今回の米在庫統計は原油ベア、ガソリンベア、ディスティレートニュートラル〜若干ブルな内容であった。米景気の失速に伴う輸送需要の減少が続いていることが、ハリケーンの影響による在庫の減少を相殺、全体的に市場規模を縮小させながら市場がバランスしている状態である。今後のポイントはやはり最終需要動向と、信用収縮の影響に伴う在庫圧縮の動きであるが、同時に意識せねばならないのは、「天災時に十分な在庫を有している状態ではない」ということであろうか。しかしいずれにしても市場のセンチメントは完全にベアに傾いて折り、大きな材料が出ない限りは統計が積極的な相場転換の切っ掛けとなる可能性は低いと見られる。詳しく見てみよう。

 原油は生産が回復し、輸入が減少、稼働率が上昇したため先週から在庫増加幅が減少した。生産は4,422KBD(+583KBD)とハリケーンの影響がなくなったことから順調に生産が回復してきている。また、ハリケーンの影響を受けずに済むことから輸入が過去の水準と比較しても高いレベル(10,161KBD、過去5年の最高レベル10,364KBD)を維持している。ただし大幅に増加した先週の反動減の影響もあってP1,P5以外では前週比輸入量が減少した。結果、総供給量は14,733KBD(前週比▲35KBD、▲0.2MBの在庫減少要因)となった。ハリケーンの影響で製油所の稼動停止が続いていたが回復基調にあり、P2,P5以外で大幅に稼働率が改善している。石油製品在庫水準が低下してしまったことから増産を急いでいるようである。全体では82.2%と先週から1.3%回復している(前週比▲1.8MBの在庫減少要因)。地区毎の稼働率の変化はP1から順に、6.9%、▲2.8%、+4.4%、+1.3%、▲5.1%。計算上在庫は前週比で▲1.9MBの+6.2MB(先週の在庫増加は+8.1MB)となるが、計算を若干下回る+5.6MBの在庫増加となった。結果、在庫水準は308.2MB(過去5年平均レベル304.0MB)となった。在庫の増加はハリケーンの影響がなくなったことによる生産の回復と輸入の回復によるもので特にP3の在庫増加が顕著であった(+2.4MB)が、P1で0.7MB、P2で1.5MB、P5で1.1MBの在庫増加と、P4以外の全ての地区で在庫が増加している。FSCは21.3日(▲0.1日)と稼働率要因で略過去5年平均レベルを維持している。稼働率要因で悪化している。もし例年の稼働率レベルを回復した場合、20.7日分の在庫水準と、このレポートで十分な在庫の定義としている過去5年平均レベルを略維持しており、景気悪化に伴う需要の減速によって徐々に在庫のレベルが適正なレベルに収斂してきている。今週も一部、SPRが放出されている。数量は280KB。イールドカーブの形状に大きな影響を与えると考えられるCushing在庫は14.9MB(前週比+543KB)と増加している。統計としては市場予想比明確にベアな内容であった。

 ガソリン在庫は予想を大幅に上回る在庫の増加となった。生産は稼働率と得率の改善によって前週比大幅に増加、輸入も堅調、需要が価格下落の影響などによって増加したものの、市場予想を上回る在庫増加となった。
 生産は稼働率の改善と得率の改善(+0.6%)を受けて+228KBDの9,164KBDと9MBD台を回復(過去5年平均8,518KBD、過去5年の最高水準8,932KBD)し、同じ時期の過去最高の生産量となった。ハリケーンの影響で湾岸地区の製油所の稼動が止まっていたことによる在庫水準の著しい低下を補うための生産増加が続いている。輸入はP1で+199KBDとなったが、稼働率の上昇によって生産が増加したP3で▲178KBDとなったため全体で前週比+18KBDの1,452KBDとなった(過去5年の最高水準1,423KBDを上回る)。結果、総供給は10,616KBD(前週比+246KBD、前週比で+1.7MBの在庫増加要因)となった。需要は4週平均ベースで8,764KBD(前週比▲3KBD、過去5年平均 9,053KBD、過去5年の最低 8,783KBD、在庫変動要因とならず)、直近需要ベースで8,894KBD(前週比+203KBD、過去5年平均 9,071KBD、過去5年の最低 8,840KBD)となり、過去5年最低水準近辺での推移となっている。価格の急落が消費を下支えしたようである。しかし米景気悪化の影響で消費は明らかに影響を受けており、前年比ベースの需要の減少は▲4.8%、前週比需要伸び率は±0.0%(例年±0.0%)と、季節性を無視した異常な需要減少には歯止めが掛かったものの引き続き前年の水準を大きく下回る状況が続いている。以上を合計するとバランス上は在庫は前週比+1.7MBの+8.9MBの在庫増加(先週+7.2MB)となるが、計算を下回る+7.0MBの在庫増加となった。在庫変化の内訳は、Conventional+4.5MB、Blending+2.8MBとなっている。この結果、FSCは22.1日と+0.8日改善、過去5年平均の22.0日をようやく回復するに至った。最終需要動向が不透明なこと、金融不安を背景とした資金調達難から在庫の更なる積み増しが積極的に行われるとは考えにくく、引き続き需要を睨みながらFSCを過去5年程度に維持するオペレーションが続くことになろう。ハリケーンなどの天災が発生しなければこのオペレーションは有効に機能すると見られるが、信用収縮で資金調達の自由度が低下している環境下、「危機時に対応できる在庫の維持」が難しくなっていることは意識するべきである、統計としては市場予想比明確にベアな内容であった。

 ディスティレート在庫は市場予想に反して減少した。生産は稼働率、得率の改善(+0.6%)により4,184KBD(+155KBD)と大幅に増加。生産の内訳はULSD+279KBD、ディーゼルオイル▲63KBD。尚、生産レベルは過去5年の最高水準4,171KBDを再び上回ることになった。偏にハリケーンの影響がなくなったことによる。輸入は前週比▲74KBDの91KBDと過去最低水準を大幅に下回っている。価格の急落と需要の減少の影響で輸入が鈍化してきていることが鮮明になっている。この結果、総供給は4,275KBD(前週比+81KBD、+0.6MBの在庫増加要因)となった。4週平均需要は3,888KBD(前週比+69KBD、過去5年平均4,021KBD、+0.5MBの在庫増加要因)、直近需要は4,004KBD(前週比+76KBD、過去5年平均4,180KBD、過去5年最低4,004KBD)と、4週平均ベース需要は前年比▲8.4%と大幅な悪化となったが、前週比ベース需要増加率は+1.8%と例年の+1.8%と同じとなり、価格の急落に伴い一旦買い支えが入ったようである。しかしガソリンも含めた米国の輸送需要は、季節性こそ若干戻ってきたものの全体的に地盤沈下している状態だ。全体のバランスでは前週比+0.1MBの▲0.4MB(先週の在庫減少は▲0.5MB)となるところであるが、略予想通りの▲0.5MBの在庫減少となった。総在庫は122.1MBとなり、過去5年平均レベル133.3MB、過去5年の最低である123.4MBをも下回る水準となっている。在庫変化の内訳はULSDが▲1.3MB、ディーゼルが+1.2MB、ヒーティングオイルが▲0.2MB。FSCは31.4日(▲0.7日)となった。これは過去5年平均水準である33.1日を大きく下回る状態であり、ディスティレート在庫の水準は非常に低い水準を維持していることを示す。ただし最終需要の弱さや信用収縮の影響で在庫圧縮の動きが見られている可能性も高く、一概には言えないがいずれにしても天災等のトラブル発生時には対応が取れる在庫水準でないことは念頭においておくべきである。統計としては市場予想比若干ブルな内容であった。