統計速報(2008年6月4日発表分)

 昨日の米在庫統計は原油ブル、ガソリンベア、ディスティレートベアな内容であった。価格高騰の影響で原油・石油製品とも在庫圧縮の動きが出始めているものの、先週についてはクラックマージン、特にガソリンクラックの拡大の影響で生産が順調であったことから稼働率の大幅改善と相俟って、原油ブル、石油製品ベアな統計であったと言える。現状、過去のデータがあまり当てにならない状態になってきているが、需要在庫を割ったFSCベースでは十分な在庫があるとは言えないことから有事のバッファが少なく「ベアな統計であったもののあまりベアと捉えにくい」内容であったと言える。詳しく見てみよう。

 原油は生産が小幅増加、輸入が大幅に増加したものの、稼働率が大幅に回復したことから在庫は市場予想比大幅な減少となった。これで3週連続の在庫減少となっており原油在庫は顕著な減少傾向を維持している。これは高い価格の在庫は保有したくないことに伴う在庫圧縮の動きであると考えられ暫くこの動きは続くことになろう。生産は5,139KBD(+11KBD)と小幅増加した。輸入はP1で▲305KBDと大幅な減少となったものの他の地区全てで増加となったことから全体で+827KBDの大幅減少となり9,786KBDとなった。これは同じ時期の過去5年の最低水準10,018KBDを大きく下回る水準である。結果、総供給量は14,925KBD(前週比▲838KBD、+5.9MBの在庫増加要因)となった。稼働率は+0.5%程度の改善が予想されていたが先週+1.8%の大幅な回復となった(▲2.4MBの在庫減少要因)。ガソリン価格やディスティレート価格の上昇に伴うクラックマージンの改善がその主因であろう。但し過去5年の最低91.1%を下回っている。稼働率は地区毎に各々P1から、▲3.8%、+1.2%、+3.2%、+2.5%、+1.9%となっている。供給量増加を処理量の大幅な伸びが上回り、計算上在庫は前週比で+3.5MBの▲5.4MB(先週の在庫増加は▲8.9MB)となるが、実際は前週比▲4.8MBの306.8MB(過去5年平均レベル321.6MB)となった。この時期に在庫が大幅に減少したことは過去6年で1度もなく、やはり足元の価格の急騰が在庫圧縮の動きに企業を走らせている可能性が高いと言ってよかろう。FSCは在庫減少・処理量増加で前週比▲0.7日の19.4日となった。過去5年の平均である20.1日を下回っており、このコラムで定義している十分な在庫水準は維持できていない。もし例年通りの稼働率になった場合18.7日分の在庫しかなく、はっきり言って在庫は過去にない低い水準になっているといえる。産油国の生産増加の影響もあって実際のところ原油の供給自体は十分であると考えられるが、信用市場の悪化に伴う調達金利の上昇や素材価格自体の高騰によって在庫削減を余儀なくされているものであり、依然として有事のバッファがない状態にあることは懸念材料である。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は21.8MB(前週比+444KB)となった。

 ガソリン在庫は予想を上回る増加となった。稼働率の回復と得率の悪化で生産が横ばいであったが、輸入が大幅に増加したことや、需要の減少によって予想を上回る在庫増加となった。生産は+15KBDの9,113KBDと、過去5年の最高レベルを維持している。輸入は稼働率の大幅に低下したP1で前週比+282KBDと増加したことから全体で前週比+287KBDとなった。結果、総供給は10,423KBD(前週比+302KBD、前週比で+2.1MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで9,301KBD(前週比+46KBD、過去5年平均9,207KBD、+0.3MBの在庫増加要因)、直近需要ベースで9,129KBD(前週比▲244KBD、過去5年平均9,206KBD)となった。引き続き前年比マイナス(▲1.6%)の状態が続いている。今週の統計でポイントとなるのが、「ガソリンの需要の減少がやや季節性を無視して減少していること」である。例年であれば前週比+0.3%の増加となるところであるが今週は前週比▲0.5%の減少となっており、同じ週で過去需要が前週比で減少したのが2003年の時のみであることを考えると、価格高騰が需要の足かせになりつつある可能性が出てきた。今までは季節性が破壊されるほどの需要減少は見られていなかったことからこのことは注目に値する。但し毎度のことであるが今回の統計のみを以って需要が減少したと断じるのは早計であろう、以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+2.4MBの▲0.9MBの在庫減少(先週の減少▲3.3MB)となるが、計算とは裏腹に+2.9MBの在庫増加となった。在庫増加の内訳は、その大半がConventionalが+1.6MB、Blending Componentが+1.2MBとなっている。この結果、FSCは22.5日と先週から+0.4日改善し、過去5年の平均水準である22.4日を辛うじて回復した。しかしながらこれに関しても価格高騰に伴う在庫圧縮の動きが見られると考えられることから、過去のデータと照らし合わせて単純に在庫が足りない、とは言いがたいことも事実である。今回は数値の上では明らかにベアな内容であり、特に顕著に需要が減少していることが最大のポイントであろう。

 ディスティレート在庫も予想を上回る在庫増加となった。生産が例年よりも高い水準を維持したことから、輸入が減少、需要が小幅増加したものの市場予想を上回る在庫増加となった。生産は稼働率が大幅に改善、得率が改善(+0.6%)したことから4,506KBD(+191KBD)と先週から大幅に増加した。この時期の過去5年の最高水準が4,294KBDであることを考えるときわめて高い水準の生産レベルであるといえる。世界的なディスティレート需要の高まりによる在庫の減少、クラックの拡大によって生産は引き続き堅調である。生産の内訳はULSDの生産が引き続き増加(+92KBD)したこと、ヒーティングオイルの生産が増加(+97KBD)したことが大きい。輸入は前週比▲39KBDの211KBDとなった。欧州地区のディスティレート需要が旺盛であることから輸入が促進していない。この結果、総供給は4,717KBD(前週比+152KBD、+1.1MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は4,125KBD(前週比▲19KBD、▲0.1MBの在庫減少要因)と、需要増加率は前週比▲0.4%と例年の▲0.1%の需要増加率を下回った。また、前年比ベースでは▲1.0%とガソリン同様前年比マイナスの状態が続いている。全体のバランスでは前週比+1.0MBの+2.6MB(先週の在庫増加は+1.6MB)となるところであるが、計算を若干下回る+2.3MBの在庫増加となった。総在庫は111.7MBとなり、過去5年平均レベル111.6MBを回復している。在庫増加の内訳はULSDが+1.0MB、ディーゼルが+1.2MB、ヒーティングオイルが変わらずであった。FSCは27.1日(前週比+0.7日)と過去5年平均水準である27.9日を下回る水準となっている。引き続き在庫は十分な状態とはいえないが原油・ガソリンと同様、在庫の圧縮の動きが出ているようである。あまり過去5年の実績との比較が意味を持たなくなってきてることは注意したいところである。今回の統計は素直に在庫が増加したことを受け、ベアな内容(でも在庫が少ないので、そこまでベアではない)であったと言える。