とマイナスの状態が続いている。需要の前週比での変化率も+0.2%と例年の+0.3%と略例年の季節性を維持できている。比較的ガソリンの需要は堅調であると考えているのだが、季節性を意識した消費の動きは緩慢だ。以上を合計するとバランス上は在庫は▲1.3MBの+1.9MBの在庫増加(先週の在庫増減は+3.2MB)となるが、計算を上回る▲1.1MBの在庫減少となった。在庫変化の内訳は、Conventional87.7MB(▲9.8MB)、Blending125.9MB(+1.1MB)となっている。この結果、FSCは23.7日(▲0.2日)と先週から上昇し、過去5年のレンジ内に収まってはいるものの、低い水準となっている。最終需要動向は不況とはいいつつも落ちつきを取り戻しつつあり、徐々に下値が切り上がってきている。統計としては久しぶりにブルな内容であった。
 ディスティレート在庫も市場予想を上回る在庫減少となった。生産は稼働率が悪化し得率が▲2.6%と悪化したことから3,713KBD(▲381KBD)と減少。生産の内訳はULSD2,744KBD(▲191KBD)、ディーゼルオイル641KBD(▲86KBD)、ヒーティングオイル328KBD(▲104KBD)。尚、生産レベルは過去5年の平均水準3,839KBDをとうとう下回った。在庫の著しい積み上がりを受け、生産調整を余儀なくされている。輸入は449KBD(+346KBD)と大幅に増加し、過去5年レンジを上回った。この結果、総供給は4,162KBD(▲35KBD、前週比0.2MBの在庫減少要因)となった。4週平均需要は4,162KBD(▲35KBD、前週比0.2MBの在庫減少要因)、直近需要は3,799KBD(▲15KBD, 前週比0.1MBの在庫増加要因。過去5年平均 4,239KBD, 過去5年最高 4,537KBD, 過去5年最低 3,899KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲10.3%と大幅な悪化、また前週比▲0.4%(例年▲1.8%)と若干回復している。欧米の寒波の影響が弱まる中、季節性を無視した需要の減少が見られるようになって来た。全体のバランスでは前週比▲0.1MBの▲0.0MBの在庫減少(先週の在庫増減は+0.1MB)となるところであるが、▲1.6MBの在庫増加となった。総在庫は144MB(▲1.6MB, 過去5年平均 115.3MB, 過去5年最高 126.7MB, 過去5年最低 107.3MB)となり、過去5年最高レベル126.7MBを上回っている。この時期、ディスティレート在庫は減少するのだが、年明け以降増加を続けている。ガソリンのFSCが低く、得率の引き上げで対応しているが60.4%はこの時期の過去最高水準であり、「欲しくないがディスティレートが生産されてしまう」状態が続いているようだ。製品毎の在庫の内訳はULSDが85.9MB(▲10.6MB)、ディーゼルが20.2MB(▲7.6MB)、ヒーティングオイルが37.8MB(+7.1MB)。FSCは37.9日(▲0.3日)となった。これは過去5年の最高水準である29.6日を大きく上回るレベルであり、明らかに多すぎである。統計としては市場予想比ブルな内容であるも、総じてベアな内容であった。